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健康診断

シーラと青年は森を延々と歩いた。青年は寝る必要がないので、夜はシーラを負ぶって進んだ。

やっと森を抜けると、どこまでも続く草原に一本の道が現れる。

「あのさ、今はどこを目指しているの?」

「都市だ。一度、シーラの体を人間の科学で見てもらおうと思う。」

「…意外ね。」

「何がだ?」

「だって、魔法使いの方って人間の科学を軽く見てると思ったから。」

「魔法が効かないんだ。科学で調べるしかないだろ。」

「そうだけど。」

シーラはどこか嬉しそうに微笑む。

「それじゃあ、貴方の名前決めないとね。」

「なぜだ?」

「都市は人がいっぱいよ。はぐれたときに、名前がないと面倒なことになるわ。」

「そうか。じゃあ、名前を頼む。」

「じゃあ、貴方の好きな数字を教えて。」

「好きな数字?」

青年はしばらく考え込む。

「ないな。数字は単なる道具にしかすぎない。」

青年の返事にシーラは頬を膨らませる。

「もう、道具ならもっと愛着を持ちなさいよ。本当に何もないの?」

「ない。」

「えっと、じゃあそうね。メーデンでどう?」

「メーデン?別に何でも構わないが…」

青年はその名前に、どこか引っかかりを覚えた。

「じゃあ、貴方は今日からメーデンです。」

シーラは嬉しそうに、青年の新しい名前を口ずさむ。嬉しそうにしているシーラを見て、メーデンとなった青年はまあ、いいかと、引っかかりを忘れる。


シーラは塔に閉じ込められていたわりに、元気だった。夜はもちろん眠らなくてはいけないが、昼間は一日通して歩いても決して音をあげることはなかった。

「疲れてないか?休憩しなくて平気か?」

「メーデンは心配性ね。大丈夫。ずっと狭い所にいたから、こうやって歩くのがすごく楽しいの。」

そう言って、シーラは足取り軽くメーデンの先を歩く。メーデンもシーラの様子に、呆れながらも薄く笑う。


この世界に、今人間の住める場所はとても少ない。それでも、今までの大災害により減ってしまった人間の数からすれば、十分に暮らしていける面積はある。その中でも特に災害が起こりにくく、人間の力によって強化された場所が5箇所存在する。人間の大半は、この5箇所の都市で暮らしている。


「シーラ。都市に入る前に、一度俺の魔法でお前を調べてみたい。協力してくれるか?」

都市を囲う高い壁の側で、野宿をしながらメーデンは切り出す。シーラは不安そうに、自らの服の端を掴む。

「具体的に、何をするの?」

「俺が数字の魔法使いであることは、教えたな。俺は普通なら、どの人間の情報も数値化されて見える。だが、シーラの場合は何も見えない。」

「それじゃあ、調べようがないわね。」

「そうでもない。最初の日に俺はシーラの体重を知ることが出来た。直接情報を得ることはできないが、間接的であれば方法はある。そこで、一つはっきりさせたいことがある。」

メーデンはそこで言葉を切る。

「俺は、なぜシーラに魔法が効かないのか考えた。そこで、ふと気がついたんだ。シーラは生まれつき魔法が効かないのか。それとも、何者かの手によって、魔法が効かないようにされているのか。」

「それをどうやって調べるのよ。だいたい、魔法を無効化する方法なんてあるの?」

「分からない。だけど、完全にないとは言い切れない。現に、君のような人間もいるんだから。」

「それで?私は何をされるのかしら。」

「少し体に触らせてもらう。」

シーラはメーデンから距離をとる。メーデンは不思議そうに首を傾げる。

「別に叩いたりはしない。痛くはないはずだ。」

「そ、そういう意味じゃないでしょ!」

シーラはメーデンからゆっくりと遠ざかる。

「じゃあ、シーラは医者にかかるときも、医者に体を触らせないっていうのか?」

「それとこれとは別でしょ。」

「いいや、同じだ。俺は今からシーラの身体検査をするだけだ。だいたい、人間の医者にできることが、俺に出来ないはずがない。」

「…たかが数字を操れるだけの癖に。」

シーラは拗ねたように、小声で反抗する。メーデンはシーラに向けて指を鳴らす。シーラの後ろに椅子が現れる。急に現れた椅子に、ちょうど膝裏を押されたシーラはその椅子に座る。

「ちょっと、いきなり椅子って…」

「これは、今日の夕飯になった鳥の骨を元に原子をいじって作ったものだ。これもたかが数字を操るだけで、可能になる。」

「…悪かったわよ。いいわ、どうぞお医者さんごっこでもしなさいよ。でも、変なことしたら殴ってやるから。」

シーラは不満そうではあったが、メーデンの力を認める。メーデンは失礼と声をかけて、シーラの首筋に手を当てる。

「脈をとる。ゆっくり呼吸をして。」

メーデンに促されるまま、シーラは深く息を吐く。次に椅子を反転させて、メーデンに背を向ける。

「体の音を聞く。」

メーデンはシーラの背中に手を当てて、ゆっくり移動していく。メーデンの合図で再び椅子を反転させる。メーデンに促されるまま、口を開け、目を開き、一通り検査される。最後にメーデンはシーラに昔手術をしたことがあるかや何か飲んでいる薬はあったかなど、医者のように問診をする。シーラは覚えている限り大きな病気も怪我もしたことはなかったので、全てに首を振る。

「分かった。協力ありがとう。」

メーデンは再び指を鳴らして、ローブをテントに変える。

「結果は?」

「異常なし。もちろん、人間としてということだ。一般的な人の健康な状態と言える。協力ありがとう。」

シーラは安心して、テントに向かう。

「…メーデンは寝ないの?」

「寝る必要がない。」

シーラはメーデンの近くに腰を降ろす。

「メーデンって、ご飯も食べないし水も飲まないよね。」

「全て必要ないからだ。」

「でも、私が今まで過ごして来た魔法使いは、私とそんなに生活は変わらなかったわよ。」

「俺は魔法使いとして、かなり特殊だからな。」

メーデンの瞳は暗く、何か聞いてはいけないことを聞いたのだと、シーラは気がつき慌てる。メーデンは慌てるシーラを横目に確認して、指を鳴らす。突然シーラの服がネグリジェに変わる。シーラは立ち上がり驚く。

「さあ、お嬢さんはもう寝る時間だ。」

メーデンはシーラの背中を優しく押す。シーラも黙ってテントに入る。

シーラはテントに入るとき、焚き火の側に座るメーデンを振り返る。

(結局、あの腰につけてるナイフについても聞けなかったわ。)


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