<12話> 「邪神と主神と再会と」 =Iパート=
祝! 連載半年。
活動報告にコメントを書かせていただきました。
改めてエッセイ化するかもしれません。
「半年書いてみて」等で。
お風呂の後、エミアスと合流。
三人で一緒に食事を採った。
そしてその晩は何事もなく、私は熟睡した。
翌朝、私たちは大魔導師ブラギと会う為に、ヴァーラス王国が、良く見渡せる丘へと着ていた。
「綺麗な景色」
王国を一望でき、更に丘の周囲には草原が続く。
「本当にそうですね。ここから見るお城と街並み、お伽話に出てきそうな」
(ほんと、ファンタジーの世界へやって来た様な光景だ……)
「座標をメモリーしておこう。また直ぐに来られる様に」
さて、この丘で落ち合えると王に聞き、着たのだが、何もない。
でも何故か違和感がする。
「お姉様、あの木の近く。亀裂? ですか」
次元の亀裂とでも言うのか、空中にヒビが入った様に見える。
例えるのならヒビの入った透明なガラスの様な。
(これって、アレだよね? ゲームとかでよく出てくる。ゲームならこの亀裂に触れると、フィールドの別の場所か、別の階層に飛べるのだけど)
亀裂は生きているかの様に、時折形を変え、その場に存在し続けている。
「あー、何かこういうの、ワクワクするね!」
「私は正直、恐ろしいです。お姉様はどこに飛ばされても、直ぐに戻って来る事が出来るからそう思うのですよ。私の多次元収納へ入られた時だってそうでしたでしょう?」
「いや、そういうのじゃないんだよね。何て言うか、探求心と言うか、ゲーマー心を擽られると言うか」
「お姉様こそ、分かっていらっしゃらないのです。私を置いて、何処かへ消えてしまって、戻って来ないのではないか、もう会えないのではないかと、私は不安になるのです。
ですから、一緒にお姉様の世界へ行けた事、それは私にとって嬉しく、また大切な宝の様な一時でもありました」
私たち二人の会話は、珍しく噛み合わなかった。
私は自身の高揚感を語り、イリーナは自身の嘆きを訴えたからだ。
「はい。すみませんでした」
私は夫婦喧嘩に負けた夫の如く、平謝りにあやまった。
そして一旦目を閉じ考え、言葉を続けた。
「じゃあさ、手を繋いで、一緒に行こうよ。ね?」
その時、後ろから視線を感じた。
視線の正体は、独り佇んでいるエミアスのものだった。
(あ、ゴメン。忘れてたわ……。)
私とイリーナで手を繋いだまま亀裂に触れると、その場から放り投げられた様な感覚に襲われた。
私はイリーナの手を決して離さない。
気が付くと、先程までと同じ様な丘の上にいた。
しかし先程までの丘ならば見渡せるはずの街や城は存在しない。
その代わりに、丘の上には巨大な神殿が存在していた。
「ヴァルハラ」
後から追いかけてきたエミアスがそう呟く。
「え?」
思わず私は、声を出して驚いた。
そう、ヴァルハラは私の苗字と同じ。
私の勤めていた会社の名と同じ。
そして、北欧神話からとられたその名前は、北欧神話の主神が住む神殿の名前と同じ。
そこに住むのは北欧神話の主神、オーディン。
突如私は、イリーナの魔力が増大していっている事を感じた。
イリーナは多次元収納から薙刀を取り出す。
いや正確には、イリーナに取り憑いている邪神がそうしたのだ。
額には瞳を縦にした様な紫の文様が現れていた。
イリーナの魔力は、聖女の澄み切った物から、徐々に禍々しい物へと豹変する。
すると神殿からも、それに呼応するような桁違いの魔力を感じた。
(この魔力量、魔神エンキのそれと同等か、あるいはそれを上回るかもしれない)
そしてその魔力の発生源は、凄まじい速さでこちらへと近づいて来る。
邪神は薙刀を両手で構えた。
すると目の前に、赤く不気味に光る槍を手にした隻眼の老人が現れた。
老人はいかにも魔導師という出で立ちの帽子と外套を纏っていた。
(王にはブラギに会う様、言われたが、どう見ても主神オーディンなんですが……。あの槍は神槍グングニィル? イリーナに貸したグレイヴではやや分が悪い。せめてポセイドオンの矛があれば……)
「よお、久しいな」
「ふん」
両者共に魔力を全身に巡らせ、対峙した二人。
邪神は主神に薙刀で斬り掛かる。
主神は邪神を槍で貫こうとする。
両者の武器がぶつかり合い、周囲に金属音と鈍い打撃音が響く。
お互い武器を一旦引き、再度攻撃に転じる。
主神の突きを邪神が突きで迎撃した。
しかし主神は迎撃された突きの勢いを殺さずに、槍先で薙ぎにくる。
それを邪神はグレイヴの持ち手の部分で防ぐ。
そしてそのまま、互いに武器が長物であるが故、竿の部分で鍔迫り合いの様な形となった。
私はその攻防に、何か違和感を覚えた。
物凄い胡散臭さを感じたのだ。
「あれ、これチャンバラ劇じゃん。じゃれ合っている様にしか、段々と見えなくなってきたぞ……」
邪神が言う。
「主の槍、相変わらず適当だのう」
主神は大笑いし言う。
「がはははは。70年ぶりか? 力任せに全力で叩き込んでやったわい。どおじゃ」
「はいはい。お仕舞いお仕舞い」
私は手を二度叩き、終わりにする様にと合図を送った。
だが、邪神と主神はいつまでもじゃれ合っていた。
故に私は、スキルを使いGM権限を行使した強制力のある転移魔法を発動した。
イリーナの身体は、私の直ぐ手前にやって来る。
私はイリーナが装備している服の襟首を掴んで、邪神がこれ以上ちょっかいを出さない様にした。
それを見て、主神は更に大笑いする。
「がははははは。尻に敷かれておるわ」
「ぬっ。ぬかせ」
「しかし何だいのう、その赤髪の嬢ちゃんは。存在自体が反則じゃろ? 全く底が見えんぜ」
「ふふふふ。これなるは我が友、リルよ」
「友じゃて? 吊されて、完全に尻に敷かれ
ておるのにか?」
「なん!?」
そして邪神が消え、イリーナが戻ってきた。
グレイヴは収納に戻された。
主神の赤き槍も形を変え、黒褐色の杖へと変化した。
「さて、改めて名乗るとしようか。わしはブラギじゃ。今はブラギと名乗っておるじゃて。で、リル殿に……、そちらの青髪はイリーナ殿だったかの?」
「仰る通りです。覚えていらしたのですね」
イリーナは答える。
「いや、名前は覚えとらんて。先日、弟子のキュリアめから聞いたのじゃよ。あぁ、70年程前に会った事自体は覚えておるぞい。耄碌はしとらんぜ。」
「おそれ入ります」
「ああ、そこの従者のハーフエルフも、会った事を覚えておるぞ。魔力量が桁違いだったのでな」
(あれ、エミアスってハーフエルフなの?)
私は疑問に思った。
(どう見たって、物語や映画やゲームに出てくる様な金髪で耳長のエルフなのにさ)
「して、名は何と?」
「聖母教司教のエミアスと申します」
「ふうむ……」
ブラギは何かを考え込んでいる様だ。
一呼吸置いてから開口した。
「そうそう、弟子のキュリアの居場所を知りたいのじゃろ? 昨晩ヴァーラス王より使者が来ての……」
ブラギは杖を持ったまま腕を組み、更に自身の長く伸びた髭を撫でながら話を続ける。
「わしの使い魔を経由し、キュリアと会話できるが、どうかの?」
私はイリーナと顔を見合わせた。
するとイリーナは笑顔で了承を示す。
私は後ろを振り返りエミアスを見た。
そしてエミアスも頷いて了承を示す。
「宜しくお願い致します。ブラギ老師」
Jパートへ つづく




