勇者と魔王
目を開けるとそこは洞窟だった。
もしもの時のすぐに魔族の領地に行けるよう かつての魔導士たちが作ったと言われている水晶の前に僕達は立っていた。
「ここはもう魔族の領地なのか?」レントがそう聞きガネットがそれに答えた。
「そうね 正確にはここから少し歩いたところからだけどね」
いよいよ始まる作戦に緊張で皆の顔が強張っているのがわかる。
話でしか聞いた事がない残忍な魔族とこれから戦うことになるかもしれないと思うと恐怖や不安を拭うのはとても無理な話だった。
でもこのままで行っていいのか・・・それはそれで僕は不安だった。
「レント・・・ビビってる?」
「はぁ?ビビってねぇよ! 魔族なんて俺の敵じゃないね」
「へぇ~じゃあ僕の前 歩いてね」
「ちょ ゼドお前ふざけんなよ!」
「だって俺の敵じゃないんでしょ?」
「それは・・・会ってから決める!」
「会ってから決めることなのそれ?」ガネットが少し呆れた感じに言った。
「お兄ちゃん・・・情けない!」
レントがしょんぼりとしてしまった。
レントを見てガネットがクスクスと笑いだしそれにつられて皆が笑い出した。
ひとしきり笑った後に緊張がほぐれたのか皆表情が柔らかくなっていた。
「それじゃそろそろ行こう 僕は皆とならこの作戦絶対上手くいくと思ってるよ」
根拠のない自信だけど それでも今は皆を引っ張っていくためには十分なものだった。
洞窟から出ると目の前には灼熱の砂漠が現れた。
砂漠と向かい合うように灰色の不気味な森林があった。
森林には馬車が2台並んで通れそうなほど広い道がまるで森林を半分に切り離したように通っていて歩きやすいように綺麗に整備されていた。
「なんかこの道すごく綺麗に整っているわね」ガネットが不思議そうに言った。
確かに不自然だった。
砂漠までの道を綺麗にしたところでその先に魔族は行けないのだから綺麗にする意味がわからないのだ。
「もしかして侵略する準備のために綺麗にしてあるんじゃないか?この道幅なら軍隊でも普通に通れるくらいあるしな。」
レントの意見に皆が納得していた。
むしろそうじゃないとあまりに不自然な光景だったからだ。
しばらく歩いていくと森林が途絶えて曇った空が現れて少し離れたところに町が見えてきた。
町を避けていくべきだと思ったけど左右は岩山に囲まれててこの道以外に通れるような場所がない。
どうしようか相談してる所に町から人影が現れてこっちに向かってきた。
ここには隠れる場所もない。
襲ってきたら戦おうということで僕達も歩きはじめる。
人影が近づいてくるにつれて その人影が歩いていない事に気付いた。
少し宙に浮いて浮遊しながら移動してるのだ。
とても人間業じゃない魔族だと皆が確信した。
その人は背中に大きな籠を背負って僕達と何もなくすれ違って行ってしまった。
まるで大きな町で知らない人同士がすれ違うのと同じくらい自然に行ってしまったため身構えてただけに拍子抜けしてしまった。
町に入ると中は結構賑やかでこの道の両端には色々お店が並んでいた。
商店街の中でもごく自然に魔族達とすれ違っていく。
人間だと気づいていないのか それとも 何かの罠なのか 全くわからなかった。
そして商店街を抜けると居住区なのか石造りの家々が並んでいて この道の先に魔王城が建っているのが見えた。
「あれが魔王城かな?」リリが言った。
「そうね あと2時間かからないくらいで着きそうな距離よ」
魔王城の前に着いたのはガネットの予想通りの時間が経った頃くらいだった。
魔王城の門は空いていて人気もない感じで明らかに不自然で無防備 どう考えても罠だとしか思えなかった。
「どうする?」僕は皆に聞いた。
「見るからに怪しいよな もうおかしな事があり過ぎてこれが罠なのかすらわからんぞ・・・」
「お兄ちゃんの言うとおりだね 罠をかけるんだったらここじゃなくてもさっきの町でも良かったと思うし」
「もしかしたら町で何もしなかったのは油断させるためだった可能性もあるわよ」
一同「うーん・・・」と悩んだ。
「ガネット もし罠だったとして逃げれる可能性はあるかな?」
「うーん・・・ ゼドは確か魔力結構あったんだよね?」
「うん 普通の魔導士より確か2倍以上の魔力があるって王宮の魔導士の人に言われたよ」
「それなら最悪の場合 私とゼドの魔力を合わせて空間転移で逃げるってのはどうかしら?」
「それでいいんじゃね? ゼドとガネットが力合わせた暁には二人付き合うんだろ?」
「レント燃やすわよ?」
「とりあえず先に進むってことでいいね?」と僕が聞いて皆が頷いた。
そして僕達は魔王城に足を踏み入れた。
魔王城の中はやっぱり人気がなかった。
人が生活してるとは思えないほど何もなく、もしかしたら魔王なんて居ないんじゃないかと思ってしまうほどだった。
そして魔王城の最上階へ向かう階段を上っていく僕達は結局誰も居ないんだろうと薄々思っていた。
階段を登りきると大きな広間が現れて広間の奥の方にある玉座に誰かが座っているのが見えた。
魔王城で唯一ある玉座に座ってるのが魔王以外の何者でもないと思った僕達は各々の武器をしっかりと握りしめ静かに玉座の方に歩いて行った。
玉座に座ってる魔王らしき人は本を読んでいてこっちに気付いていない。
玉座まであと10mほどの距離まで近づいた時に魔王らしき人はこっちに気付いて本を閉じきょとんと僕達を見ていた。
真っ黒い髪で禍々しささえ感じる赤い眼 見た目は青年くらいでとても若い感じに見える魔王らしき人は僕達がイメージしてた魔王とはかけ離れてた。
「えっと・・・誰?」魔王らしき男が口を開いた。
「僕は勇者ゼド 覚悟しろ魔王!! お前を倒してこの世界に平穏を取り戻すんだっ!!」