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寂れた病院

シーラが目を覚ますと、すでにメーデンの姿はなく。代わりに地図のようなものが記されたメモと、病院の名前と思われる名前が書いてあった。

(ここに行けってことよね。)

メーデンは昨夜ビバティ中の病院を尋ねて回ったため、その際に一番対応の良かった最後の病院へ、シーラが行くようにメモを残していったのだった。シーラはメーデンの考えは分からずとも、メーデンの意思を汲んで街へ降りて行った。早速、その病院へ行ってみる。朝早かったため、病院の受付は開いていなかった。 シーラは行く当てもないため、その場で腰を降ろす。

(ギューグルるる)

シーラのお腹が盛大に、空腹を告げる。

(そういえば、昨日から何も食べてなかった…)

シーラは空腹を紛らわせるために、ローブを引き寄せて自分の体を両腕で抱きしめる。すると、ローブのポケットに何かが入っていることに気がつく。シーラはもぞもぞとポケットの中身を取り出すと、木屑を固めたような小さな立方体が出てきた。それと一緒にメモが入っていた。

「これは俺が作った栄養食品だ。材料はともかく、栄養はばっちり入っているから、一食一粒の割合で食べるといい。」

シーラは早速一粒口に含む、無味乾燥としていて、まさに木屑を食べている気分になり、すぐに飲み込む。

(まあ、とりあえずこれで飢え死にはしないわね。)

ポケットにこれでもかと詰め込まれたキューブを確認し、シーラは重いため息をつく。すると、病院の裏口が開き、中から若い女性が出てくる。その女性はシーラのほうへと、まっすぐに向かってきた。シーラは大慌てで立ち上がり、逃げようとする。

「待って。あなたがシーラちゃん?」

シーラは自分の名前を呼ばれて、振り返る。女性はよく見るとナース服を着ていた。シーラは警戒しつつも、うなづく。

「良かった。あの後、お兄さんと会えたんだね。」

メーデンはシーラの兄ではなかったが、シーラはとりあえずうなづいておく。女性はにこやかにシーラに近づいてくる。

「さっき、お兄さんから一方的に病院宛てにメールが届いて。シーラっていう女の子がこの病院に来るから、精密検査してほしいって。あなたどこか悪いの?」

シーラは首を振る。

「じゃあ、普通の健康診断にしておこうか。注射嫌でしょ?」

シーラは注射というものがよく分からなかったが、精密検査してもらわなくてはメーデンに納得してもらえないため、ナース服の裾を引っ張る。

「精密検査受けさせてください。」

「え?注射怖くないの?針を腕にプチって刺すの怖くない?」

針を腕に刺すと聞いて、シーラの顔は若干青ざめる。それでも、メーデンとの約束を守るために看護師の目をしっかりと見て、訴える。

「頑張ります。だから、精密検査受けさせてください。」

シーラの真剣な眼差しを受けて、看護師は少し驚くが、シーラの勇気を汲み取ってうなづく。

「分かった。じゃあ、精密検査受けよう。」

看護師はそう言うと、シーラの頭に手を置いて優しくなでた。シーラは始めてのことで、少したじろぐが、褒められていることは分かり、顔を赤らめる。突然看護師は大きな声を出す。

「よし!じゃあ、とりあえずシャワー浴びようか。少し汚れてるし、ね?」

そう言って、看護師はシーラの頬の汚れを手で拭う。シーラは久しぶりのシャワーに目を輝かせる。


シーラはシャワーを浴びてスッキリすると、検査用の服に着替える。朝早くから病院を訪れていたのは、シーラだけで入院患者もあまりいないようだった。シーラは病院というところに始めて来るので、この病院の異常な患者の少なさには気がつかなかった。それでも、もの珍しげにキョロキョロとするシーラに、先ほどの看護師が苦笑気味にシーラに病院の事情を伝える。

「この病院、他の病院と比べると患者さんの数が少ないでしょ。それに、中央の病院とかと比べると、狭いしスタッフの数も少ないの。」

「…そうなの?」

「うん。実はね、この病院ではクローン臓器移植をやってないの。」

「クローン臓器?」

「まあ、簡単に言うと、あなたのそっくりさんを作ってその臓器をもらうってこと。」

シーラが怪訝な顔をすると、看護師は慌てて訂正をする。

「今のは例えで、本当にそっくりさんを作ってるんじゃなくて、そっくりさんの臓器だけを作って悪い臓器と交換するってこと。」

シーラはしばらく考えたあと、看護師に確認をするようにゆっくりと質問する。

「それって、例えば私の右手がだめになったら、右手だけ作ってくっつけるってこと?」

「そう、その通り!頭いいね。」

看護師は再びシーラの頭を撫でる。シーラは少し嬉しそうにしていたが、ハッとする。

「何で、この病院はそれをしないの?だって、それっていいことじゃないの?」

看護師はシーラの頭を撫でるのをやめて、少し言葉を濁す。

「それは、うーん。大人の事情っていうか、まあこの病院ではとりあえず、やらないってことに院長が決めたの。」

「ふーん。」

シーラは大人がこのように、事情を隠したがるのをよく知っていた。そして、あまり深く聞いてもいいことがないことも知っていた。

「じゃあ、とりあえず最初の検診から行こうか。」

看護師はそう言うと、シーラを連れて診察室に入った。

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