第15理論 裏切りの勇者
『馴染む人』のもう1つの力、『田中自身と彼女が対象にした人・物を派手な動きをしない限り気付けなくする』を使いながら城内を歩き回る僕ら。
時折聞こえる爆発音の方へ近づきながらも何が起こったのかを僕たちは予想していたのだがフィーナには思い当たることがあったのだった。
「実はだな、帝国が争っている魔人種の国、魔国ヴェインの人間が聖国と王国に入ってきているという話を聞いたのだ。ヴェインの魔人たちは人間種と獣人種は魔人種よりも劣っていると考えているのだ」
「つまりその国ならいきなり聖国の王城に攻撃をしてもおかしくはないんだね?」
「うむ、そしてそれが正しかった場合はクロナだけでも助けねばならぬ」
「彼女は教皇ですからね。ですが彼女を探しているのにどうして爆発音のする場所へ向かっているのですか?」
たしかに、彼女の地位ならば戦っている場所からは遠ざけられそうなものだけど。
「普通ならそうなのだがな。あいつはこの国にいる人を守るために戦っているだろうからな」
「………クロナさんは強いのかい?」
「仮にも一国のトップだからな。しかしそれを分かっていながらも攻めてきたということはどうにかできると考えたからだろう」
「じゃあ急いで………っ!?」
爆発音のする場所へ走って向かっているとクロナが壁を突き破ってこちら側に吹き飛んできた。彼女を無事に受け止めることはできたのだが続いて飛んできた炎の槍を防ぐのは間に合わず、4人の身代わりになろうとしたところで天木が前に出て右手を振ると槍は消えた。
「八幡君、クロナさんは無事ですか?」
「死んではいないけど傷は浅くないね。このまま何の手当もしなければ何らかの障害が残るかもしれない」
「では手当をお願いします。彼は私が足止めしますから」
炎の槍が飛んできた方を見るとそこには僕のクラスメイトだった浅木陽生が立っていた。彼は僕たちに気付くとその顔に歪んだ笑みを浮かべ話しかけてきた。
「よう八幡、それに天木と田中もな。そこのクロナとフィーナを俺に渡しな」
「これはいったいどういうことなんですか浅木君?」
「なあに、その2人を捕まえれば俺をヴェインの貴族にしてくれるっていう話があるんだよ。何ならお前たちも俺の配下として生きて行けるように交渉してやろうか?」
なるほど、勇者の彼が誘われて、裏切ったわけか。味方だと思っていた勇者に裏切られれば動揺して負けてしまうこともあるだろう。
そして彼という裏切り者がいるということは他にもいるかもしれない。強力なクラスを持つ勇者が敵に回るのは多少厄介ではある。
「フィーナさん、この場は私に任せてくださいね」
「うむ。貴様の力を見せてもらおうか」
「あーあ、交渉決裂だな。それじゃあお前らをボコして俺の奴隷にでもしてやるよ!」
そうして勇者同士の戦いが始まったのだった。