照女
いや、まぁ、憎からず思われている自覚はあった。
しかしそれは助けたヨシミってやつというか、ピンチを救ったヒーローに対する尊敬の念とか、つまり単純に懐いたレベルのものかと思っていた。
「す、好き…?」
あ、わかった。
人としてってことかな、嫌だな私ったら勘違いねきっと。うんうん、言葉のアヤってやつよ。これだから私みたいな学のない人間は、そうそう、なんでも色恋で世の中できてないわよね。
ショートした頭を私は必死に再起動させようとしていた。
しかしセシルの追い打ちは止まらない。
「貴方が倒れた日に、確信しました…でも好きになったのは、きっと貴方に会った時からずっとです。」
いつの間にか彼はじっと私を見つめていて、彼のティーカップは空っぽだった。
「貴方が戻る意思がないと聞けてよかった。今は、無理でも…私は貴方に振り向いてもらいたい。ましてや、連れ戻させやしません。」
「セシル…」
「一ヶ月先だろうが、一年先だろうが貴方の居場所はここであって欲しい、のです…」
そのことを忘れないで、ください、と言って堪えきれなくなったのか赤いあかいセシルはシュー、と湯気が出そうな勢いのまま机に突っ伏すようにばたりと倒れて気絶した。とその瞬間に今まで居なかったはずの使用人たちが食堂に殺到した。
「ぁあ!!セシル様!!」
「よくぞ、よくぞ…!」
「誰かー!タオルと水を!!」
「上出来でしたわ!」
察するに見られてたな。皆セシルの介抱をしながらも嬉し泣きをしている光景は異様としか言いようがないが、あの会話を聞いて見られてしていたのかと思うと顔から火が出て倒れんばかりの心境だ。
(いっそ、私も倒れたかった…)
もう言い訳はできない。
どうやらセシルは私のことが好きらしい。
(そうか)
守るとか、頼ってとか、居場所とか…。
(彼は私の欲しかったものばかりをくれる)
かつてそれらをくれたのはルイスだった。
誰よりもどこよりも安心できた居場所。
それを裏切ったのは私。
きっかけはどうでも、あの環境から逃げ出したのは私だ。
側にいることはできたのに。
(セシルの気持ちが嬉しい自分が嫌になる)
自嘲気味に笑ってセシルが運ばれていくのを見守る。リリーが私の横に来て、「セシル様ったらホントにこういうのはダメね」と大人ぶって言ったのが可笑しくて今度は声を出して笑ってしまった。
(ここにいたい)
これがわたしの、本心。