PHASE-08 デート(前編)
「ご、ごめん! 待った・・・かな?」
時刻は10時30分を回っている。
確か集合時間は10時だったような…。
「うん、いっぱい待った。」
過去に1回待たせたコトもあって、美鈴は結構怒ってそうな表情だ。
「ホントにごめんな〜。 お詫びと言っちゃあなんだが、その・・・、何かおごったるからさ〜。」
俺は頭をポリポリかきながら述べた。
「しょうがないですね。 翔平君がそこまで言うなら許してあげます。 でも、約束はちゃ〜んと覚えておいて下さいね。」
美鈴はだんだんいつも通りの表情へと戻っていった。
敬語の時の口調と、敬語じゃない口調の違いを聞いてみると、何か別人が話しているような気がしてならない。
この使い分けは何だろう…。
今日は休日のせいか、学園の周りに人が見当たらない。
その学園の姿を見てみると、いつもと違う姿を象っているような気がしてならない。
「さて、これからどこに行きましょうか…。」
まだ決めてなかったんか〜い! って突っ込みたい気持ちでいっぱいだった。
でも、これはしょうがないと思った。
何て言ったって、美鈴も俺みたいな男性と二人っきりでどっかに行くというのは初めてだ。
女の子となら行く場所は簡単に決まるのだが、異性となるとそうはいかないようだ。 美鈴の場合…。
そう思っていた俺だったが、美鈴はやっと答えが辿り着いたようだ。
「では、最近駅前に出来た、『ムーンライトデパート』っていう所はどうですか?」
「ああ、確か最近出来たみたいだもんね。 でも、あそこは…。」
そう、そこはカップル専用スポットの場所でもある所なのだ。
前に勇太が言っていたのだが、
『あそこは凄いぞ〜〜。俺も行ったコトはあるんだが、もうほっとんどがカップルの溜まり場でさ〜、ラブラブムードに発展しまくってるんだよな〜。 だからさ〜、自分達もそうしなくちゃイケナイみたいな感じにさせてくるんだよな〜。簡単に言えば、人を簡単にその気にさせられるコトが可能な所なんだ。この俺でも、結構危なかったしな〜』
コイツの言う『危ない』は何だろうと思いつつも、まさかこの俺がその場所に縁があるなんて夢にまで思っていなかったコトだ。
それを軽々しく言う美鈴も美鈴なんだが…。
果たして美鈴はこのコトを知ってるんだろうか?
「あそこ・・・何?」
「あそこはさ〜、何かほとんどがカップル専用スポットらしいなんだよね〜…。」
「うん、知ってるよ。」
し、知ってる!?
知ってて、良く軽々しく俺に言えたもんだと思う。
「翔ちゃんが嫌って言うんなら無理にとは言わないけど…。」
「べ、別に嫌とかそんなんじゃないけど…。 何かこう…俺でいいのかな〜って思っちゃってさ〜…。」
「ダメだったら、ここに呼んでませんよ?」
「確かに…。」
確かにそうだ。
もし、俺と行きたく無かったら何もここに呼ぶ必要なんてないからな。
「分かった、じゃあそこに行こう。」
とあっさりOKしてしまった。
内心少し複雑な面持ちだ。
「では、行きましょうか♪」
俺達はそう言い残して、例の場所へと歩んでいった――――。
「やっと着いたね。」
俺達は、学園から少し歩いた所のバス停から駅まで行って、5分の歩きでここまで来れたのである。
「ちょっと疲れちゃいました。」
こんな少しの短旅でも、美鈴は疲れの表情を見せた。
「じゃあ、ちょっと早いけど昼ご飯食べようか。」
デパートの中には、数多くの時間を過ごせる場所があるはずだ。
俺達はその内の一つに行こうとしている。
「はい、そうですね。」
「美鈴は何か食べたいモノでもある?」
「え〜と…、パスタ系が食べたいですね。」
「じゃあ、それにしよっか。」
美鈴の案により、俺達はパスタが食える所まで移動した――――。
「え〜と、私は、明太子スパ下さい。」
「じゃあ、俺はミートを下さい。」
「え〜と、明太子とミートですね? 少々お待ち下さい。」
店員さんはそう言い終えると、注文表を持っていった。
美鈴の顔を見ると、こっちの顔を見ながらニヤニヤ笑っている。
「どうしたの? そんなにニヤニヤしちゃって。」
「だって、何か嬉しいだもん。 翔平君とこんな場所に来れて、一緒に食事をしてるっていうコトがです。」
過去愛美とは、二人っきりでこんなことをしている時もあったが、そう多くはなかった。
少なくともその時は、完全に男と女という関係を意識はしていなかったが…。
でも、今日は美鈴の一言一言が、その異性の意識をさせるような感じにさせられれて仕方がない。
そのせいか、俺もだんだん照れくさくなってきた。
でも、良く見ればこんな学園のアイドルと一緒に行動が出来て、一緒に食事がとれるのだ。
普通の男なら、これ以上の幸せはないと思えるくらいだ。
俺も俺で普通の男だから、心に花を咲かせたような気分になってしまった。
今、美鈴を意識していないかって言われて、「意識していない。」
とは言い切れない。
初めて会った時から結構俺のタイプだったし、申し分のない相手として理解している。
だから、何か決定的な出来事が起こってしまったら俺は、美鈴に夢中になってしまうような気がしてならない。
でも、俺にはそれを妨げるような暑い壁が覆われているような気がして、その先に進むコトが出来ない状態になっている。 愛美のコトも…。
要するに、素直じゃないって言った方が正しいのかもしれない。
好きなのに好きじゃない。そ〜いう変な循環が俺の心を惑わしてしょうがない。
この壁を取り除くには何が必要なんだろう。
もし、取り除いたとき俺はどうなってるんだろう…。 そんなコトを思っていると、
「お待たせしました〜、明太子とミートです。」
と、今までの思考をかき消す様な店員の声が聞こえてきた。
「ううん〜。 これ美味しい〜♪」
美鈴は頬を撫でながら味を確認している。
「うん。美味しい〜。」
俺もちゃっかりと美鈴とリアクションをとってしまった。
「あら、翔平君ほっぺにミート付いてるよ?」
「え、どこどこ?」
「じゃあ、顔ちょっとこっちに寄せて。」
「こ、こう…?」
ペロ――――。
「え…?」
「てへへ☆。 翔平君のほっぺた柔らかいね。 それにそのミートも美味しいね♪」
美鈴の舌が俺の頬へと挨拶をしてきたのだ。
俺は動揺を隠し切れなかった。
ここまでやってくるなんてって…。
そんな俺の表情が面白いせいか、美鈴はニコニコこっちを見ながら笑っている。
頬を撫でてみると、確かに美鈴の感触を感じる。
何と凄まじい開放感。 何かに縛り付けられていたモノが解かれるような・・・そんな感じを覚えた。
「あ、私も明太子付いちゃった。」
何かを訴えるような眼差しが、俺の心を惑わしてくる。
俺も俺で心臓の鼓動が早まりつつなってきた。
でもまあ、さっきの『お礼』というコトなら別に抵抗感は、そう少ないモノに変わっていくだろう・・・。
そこでとうとう俺は決心した。
「顔、ちょっとこっちに寄せて。」
美鈴は待ってましたと言わんばかりの笑みで頬をこっちに近づけてくる。
ペロ――――。
「えへへ☆ アリガト♪」
やる側もやる側でむっちゃくちゃ恥ずかしくてたまらなかった。
でも、あんな目で見られちゃあ、さすがに素通りなんて出来ない。
しかも、やってもらってお返し無しのも感じを悪くしちゃうかなとも思った。
俺達は、そんなこんなとあま〜い昼食の日々を過ごした―――――。
今までなかなか書けなくてすいませんでした。 これからは、暇を殆ど費やすくらいの気もとで頑張っていきたいと思います。