<13話> 「Laudamus te, benedicimus te, adoramus te, glorificamus te.」 =Dパート=
Laudamus te, benedicimus te, adoramus te, glorificamus te.
褒め称え、感謝し、崇拝いたします、栄光あれ
その後、奥の個室に案内された。
髭のおじ様はユアヒムという名で、やはりギルドの幹部だった。
先程の件については、全く聴取されなかった。
それどころか、逆に謝罪を受けた。
土地勘のあるエミアスが、状況を整理して説明してくれた。
「魔王軍のせいで、普通の船は東方へは行かないのだそうです。行くのは軍艦のみです」
「なるほど。でも、困ったわね。船がない……となると」
「はい。東へ進むと魔王軍が現在の巣窟にしている大きな島があり、更に東に進むと滅ぼされた国があります。そこには魔王の城もあります」
(その城の遙か上空が、私がこの世界へやって来た辺りか)
エミアスは続ける。
「そして聖母教の総本山は、その滅ぼされた国より更に東となります」
「んー。困ったね。でも何か代替案があるんじゃないの? まぁ最悪、北に戻って陸路ってのもある訳だし」
「ええ。現在は、魔王軍を避ける南回りのルートが活用されています。少し遠回りとなりますが、比較的安全に航行出来るそうです」
「お。いいね」
「ただ、やはり船の確保が厳しいと思われます。貿易商ギルドは現在、王国軍に依頼し護衛をして貰っているそうなのです。そこで傭兵ギルドも下請けしているので詳しいのだそうですが、十隻以上の船団を組んでいるそうでして、数隻程度での民間船の航行は認められないそうです。そして次の集団出航日は未定だとの事です」
(小学生の集団登校みたいな事になっているのね……)
「じゃあ、貿易商ギルドに向かっても無駄ね……」
「はい。そうなりますね」
「安全な航路があっても、船がないと話にならないわね。どうする? 漁業ギルドを当たってみる?」
「そうですね。でもそれは奥の手に取っておきましょう。まずは、ここ貿易港ヴァノスよし少し西にある軍港トゥーリン・ガルを目指し、そこで掛け合ってみる事にします。なんでも、現在そこには遊撃部隊が駐屯しているそうでして、協力を得られるかも知れないとの事です」
「おー。傭兵ギルドへ最初に来て正解だったわね。どうする? 直ぐに向かう? 明日にする?」
「明日にしましょう!」
答えたのはイリーナだった。
「仰せのままに」
エミアスは目を一度瞑った後に、会釈した。
私たちは当初の予定にあった貿易商ギルドへは向かわず、中心街にある酒場へと来ていた。
「さすが港街だわ。大衆向けの酒場ですらこんなに美味しいなんて。鮮度がっていうレベルじゃないわね」
私は赤身の魚を口に含んだ。
魚の油が、口の中に広がる。
だが、俗にいう油臭さや生臭さは一切感じない。
そして噛む毎に旨味が生まれてくる。
(めっちゃワサビが欲しい( ^ω^;)・・・)
私は炭酸の入った果実酒を飲んでいる。
スパークリンワインに近い味だ。
果実のほのかな酸味が、魚の後味と混ざり、更なる食欲を刺激する。
「帝国のアワアワとジャンクフードも美味しかったけれど、これも良いわね」
「お姉様、上機嫌ですね」
「あら、暴走したイリーナに言われたくないわ」
「あ、はい。すみません。反省しています。でも後悔はありませんよッ!」
何故か決意の籠った表情のイリーナ。
(また、やらかすな……)
私はエミアスの方を見た。
エミアスはイリーナの返答に対してわざとであろう、眉を顰めてあからさまに嫌そうな表情をしていた。
イリーナはエミアスの方を見ずに、紫色をした小粒の魚卵をスプーンで口に運んでいた。
欲張りすぎたからか、数粒が口元に入れる時にテーブルへと落ちていった。
イリーナの表情は、エミアスとは対照的に幸せそうだ。
「ほら、イリーナ、溢しているわよ。珍しいわね」
「あ、すみません。お姉様。それにしても、ここの魚介類は美味しいですね」
そう言うと、イリーナは魚卵をスプーンで再び掬う。
「お姉様、あ~~ん」
「えっ!?」
戸惑いながらも、魚卵の誘惑に負けて、口を開けてしまった。
「あーーん」
少し塩分が強く感じたが、プチプチとした食感と共に、濃厚な味わいが広がる。
そして直ぐに口の中から消えていった。
「美味しいね! ヴァノス! 魚卵最高!」
思わず、大きな声で叫んでしまった。
すると酒瓶を持った男が、上機嫌に笑いながら声を掛けて来た。
「どうだ! ウメーだろ。この店が出しているのは、俺たちが今朝捕まえた魚だからな」
どうやら、この街の漁師のようだ。
「どうだい? 一緒に飲まねえか? 店長に頼んで、普段食べられない部位を出させてやるぜ」
傭兵ギルドの痴漢男たちとは違い、この男は人が良さそうな顔をしている。
大丈夫だろうと思い、相席する事とした。
(それにしても、痴漢男たちと比べて腕の太さが二倍位あるんですが……)
「おー座りねー。座りねー」
「おいおい、あんまり若い娘を連れて来るなよ。故郷の妻と娘に会いたくなっちまうじゃねえか」
「おいおい。とか言っときながら、鼻の下伸びとるぞ」
「すみません。お邪魔します」
「お邪魔しますッ!」
「失礼いたします」
「おー。エルフの嬢ちゃんは、もしかして修道女か何かか? 聖叉付けてるし」
エミアスは可愛らしく声を作って答えた。
「はい。修行の身です。不束者ですが、ご合席宜しくお願い致します」
(おえー)
私はエミアスを驚き見つめた。
エミアスが一瞬だけ私を睨み返したように感じた。
(ともあれ、エミアスの機嫌が少し良くなれば嬉しいわ。ストレス貯め過ぎなんだよね。まぁ、原因はウチらなんだが……)
Eパートへ つづく




