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魔法使いの掟

世界は混沌としていた。いつもどこかで、大規模な災害が起こり、人間の住める場所は限られた一部のみ。この世界に、魔法使いに守られて育った少女は耐えうるのか。青年は日が沈むのを見届けると、塔を目指して飛ぶ。

塔の屋根に腰を降ろすと、昨日と同じようにシーラの歌声が聞こえてくる。青年がその歌声にしばらく耳を傾けていると、そのリズムに紛れて別の声が聞こえてくる。

瞬時に青年はその音を、打ち消す音波を流す。

「ふふふ、流石ここまで結界をくぐり抜けただけのことはあるわ。あんた、何者?」

青年の目の前に現れた女は、黒い艶やかな長い髪をたなびかせ、柔らかく着地する。

「魔法使いだ。お前にいくつか聞きたいことがある。」

「人に物聞くときは、まず自分からって聞いたことないかい?」

「あいにく、話すほどの人物じゃあないんでね。お前が人間にちょっかいを出していると聞いた。本当か?」

「この場所は、知られたくないからね。この場所に来た人間は、皆自我を失ってもらうのさ。」

「そうか。シーラを連れて人間のいない場所に住もうとは思わないのか?」

青年の言葉に、魔女はいきり立つ。

「ここは世界でも数少ない、安全な場所。今まで散々酷い目にあってきたあの子には、ここで穏やかに暮らしてほしいの。」

「囚われているな…」

青年は魔女に向けて、左腕を横一文字に払う。たちまち、魔女は動きを封じられ、体が硬直する。

「お前の手足の筋肉を、すべて固定した。指一本動かせない。」

「甘いわね。"浮き上がれ"」

魔女の合図で、青年の体が宙に浮く。青年は慌てることなく、魔女を睨めつける。魔女は口をパクパクさせるだけで、何も言葉を発さない。

「歌声の魔法使い。お前の声帯を完全に開いた。もう、望む音は出せない。」

魔女は怒りに満ちた目で、青年を睨みつける。青年は腰に手を回し、ナイフを取り出す。魔女はナイフを見ると、恐怖から声を上げようとする。

「このナイフの意味を知っているのか。さすが、無駄に長生きなだけはある。」

青年はゆっくりと近づきながら、魔女に語りかける。

「魔法使いの魂は、不死身だ。だが、体は違う。確かに人間よりは丈夫だが、ある特殊な条件で消滅する。一つは魔法を持たない人間を殺したとき。もう一つは、このナイフで刺されたとき。」

青年は魔女の体めがけて、ナイフを突き出す。突然、魔女の背後で大きな爆発音がする。青年の注意は、一瞬そちらに逸らされる。その隙を魔女は見逃さない。青年からナイフを奪うと、青年の体に突き刺す。

「ふふふ、こんなこともあろうかと、爆弾のスイッチを歯に仕込んでいたのよ。」

「…そうか。」

青年は、体の中心に刺されたナイフを魔女の手ごと引き抜くと、ナイフの切っ先を空に突き出す。途端に、空から雷がナイフめがけて落ちてくる。二人の魔法使いは一瞬、雷の光に包まれる。黒焦げになったのは、魔女だけであった。

「魔法使いといえども、体の作りは人間と同じ。死なないだけで、しばらくは動けない。」

青年はそう言いながら、魔女の手からナイフを奪う。

「…なぜ、お前は…」

「俺は、自分の体を流れる電流の強さを調整したからな。」

「…お前は、いったい?」

「数字の魔法使いさ。」

その言葉とともに、青年は魔女の体にナイフを突き刺す。魔女は消えかけながら、それでも問う。自分の腹に刺さったナイフを握り。

「…なぜ、お前は?」

「ああ、ナイフのことか。」

青年は魔女の体からナイフを抜き、自分の体に突き刺してみせる。

「残念ながら、俺は消えない。」

魔女は驚きで目を見開いたまま、消えていった。青年はナイフを再び腰の鞘に戻すと、傷跡に手を当てて傷を塞ぐ。ほんの数秒で、傷跡どころか、服まで元通りに修復された。

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