お題『私を愛したいのならば、死になさい』or『都合のいい幻だ 』【真面目】
恋は下心。愛は真心。そう言ったのは誰だったか。
「私を愛したいならば、死になさい」
愛する者は、そんな突拍子もない言葉で、つまらなさそうに切り捨てた。
自分は、決して下心で話しているわけではなかった。想いの全部を真心で伝えた。
だというのに、相手はこちらを見てもいない。
答えはあらかじめ決められていたかのように、当然のように放たれている。
これからいくら言葉を重ねても、自分の想いは伝えられないだろう。
寒風が二人の隙間を通り抜けていく。
「愛せば愛されるなんて、都合のいい幻想ね」
風ではなく、言葉に凍える。髪を撫でながら言われて、身も心も凍ってしまいそうだった。
「どれだけ本気で言われても、今更、何も変わらないの」
背を向けたまま言われて、膝から崩れ落ちそうだ。
だが、わずかに残っていた意地を振り絞り、震える膝に鞭を打ちながら、続くであろう言葉を待った。
しかし、目の前の背中は言葉を紡がない。疲れたように肩を落とす姿が、酷く遠く見える。
思わず手を伸ばした。届かないと分かりながら、指先だけでも触れようとして。
一メートルもない互いの距離。愛する者は、たったの数十センチ先にいるのに、指は震え、腕は鉛のように重い。
そしてやはり指は届かず、
「じゃあね」
そう言って、最後の拒絶を示すかのように、小さな背中は非常階段の最上階から身を投げた。