狂気の魔王
いよいよ本編が始まっていきます。
今から60年ほど前 大陸の3割を領地としていた魔族でしたが当時の魔王は領地拡大を目論見人間の領地へ軍勢を率いて侵略戦争を始めました。
圧倒的な魔王軍の力に人間達は成す術もなく虐殺の限りを尽くされていました。
人間達に一筋の光が現れたのは魔王軍の侵略が始まってから半年後、その時すでに大陸の5割は魔族の支配下にあったと言います。
魔王軍の前に立ちはだかったのは『勇者ウィル・ストーリア』と『大魔導士グレイル・グロウズ』率いる魔王討伐軍でした。
勇者ウィルの最大の武器はこの世に斬れぬ物は無いと言われた聖剣ホーリーアーツと目にも止まらぬ瞬足だったと言われています。
大魔導士グレイルは人間でありながら魔族をも凌ぐ魔力の持ち主で一撃の魔法で魔王軍の大半を壊滅状態にしたと言われています。
それから魔王軍は少しづつ押し戻され大陸の1割ほどまで領地を減らしていきました。
そして最後の決戦が起きたのは魔王軍が侵略戦争を始めてから2年後の事です。
魔王との直接対決で勇者ウィルが魔王の羽を切り落とし魔力の大半を失った魔王は退却を余儀なくされ魔族を引き連れ魔王城のある大陸上部のバルド地方へと退却しました。
そして大魔導士グレイルは自らの命と引き換えにバルド地方とエルレ地方を結ぶ唯一の道を灼熱の砂漠へと変えて魔族の侵攻を食い止めました。
それから人間の世界には平和が取り戻され人々は勇者ウィルと大魔導士グレイルを英雄と讃え この日をグレイル・グロウズの英断と言う記念日にしました。
「ふぅー」
一息ついて俺は読んでいた本を閉じた。
その本の表紙には『大陸の歴史|(人間版)』と書かれていた。
「たぶん・・・魔王が羽を失った時点で魔王軍の侵略は終わったと思うんだけどなぁ・・・」
最近思わず独り言を言ってしまう事がある。
魔力の媒体となる羽を失う事は魔族にとって死と同じだけ恐れている事で羽を失った魔族ほどか弱いものはないと言う言葉が魔族にはあるぐらいだ。
『俺が魔王と呼ばれるようになったのは30年前からだ。
先代の魔王が羽を失い衰退しきっていた時期に俺が次期魔王になると名乗りを上げたが誰一人として俺を支持する者はいなかった。
当時の俺ははっきり言ってヒヨッコの若造で魔王になれる器ではないと魔族達は思っていたそうだ。
それでも俺は諦めなかった。
「誰も認めないなら認めさせればいい・・・」そう思った俺はか弱い先代魔王を殺し、胸に埋め込まれている魔王に代々受け継がれる『魔王の証』を奪ったのだ。
『魔王の証』とは体内に潜在する魔力を最大限に引き出す効果があり個人差はあるが平均で3倍の魔力を引き出せると言われている。
そして自分の胸に『魔王の証』を埋め込んだ俺は体内から溢れ出る魔力を抑えきれずに魔力暴走を起こし魔王城の半分を吹き飛ばしてしまったのだ。
正直その時の記憶があまり残ってないが聞いた話によると城が崩れ舞い上がった粉塵の中から真っ黒の髪の毛で両目を真っ赤に光らせた俺の姿を見た魔族達は「狂気の魔王が生まれた・・・」と恐れ慄き世界の終わりを覚悟したと言われた。
歴代魔王の中でも髪が真っ黒になるほどの魔力を持った者は居らず、魔力暴走によって城が崩れた程度で済んだものの最大魔力で暴走した場合大陸の半分は消し飛んでいたかもしれないと言う。
これが俺が魔王になった時の話だ。』