その1 お題 『泣いちゃうかもね』
ifの話をしても、青年は現実が変わらないと知っている。
それでもifを話すのは、今を変えたいという儚い望みを抱くから。
劇的な変化など期待していない。大河の支流のように、ではなく、大河の中で少しでも違う流れに 乗ってみたいだけだ。
それがいかに困難なことかは、語るまでもない。大きな流れに呑まれれば、溺れもがくのがせいぜいだ。
分かっているのだ。理解しているのだ。
とうの昔から決まっているのだと。一滴の雨粒が落ちたところで河は何も気にしない。
ifなどという子供じみた考え、泣きながらすがっても、人生の膨大な重さにつぶされるだけだ。
もしも、と誰かが言ったとしても。
過去がいくら忠告しても。未来がいかに懇願しても。
自分は今を否定しない。今を認めて歩いていこう。
後悔しても。望んだ未来が現れなくとも。
「うん。そうだね」
胸に抱くは、一滴の雨粒にもならぬ覚悟。
頬をくすぐるのがせいぜいの一滴に、泣いてしまうかもしれない。
別れた相手に、未練がある。惹かれる部分もある。
それでも自分は別れることを選んだ。
ぼんやりと曇った空を見る。
胸に抱くのは、一滴の雨粒にもならぬ感慨。
もし、あの空から何かが零れ落ちて来たならば。
頬をくすぐるそれに、泣いてしまったかもしれない。
そう思って、苦笑いして、ただ風に吹かれた。