<13話> 「Laudamus te, benedicimus te, adoramus te, glorificamus te.」 =Cパート=
Laudamus te, benedicimus te, adoramus te, glorificamus te.
褒め称え、感謝し、崇拝いたします、栄光あれ
傭兵ギルドに所属している組員は、正規組員と準組合員に分ける事が出来る。
正規組合員は爵位を貰い、殆どが貴族なのだという。
正規組合員は、傭兵団長と呼ばれ、いわば組織の元締めとなる。
そして正規組合員各々にぶら下がる様に、準組合員が複数名存在する。
準組合員は、傭兵隊長と呼ばれ、実働部隊での現場責任者となる。
私たちは、ここヴァノスの傭兵ギルドへと来ていた。
中には受付嬢が数名いるだけで、それ以外は私たちしかおらず、閑散としていた。
エミアスは受付で二言三言、言葉を交わす。
「すみませんが、リル様、リーナ様。案内の者が来るまで、こちらでお待ち下さい」
私たちにそう言い残すと、エミアスは奥の方へと消えていった。
私とイリーナは、広いロビーで言われた通り待っていた。
すると、柄の悪い男が四名、ギルドへと入ってきた。
そして何人かは、こちらを舐め回すように見てくる。
「うおー。こりゃスゲえーぜ。おいおい見ろよ」
「綺麗な嬢ちゃん達がいるぜ、おい」
「ぬぅおー。上玉じゃねーか」
(下品な奴らだな……。てか、上玉って……)
それが私の第一印象だ。
(こういう輩とは目を合わせないようにしよう。面倒そうだし)
私はとりあえず、そっぽを向いた。
ただし、イリーナの事が気になって、チラリと見る。
するとイリーナは、何故か笑顔だった。
(この子、実はメンタル超強いんじゃ……)
下品な奴らを無視していると、一人だけこちらへ近づいて来た。
(うわー。酒っ臭ッ! 昼間からかよ)
酔っ払いの男は、イリーナの直ぐ右隣に座って言う。
「お嬢ちゃん、一発どお? おじさん凄いんだよ。お金ならいっぱい払うからさぁ」
「つッ!?」
あまりに露骨な男の言葉に、私は言葉を失う。
そして男は自然に流れでイリーナの両脚の間に手を入れようとした。
「イテテテテててええ!」
(あ、こいつ死んだな)
イリーナは、男の手の甲を笑顔で抓っていた。
「おじ様、私の身体はとても高いのですよ?」
イリーナは抓っていた男の手を振り払う。
そして、左手の人差し指の先を顎に当てて言う。
「そうですね、この王国の国家予算四十年分は堅いのではないでしょうか?」
「はぁ?」
イリーナは事実を述べた様だが、男にはその真意は全く理解できないだろう。
むしろ男は、イリーナを頭のおかしな女と思ったかもしれない。
イリーナの隣に座った男の仲間三名が、悲鳴を聞き、こちらへと近づいて来た。
「おいおい、どうした? お嬢ちゃん達にやられたのか? ぷー。げらッげらッ」
(あぁ。もう、仕方が無い……)
私は椅子から立ち上がり、イリーナの前に出る。
そして男たちの前に立ちはだかった。
目の前の男が大声で言う。
「デカっ!」
(ほっとけーよ!)
私は男たちより、やや身長が高かったのだ。
「おい、デカ女! おめーの様な女、どうせ日照り続きで、俺たちが相手しなきゃ誰も――」
そう言いながら、目の前にいた男は私の胸を正面から鷲掴みしようとしたのだ。
男の手を私は半身になって躱す。
私は怒っていた。
「いちいち癇にさわる野郎だ!!」
私は右手を突き出し、デコピンを男の額に喰らわせてやった。
軽くやったつもりだったのだが、怒りで手元が狂ったのか、男は後ろへ吹き飛び、男の仲間を薙ぎ倒す。
見ると、男の頭蓋骨と皮膚と髪の毛が人差し指一本分、無くなっていた。
実にパンクな頭になったものだ。
(あ? 殺ってしまったかな?)
一瞬遅れてイリーナは立ち上がり、死人すら恐怖する程の邪気が周囲に溢れ出す。
「よくも、よくも私の胸を!!」
(え、私の胸なんですが……イリーナさん?)
イリーナの隣にいた男は、椅子から転げ落ち、失禁した。
そしてそのまま気を失った。
イリーナの邪気は広がり続け、ギルドの建物の外にまで溢れ出す。
すると建物の奥から、エミアスが狭い屋内の壁を走り、そして蹴り、風魔術を使い一瞬で目の前まで距離を詰め、やって来た。
必死の形相だった。
「どっ、どうなされまそた」
エミアスはあまりに慌てていた為、言おうとした台詞を噛んだ様だ。
エミアスはイリーナを鎮める為、イリーナを抱きしめた。
「どうか、どうかお鎮まり下さい。イリーナ様」
エミアスの慈愛により、何とか矛を収めるイリーナであった。
「リル様が付いていながら、これはいったい!?」
「あ、今回は無理でしょ。コイツらが悪い。痴漢ダメ!ゼッタイ!! くまッ!」
エミアスは頭を抱えている。
「あ、エミっち。そいつら生きてるかな? 蘇生をお願いしたい……」
エミアスは頭を抱えたまま、倒れている男たちを睨む様に見た。
するとエミアスは再び、頭を抱える。
そしてその体制のまま、下位範囲回復魔術を行使した。
(器用なもんだ。ってエミアス泣いてる?)
睨んでいたエミアスのその瞳が潤んでいる様に見えたのだ。
回復魔術が発動する。
私がデコピンした男の頭蓋骨に空いた穴と皮膚が修復された。
(あー。髪の毛は戻らないのね。ちーん)
まず最初に身体的ダメージの無い、イリーナにちょっかいを出した酔っ払いの男が目を覚ます。
「ひーーイィ」
(完全に状態異常の慄くだわ)
酔っ払いの男は、仰向けのままで蜘蛛のように手足をバタバタさせてイリーナから距離を取ろうとする。
しかし恐怖で力が入らないのか、その場から動けないでいた。
次に薙ぎ倒された男二人が目を覚ました。
私は容赦なく言い放った。
「あなたたち、そこのゴミを外に捨てといてよね」
男二人が嗚咽しながら言う。
「兄貴、大丈夫ですか?」
「アニキ、アニキ、生きてますかい?」
その時だった。建物の奥の方から、身なりの整った立派な髭のおじ様が出てきたのだ。
(ギルドの偉い人っぽいな)
「申し訳ございません。お嬢様方」
そう言うと髭のおじ様は、私たちに頭を下げる。
「オイ! 誰か、このゴミを外にやらんか」
イリーナの邪気に当てられ、気絶していた受付嬢数名が、叱責されて目を覚ます。
そして慌てて駆け寄って来た。
「申し訳ございません。ご迷惑をお掛けして。今すぐ片付けます」
一人の受付嬢がそう告げると、別の受付嬢の一人が3つの生ゴミを引き摺って外に放り出した。
凄い怪力であった。頭の上に耳が乗っていたので、獣娘なのかも知れない。
失禁し更に蜘蛛となった男は、一人取り残されていた。
イリーナは立ち上がり、蜘蛛男に対して汚物を見る様な視線を向ける。
蜘蛛男は視線に恐怖を感じ、地面に伏せた。
イリーナはスカートを軽く持ち上げ、伏せた男の後頭部を厚底のヒールでゆっくりと、しかし深く踏み付ける。
「ふふッ……。汚物は汚物らしくしていれば良いのです」
男の顔は踏まれて歪み、地面に垂れている自身の汚物を擦り付けられる。
「キチンと自分で掃除しておきなさいな……」
(やりすぎよ。さすがの私も、ドン引きだわ。イリーナ……さん)
私はイリーナの異常な行動を目の当たりにし、自身の冷静さを取り戻した。
Dパートへ つづく




