<12話> 「邪神と主神と再会と」 =Gパート=
部屋で着替え、衣装をイリーナの多次元収納内へとしまう。
その後、私たちはルイダと共に、宿と隣接している酒場へ移動した。
それはルイダと一緒に逃げ延びた人狼族の娘、プルに会う為だった。
プルとの方が、ルイダよりもあっさりした再会になるのかと思っていた。
けろっとしていそうだと思ったからだ。でも実際は違っていた。
再会した時、プルはルイダ以上に号泣したのだ。
(そうかプルも辛かったんだね。そうそう、思い出したわ。そういえば、あの晩も四人で泣いたね……。あの時もプルは号泣していたっけね。ああ、そういえば酒臭かったな。くすッ。懐かしいなぁ)
再会の後、お酒と軽くつまみを食べながら、話に花を咲かせた。
日が暮れてから大分経った頃、部屋へと戻ってきた。
「わーい。お姉様と二人きりの夜は久しぶりです。寝ている間に、あんな事やこんな事を……」
無邪気にはしゃぐイリーナ。
「ちょっと、イリーナ。寝ている間にキスとか、絶対やめてよね!」
「あら、バレました?」
意味深な目付きで私を見つめてきた。
「ちょっとーー。冗談に聞こえない所が怖いわ」
夫婦?漫才をやっていたら、ノックの後ルイダが入ってきた。
なぜかモジモジしている。何か言いたいのであろう。
「どした? ルイダ」
私の方から声を掛けてみた。
するとルイダは小さな声で呟いた。
「ねえねえ、今日、一緒に寝ても良い?」
私はイリーナの方を見ずに即答した。
「もちろん大歓迎よ」
イリーナは私が即答した事に、少しがっかりした様だが、でもルイダと一緒に寝られる喜びが勝ったのか、直ぐに喜んでいた。
各々裸になり、お湯を絞ったタオルで身体を拭き、ネグリジェの様な寝間着に着替える。
私はクィーンサイズのベッドに一人。
イリーナはルイダと一緒のベッドに入った。
(イリーナとルイダ、同じベッドで大丈夫かな? 不健全聖女イリーナと。いやある意味それは健全な証なのか? お姉さんとしては複雑だわ)
いくつかランプの灯りを落とした薄暗い中、夜話が始まった。
ルイダからは、キュリアに出会った話を聞いた。
キュリアは「イリーナを護る」ってルイダに誓いを立ててくれたのだそうだ。
「八英雄キュリアにも会わねばならない」という思いが、私の中に積もった。
どういう人かとルイダに尋ねてみた。見た目とかをね。
「金髪ロングヘアの少女」と教えてくれた。
(でも、それってこの辺りにめちゃくちゃ多いんだよね……。魔力量から判断するか? でもそのクラスなら、絶対に魔力を垂れ流してないよね)
「イリーナの事を想ってくれて、ありがとうね、ルイダ。……ってもう寝てるのね。おやすみ、ルイダ。おやすみ、イリーナ」
「おやすみなさい。私のお姉様」
(ん?)
――翌日。
エミアスの手配により、迎賓館で王と謁見する事となった。
人目に付き過ぎるから、城内ではマズイのだそうだ。
イリーナが狙われている事を配慮しての事なのであろう。
狙われるのを未然に防ぐ、それは重要な事だ。
イリーナの為でもあり、この国を護る為でもある。
優秀な王なのであろう。
王は「また街中でドンパチやられたらかなわんから」などと言っていた。
王から国賓としての証に首飾りを貰うも、名前を彫るので受け渡しは明日になった。
羊皮紙でできた王の信書も貰った。
内容は要約すると「かの者王族と思い、惜しみなく協力せよ。特命である」だ。
これでエミアスの目的は果たしたのであろう。
その後、聖母教の総本山へ向かったとルイダから聞いていた、八英雄キュリアの現在の居場所を知らないか尋ねた。
王は想定されるルートをいくつか示してくれた。
私は、土地勘のあるエミアスに委ねた。
そして王は「ブラギ」という名の大魔導師に会う事を勧めてきた。
キュリアの師であり、法術で居場所が判るかもしれないのだそうな。
その時だった。問題が起きたのだ。
おそらく「ブラギ」か「大魔導師」のどちらかの言葉に反応したのであろう。
そしてその反応をしたのは、イリーナの中の邪神だ。
その場に居た殆どの者は、邪神の負の魔力に溢れた力に当てられた。
王を護るはずの近衛兵ですら、ただその場に恐れ戦く事しか出来ないでいた。
「魔力、だだ漏れ! ちょw 魔王軍にバレるっしょ」
私は思わず邪神の取り憑いているイリーナの身体に右手でツッコミ入れた。
ベシッ
「ん? ああ、そうであったな。ワシとした事が……」
邪神は直ぐに引っ込み、普段のイリーナが戻ってきた。
王は、邪神とじゃれ合い、さらにツッコミ入れる私に驚愕した様子だ。
明らかに邪神にではなく、私に怯え震えていた。
私はその事に、もの凄く反省した。
そしてイリーナが邪神の代わりに謝罪した。
「驚かせてしまい、すみません。後でお説教をしておきます」
王は直ぐに否定した。
「いえいえ、邪神様にお説教など、お止め下さい」
イリーナは顎に人差し指を当て、首を傾げる。
王は言葉を続けた。
「さすがは聖女イリーナ様。あの様な邪神を百年もの間、封印されていたとは……。先々代の王である父から聞いてはおりましたが、これ程の邪神とは」
イリーナは王に軽く会釈をして応える。
「恐れ入ります」
王は私たちに、今晩は迎賓館に泊まる様に促した。
エミアスは一度、聖母教の御所に戻るとの事であった。
王の申し出を無下に断る理由もなかったので、了承した。
王子が案内をしてくれるとの事だ。
しばらくして、王子がやって来た。
「離宮まで、ご案内いたします」
「あ、金髪ロンゲのイケメン王子」
(まさか本当に王子様だったとは……)
Hパートへ つづく




