表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第四章 2節   <13話>
107/200

<13話>  「Laudamus te, benedicimus te, adoramus te, glorificamus te.」   =Dパート=

Laudamus te, benedicimus te, adoramus te, glorificamus te.

褒め称え、感謝し、崇拝いたします、栄光あれ



その後、奥の個室に案内された。

髭のおじ様はユアヒムという名で、やはりギルドの幹部だった。

先程の件については、全く聴取されなかった。

それどころか、逆に謝罪を受けた。



土地勘のあるエミアスが、状況を整理して説明してくれた。

「魔王軍のせいで、普通の船は東方へは行かないのだそうです。行くのは軍艦のみです」


「なるほど。でも、困ったわね。船がない……となると」


「はい。東へ進むと魔王軍が現在の巣窟にしている大きな島があり、更に東に進むと滅ぼされた国があります。そこには魔王の城もあります」


(その城の遙か上空が、私がこの世界へやって来た辺りか)


エミアスは続ける。

「そして聖母教の総本山は、その滅ぼされた国より更に東となります」


「んー。困ったね。でも何か代替案があるんじゃないの? まぁ最悪、北に戻って陸路ってのもある訳だし」


「ええ。現在は、魔王軍を避ける南回りのルートが活用されています。少し遠回りとなりますが、比較的安全に航行出来るそうです」


「お。いいね」


「ただ、やはり船の確保が厳しいと思われます。貿易商ギルドは現在、王国軍に依頼し護衛をして貰っているそうなのです。そこで傭兵ギルドも下請けしているので詳しいのだそうですが、十隻以上の船団を組んでいるそうでして、数隻程度での民間船の航行は認められないそうです。そして次の集団出航日は未定だとの事です」


(小学生の集団登校みたいな事になっているのね……)


「じゃあ、貿易商ギルドに向かっても無駄ね……」


「はい。そうなりますね」


「安全な航路があっても、船がないと話にならないわね。どうする? 漁業ギルドを当たってみる?」


「そうですね。でもそれは奥の手に取っておきましょう。まずは、ここ貿易港ヴァノスよし少し西にある軍港トゥーリン・ガルを目指し、そこで掛け合ってみる事にします。なんでも、現在そこには遊撃部隊が駐屯しているそうでして、協力を得られるかも知れないとの事です」


「おー。傭兵ギルドへ最初に来て正解だったわね。どうする? 直ぐに向かう? 明日にする?」


「明日にしましょう!」

答えたのはイリーナだった。


「仰せのままに」

エミアスは目を一度瞑った後に、会釈した。



私たちは当初の予定にあった貿易商ギルドへは向かわず、中心街にある酒場へと来ていた。


「さすが港街だわ。大衆向けの酒場ですらこんなに美味しいなんて。鮮度がっていうレベルじゃないわね」

私は赤身の魚を口に含んだ。

魚の油が、口の中に広がる。

だが、俗にいう油臭さや生臭さは一切感じない。

そして噛む毎に旨味が生まれてくる。


(めっちゃワサビが欲しい( ^ω^;)・・・)


私は炭酸の入った果実酒を飲んでいる。

スパークリンワインに近い味だ。

果実のほのかな酸味が、魚の後味と混ざり、更なる食欲を刺激する。


「帝国のアワアワとジャンクフードも美味しかったけれど、これも良いわね」


「お姉様、上機嫌ですね」


「あら、暴走したイリーナに言われたくないわ」


「あ、はい。すみません。反省しています。でも後悔はありませんよッ!」

何故か決意の籠った表情のイリーナ。


(また、やらかすな……)


私はエミアスの方を見た。

エミアスはイリーナの返答に対してわざとであろう、眉を顰めてあからさまに嫌そうな表情をしていた。


イリーナはエミアスの方を見ずに、紫色をした小粒の魚卵をスプーンで口に運んでいた。

欲張りすぎたからか、数粒が口元に入れる時にテーブルへと落ちていった。

イリーナの表情は、エミアスとは対照的に幸せそうだ。


「ほら、イリーナ、溢しているわよ。珍しいわね」


「あ、すみません。お姉様。それにしても、ここの魚介類は美味しいですね」

そう言うと、イリーナは魚卵をスプーンで再びすくう。

「お姉様、あ~~ん」


「えっ!?」

戸惑いながらも、魚卵の誘惑に負けて、口を開けてしまった。

「あーーん」

少し塩分が強く感じたが、プチプチとした食感と共に、濃厚な味わいが広がる。

そして直ぐに口の中から消えていった。


「美味しいね! ヴァノス! 魚卵最高!」

思わず、大きな声で叫んでしまった。


すると酒瓶を持った男が、上機嫌に笑いながら声を掛けて来た。

「どうだ! ウメーだろ。この店が出しているのは、俺たちが今朝捕まえた魚だからな」


どうやら、この街の漁師のようだ。


「どうだい? 一緒に飲まねえか? 店長に頼んで、普段食べられない部位を出させてやるぜ」


傭兵ギルドの痴漢男たちとは違い、この男は人が良さそうな顔をしている。

大丈夫だろうと思い、相席する事とした。


(それにしても、痴漢男たちと比べて腕の太さが二倍位あるんですが……)


「おー座りねー。座りねー」


「おいおい、あんまり若い娘を連れて来るなよ。故郷の妻と娘に会いたくなっちまうじゃねえか」


「おいおい。とか言っときながら、鼻の下伸びとるぞ」


「すみません。お邪魔します」

「お邪魔しますッ!」

「失礼いたします」


「おー。エルフの嬢ちゃんは、もしかして修道女か何かか? 聖叉せいさ付けてるし」


エミアスは可愛らしく声を作って答えた。

「はい。修行の身です。不束者ですが、ご合席宜しくお願い致します」


(おえー)


私はエミアスを驚き見つめた。

エミアスが一瞬だけ私を睨み返したように感じた。


(ともあれ、エミアスの機嫌が少し良くなれば嬉しいわ。ストレス貯め過ぎなんだよね。まぁ、原因はウチらなんだが……)



Eパートへ つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ