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小話

書溜めのルイスの学生時代の小話。

携帯が不調過ぎてしばらく来ないと思われます。











出会ってすぐに仲良くなった変なヤツ








オレの立場が貴族だろうが、アイツの立場が牧場の養子だろうが、なにも気にした所を見せないたった一人の友人。

媚びるでもなく、利用しようとか、出し抜こうとか、ただそこにいるオレを受け入れた対等な存在。

安心できるただひとつの場所。

今考えても、そんな友人を持つことがどれだけ難しいことかなんて、きっとアイツは考えたこともないだろう。



友人、という立場が憎い。

アイツは平民で、オレは貴族で。



年々変わっていく。

あんなに短かった髪の長さも、なんの膨らみもなかったあの胸も、くらくらとするようなアイツの匂いも。



まるで女じゃないか。

いや、女で間違いないのだけど。



アイツはあんなに女になっていくのに、アイツと過ごせる時間はそれに比例するかのように少なくなっていって。

もやもやが取れない。

むしろ増えていく。



今、なにしてるのか。

今、誰といるのか。












________________











授業終わりのベルでオレはハッと我に返った。教室から退室する教師、ガタガタと片付けを始める生徒たち。普段授業中に眠気が来ることなどないというのに一瞬ではあるが意識が飛んでいたようだ。


(片付けよう…)


ノートと教科書を閉じ、筆記用具をしまい込む。はぁ、と小さなため息を吐けばそれに反応したかのように前の席の人間が振り向いた。



「どうしたルイス、お前がそんなしけた顔してるとクラスの女子たちが騒めくじゃないか」


ニヤリとした顔で言う友人。


「心配しなくともこのクラスの女子たちは皆相手がいますよ。」


「形だけの婚約者か…そんなことは関係ないさ、顔の良い異性はいつだって目の保養にされる運命にあるのだよルイス君。」


ハハハ、と大げさな手振り。はぁ、とまた一つため息をこぼし、顔を動かさずちらりと周りに目を向ければ、こちらをチラチラと頬染めて見てくる女子が数人いた。




「お前許嫁や婚約者はいないのか?」


「いませんね。」



突然の問いに浮かび上がったのは今も羊に囲まれているであろう“アイツ”の顔。

思わず頭を振り脳内から消し去ってから改めて「おりませんよ」とクールぶった返答をする。



「お前はいいな。それならこれから選びたい放題じゃないか。」



いーなー、と目の前で気怠そうにオレの机に突っ伏してくる“友人”こと、この国の第三王子クリス。



継承権は三位でもなまじ勉学においては一番優秀なため、将来的に揉めるのでは、と噂されている。顔に関しては王子三人とも問題なく良い。むしろ三人とも似ているから妃殿下狙いな女子たちには非常に悩ましい選択になっているに違いない。

同じ学年のクリスは前後の席ということもあり何かとからまれ、つるむようになった。

王族相手だからもちろん敬語を使うし、授業ではペアになることもあるがサポートに回ることがほとんどで、最近ではこのままクリスの側近になるのも、悪くないな、と考えなくもない。



昼休みということもありクリスはおもむろに立ち上がる。

オレも彼の後に続き王族と入室を許された人間だけが使える部屋についた。ここで食事が運ばれてくるのを待つ。

クリスは疲れた〜とばかりに三人は座れるソファに倒れこむ。彼はいつもこうだ。




「あ、ルイス、続きなんだが、そんなお前にアドバイスをやろう」




だるいのかソファで休む体勢を整える気はないようだ。



「自分に熱い視線を送る優しい男を女は邪険になどできん。出来てもお前の顔を持ってすれば断れてニ、三回のことだ。陥落するなど容易い。」


「はぁ…」



何故だか、脳裏にエリーと話していた男の姿が浮かぶ。買い付けに来てる業者でよく見かける男。あいつは恐らくエリーに惚れているのだろう。


(優しくて、熱い視線…)


思い出して不愉快な気持ちになった。オレのいない間にも奴はエリーの所に来ているのだろう。アイツはバカだから「よく買ってくれる」と日頃喜んでいた。気づけバカ、と思わなくもない。でも気づかないでくれとも思う。

というよりこの王子…一体何が言いたいのだ。




「エリー、と言ったか」


「は…?」



スッと顔を上げたクリスが声をひそめた。

ニィと細められた目にひやりした汗が滲む。


(何故アイツのことを…?)


知っているはずなどないのだ。

領地の田舎にいる一娘のことなどクリスに話したことはない。

ましてや幼馴染がいることすら言っていない。なのに今、彼の口から出た彼女の名前。






「お前が卒業したら私の下につけ。」


「!」



(ああ、なるほど…)



勧誘か、と合点がいった。

王位継承は最終的に王と議会の判断で決まる。継承争いになる前にできるだけ良い印象を与えるには功績をなにかしらあげねばならない。そのための部下集めをしているのだろう。

現に第一王子からの誘いはあった。まだ返事はしていない。馴染みあるクリスにつきたい気持ちはあるが、これでクリスが王にならなければ後々オレも家も危ないかもしれない。

安易な返事が出来ないのが現状だった。



「その者がなにか…?」


「調べた。お前が婚約者を設けないのはこの娘がいるからだと報告を受けている。」


「…ただの羊飼いに過ぎません。」


「だから、だ。オレにつくなら、お前とあの娘の結婚がなされるように取りなそう。」


悪くない話だろう?と笑う彼は友人ではなく、策士の顔だ。



「兄上につくのはヤメろ」



ドク、と心臓が強く脈打った。



(それも知られていたのか…)



「バカ、そんな顔をするな。脅してるんじゃない。これは友人としての申し出でもあるんだぞ?」


「…アイツは、平民です。」


「だから、なんだ?」


アイツは関係ない、関係ないと言いたいが今クリスからの話を断る理由もない。

しかし、今エリーのことを誤魔化しても今後エリーが利用されないという確証もない。


正直、エリーのことは欲しいとは思う。

しかし、貴族と平民だからと諦めるつもりだった。あの屋敷で、アイツの近くで暮らせれば満足できると思っていた。



「あの娘とも友人なのだろう?」


「そうですが…」


「私の勘違いだったか?想い合っているという報告だったのだが…」


「想い合うなど…」



わかっている。

アイツが他の男に笑いかけることが不愉快なその理由も、私が屋敷に帰るたびに足繁く通ってしまう理由も、いつから好きだったかというのも。




「私の勘違いだったのなら、そうだな、お前が結婚しないならあの娘には他の貴族との良い縁談を紹介しよう。」


「それは…!」


「なんだ嫌そうだな?友人なら、喜べ」



違うのか?と言いたげなクリス。

愉快そうに笑う彼の腹の底が見えない。

彼は続ける。



「さぁ、今お前に、選択肢はあるか?」



にっこりと笑みを深くする。

エリーが、誰かのモノになる?

ざわざわと胸が苦しくなる。

いつかは、と覚悟をしているつもりだった。

自分には家がある、貴族の娘と結婚して後継者を設けなければならないと思っていた。

なのに、オレじゃない貴族の男とエリーが?

そんなもの認められない、嫌だ、アイツがどこかに行くなんて考えられない。

だとすれば、オレの答えは…







「わかりました、貴方につきましょう。」



「ハハ、最初からそう言えばいいのに!」







もう!と拗ね、しかし嬉しそうな彼はいつもの友人の顔だった。


















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