第10理論 1ヶ月後の2人
僕はこの1ヶ月で調べることができたことをまとめた調査書を読み返し、間違っているところがないかを確認した。まだまだ書きたいことはあるけれどまずは必要最低限のことだけを書いて、僕がいなくなった後にやってくるかもしれない人のために残しておこう。
「どうだ雪、終わったか?」
「うん、それでフィーナの方は調べることができたのかな?」
「ああ、これが勇者と呼ばれている者たちの名簿だ」
そう言って差し出してきた名簿を受け取り、目を通す。そこには想像通り、僕の知っている名前が書き連ねてあった。
「この名簿に載っているのは僕の学校のクラスメイトと先生だね」
「では貴様の推論は当たっていたということか」
「そうみたいだね。クレスト聖国が召喚した勇者たち、僕はその召喚に巻き込まれた」
勇者………強力な魔物を倒すためにクレスト聖国が呼んだ強力な人間。今回が初めての試みらしいがそれによってよばれたのは僕のクラスメイト達。初めは異世界から勇者を召喚したというクレスト聖国の知らせに興味を持ち、調べたのだがまさか知り合いが勇者と呼ばれているとは思わなかった。
勇者として呼ばれた彼らは強力なクラスを所有しているらしいがだからといって安全であるかは分からない。
だから僕とフィーナはクレスト聖国が開く『勇者お披露目会』へ次期国王とその婚約者として向かい、もしもアリスト王国の移住を望む人がいるならばできる範囲で叶えようとしているのだ。
「このお披露目には多くの国が呼ばれている。下手をすればそこに集まった各国の有力者たちが勇者によって拉致される可能性もある。そうなった場合、貴様はそれを止められるのか?」
「いくら強力なクラスがあったとしても使いこなせなければ意味はないよ。それに彼らと僕とじゃ踏んでる場数が違う。まあそれでも絶対とは言えないけど僕が何かへましたらフォローをお願いしますよ奥さん」
「仕方のない夫だな。まあ我はこれで尽くす女だからな任せるがいい」
うん、意外とフィーナは家庭的な女性ではあった。家事はできるし、僕が調べ物をしている時なんて次に僕が必要にする本を何も言わずに持ってきたときには驚いてしまった。
ついでに言えば彼女に不意打ちで『好きだよ』とか言うと顔を真っ赤にして照れるからかなり可愛かったりする。
そんなことを考えているとフィーナが僕をにらんできた。
「貴様、いま何かよからぬことを考えていなかったか?」
「いや、全然。フィーナは可愛いなあって考えていただけだよ」
「なあっ!?ば、馬鹿者!いきなりそんなことを言うやつがあるかあっ!」
「しかし付き合っている彼女をほめるのは彼氏としての義務なんだけど」
「ならば前振りをすればいいだろう!」
「………いや、それもどうなのかな?」
まあとにかく、僕とフィーナの関係は1ヶ月たった今も良好である。