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花女







感謝祭が近づくと街は次第に忙しなさと浮き足立った空気に包まれて行った。





あと数日で感謝祭が始まる。

前夜祭は貴族平民分け隔てなく行われる広場での式典や花火やダンス。

様々な料理がそこここで振舞われる。

本祭は貴族たちは王宮での舞踏会が、平民達は広場をより広く使っての舞踏会がそれぞれ行われる予定だ。





忙しくなるのはセシルも例外ではなく、日々細々とした警護の確認業務に追われていた。例年であればセシルも例に漏れず浮き足立ち、民衆や陛下のためにとにこやかに動き回るのだが、先日のシャーリーの件もあり今のセシルの表情は決して明るくはない。





あの日、報せを受け急いで帰ったセシルを待っていたのはやけにすっきりした笑顔のリーナだった。











「セシル様、私どうやら無事に離婚出来たそうですわ。」


まだ屋敷の仕事中だったため堅苦しい言い方ではあったが、彼女の声は明るい。

なんと声をかければいいのか、わからなかった。

わからなかったけれど、本音を言ってしまえば酷くほっとした。




離婚が成立した。

リーナの離婚が…。

正直難しい問題だと思っていた。

ルイスの姿勢を見る限り諦めることはないと思っていたから…。

しかし、それがすでに成されていた。

リーナがどう思うかはわからない。けれど、リーナに恋い焦がれるセシルから言わせれば、それは表しようのない複雑な喜びを心の奥底に産み出す出来事だった。




駆け出してリーナを抱きしめる。

己の決して彼女には言えない秘めた喜びと、本心では辛い思いを背負っているであろうリーナを包むそんな抱擁。



彼女は弱々しくもセシルの背に腕を回し、応えてくれた。

そのことがまた嬉しくてセシル一層大事そうに強く抱きしめる。





「リーナ、今こんなことを言うべきではないとわかっている。けれど貴方に言っておきたいんだ。」


「…セシ、ル…?」


「リーナ、愛しています。どうか、どうか私と結婚してください…必ず…必ず!!幸せにして見せます…答えは今すぐてなくて良い。私は待つから、貴方が貴方の心に従い私の元へ来てくれるのを待ちます…」



リーナ、と今にも泣き出しそうな声で繰り返し呼び、さらにさらに深く抱きしめようとセシルは愛情を込める。



リーナはあまりに急なプロポーズに複雑に思いながらも顔を耳まで真っ赤にさせ、セシルの胸元に顔をうずめて返事の代わりに小さく頷いた。

そのまましばらくして、リーナはセシルから少し体を離し、何かを決意した眼差しで言う。




「ルイス様から逃げずに、話し合いをしようと思います。」


「はい、その時が来たようですね。」



セシルも力強く頷く。

逃げるのはやめよう。リーナはそう思えた。

本当に、真正面を向いて堂々と、ルイスと話し合おう。追われるのも、嘘をつくのも、怯えるのも全て終わりにしよう。

ロリーに伝えればきっと話し合いの場を設けてくれる。そう思い手紙を書いた。数日に一度はあの店にくるロリーに渡してもらうために。







「ごめんね、ルイス…」













リーナが決心して数日、運命の日は思うよりずっと早くにやって来た。











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