お題『そうか、わかったぞ。俺には何もわからん!』or『白んだ空が僕の心を侵食する 』【大人しい】
徹夜続きの脳みそは、簡単なことすら理解できなくなる。
徹夜の猛勉強、言い換えるならば付け焼刃の試験対策なのだが、今日もまた白んだ空が窓から見えた。
カーテンをひくことさえ忘れた部屋で、少年はぼんやりと空を眺めた。
実際の所、見るべきは教科書。今日でもう何日目だったろう。
昨日の試験は、数学と国語。今日は、英語と物理だったか。
白んだ空が、ぼやけてきた心まで侵食する。脳みそは止まりかけていた。手元にあった冷めたコーヒーを飲んでも、覚醒には程遠かった。
それでもまだ意識を失わずにすんでいるのは、今日が終われば夏休み間近という嬉しい話があるからだ。
空から机に視線を戻し、軽く頭を小突いてから教科書の文字を追う。
物理について書かれているのだが、文字は全然、頭に入ってこない。
友人は試験範囲を聞くなりすぐに、
「そうか、分かったぞ。俺には何も分からないことが! だから諦める」
などと叫んでいた。
夏休みの補習を覚悟した、潔く男らしい叫びだった。
だが、こちらはそんな友人と運命を共にする気はない。せっかくの夏休みを削られるなど、もってのほかだ。
なにせ、自分には恋人と遊ぶという大事なスケジュールがある。
先日までは互いを意識した幼馴染の付き合いだったものが、ついに発展してくれたのだ。
一緒に買い物に行くとか、海で遊ぶとか、夏祭りで花火を見るとか、やりたいことはたくさんある。
こんな経験、今ではないとできるとは思えない。
甘酸っぱい経験のためなら、徹夜の勉強も惜しまない。日に日に顔色が悪くなっているのも、全ては夏休みのため。
今日が終われば、存分に寝よう。試験が終わったら、とにかくベッドで眠りたい。
それまでは、襲い来る睡魔にもおとなしくしていてもらおう。馬に蹴られて遠くに行ってもらおう。今日が終われば、いくらでも受け入れてやるから。
試験の開始まで、あと数時間。
限界を迎えつつある頭を気合だけで支えて、最後の追い込みを進めていくのだった。