PHASE-06 屋上
俺は自分の昼食を持ったまま屋上へと向かった―――――。
「岸田君遅いよ・・・。」
春風は顔を膨らませながら少し怒っていた。
「ゴメン・・・、ちょっと購買に買い足しに行ってて遅くなっちゃってさあ〜。」
学園という学校になってから、便利なコトに購買という昼食が買える所がある。
でも、便利なせいか人がいっぱいいて、自分の目当ての物を買うのに時間がかかる。そこんところが凶かな。
「それならしょうがないね。」
春風も怒り気味の顔だったが、いつもの顔に戻って俺は、安心した。
「じゃあ、食べよっか。」
俺はそう言って、さっき購買で買ったおにぎりをむさぼった。
彼女も彼女で、自分で作った弁当を取り出してお上品に食べている。
「私ね、実は昔から男の子というのが苦手なんだよね・・・。」
「何で?」
俺は、疑問に思った。俺も一応男なんだけど・・・と。
「小学校までは、まだ私恋愛対象として見られなかったの。だから普通に男の子とも喋るコトが出来たの。小学生だからまだ、そ〜いう感情が無かったのかなって。でも、中学生になったとたん急に私のコトを意識して、小学校の頃に普通に喋っていた男の子までもが意識し始めちゃって・・・。そうなっちゃってから、ラブレターとか、告白とかの毎日で・・・。そのせいで私男の子を好きになることが出来なかった・・・。自分の好みの男の子を探す余裕がなくて・・・・。」
彼女は、胸の奥そこに今まで溜まっていた想いを俺に打ち明けてきた。
「私もう、それが嫌で嫌で学校に行くのも嫌になったんです。でも、それを助けてくれたのが友人達だったんです。ホントに嬉しかった。私にあんまり近づかないであげてって・・・言ってくれたんです。 そのおかげで前よりかは人数が減って、少しは楽になったんですけどね・・・。」
彼女はさらに話し続けた。
「それで、何とか卒業まで我慢出来たんです。それで高校生になって、この学園に来られた・・・。そして、初めて岸田君に会った。岸田君に初めて会って、私何だか懐かしい感じをしたんです。小学生の頃楽しく喋っていた男の子にそっくりで・・・。理由はですね、私が隣の席になっても他の男の子みたいに好き好きオーラを出さず、同性同士みたいな話し方で接してくれたことです。それが私にとって嬉しかったんです。それが夢でもあったんです。男の子と普通にお話しが出来て、普通に行動するということ・・・。」
そ〜いうコトだったのか。俺の今までの疑問を打ち払うかのような証言だった。
だから、俺に話しかけてきたり、昼食を誘いに来たんだ・・・と。
「それから、徐々に恋愛感情へと発展していくっていうことってあるじゃないですか。私、そ〜いうのにすごく憧れていて・・・。簡単に言ったら、今まで私が出会った男の子の中で初めて出会ったタイプなんです。だから、つい興味を持ってしまったんです・・・。岸田君に・・・。」
俺は、納得納得の感情でうんうんと頷いた。
「だから、お友達になって下さい。 こんな私ですけど・・・。」
付き合って下さいと言われたら、考えモノだったが、お友達になって下さいと言われれば、
「うん、そのつもりだよ。」
と当然にOKしてしまう。
でも、お友達になる時は自然になっていくモノだと思っていたが、「なって下さい」と言われてなるのとは少し違う気がしてならない。
「あ、ありがとう御座います・・・。」
「いやいや、お礼はいらないよ。当たり前のコトだからね。」
俺は、彼女が恥ずかしそうな表情をしていたのでそれを浄化させるような満面の笑みで答えた。
もう、すでに俺達は自分の食うべき物を食い終えた状態になっている。
「もう、俺達友達同士になったんだからさあ、まだ何か言いたいことがあるなら言っちゃっていいよ。」
俺は、彼女がまだ何か言いた気な表情を目にした。
「では、お言葉に甘えて・・・。岸田君は好きな人いるんですか?」
「え?何でまた急に?」
急なる予想外の質問で俺はびっくりした。
「気になったものですから・・・。」
春風は俺の顔をじ〜っと見つめている。
「う〜ん・・・。良くわかんないな〜・・・。 気付いたら好きになっちゃってる状態っていう感じだからさ〜。」
俺は、彼女から目をそらしながら答えた。
「じゃあ、今現時点ではいるんですか?」
またまた見つめてくる。緊張の張り詰めた表情だ。
「・・・今はいないよ。これから出来るかもしれないけどね。」
過去、女の子という者を好きになったことはあるが、でも今現時点での状態では、そういう感情は無い。
「そうなんですか〜。」
彼女は嬉しそうにニコニコしている。
「そういう春風さんはどうなの?」
「美鈴って呼んでください。 もう友達同士なんですから・・・。」
さっきのニコニコ笑顔とは程遠くのモノ悲しそうな表情を見せた。
「じゃあ、美鈴さんはどうなの?」
「美鈴・・・。」
「美鈴はどうなの?」
「私は・・・。」
なぜか、ゴクリと唾を飲んでしまう。
「ひ・み・つです。」
「あ〜ずるいぞ〜、美鈴だけ言わないなんて。」
「だって〜、言っちゃったら面白くないじゃないですか〜。」
美鈴は、クスっと笑いながら俺にウインクした。
か、可愛い・・・。 俺は内心温かみを覚えた。
もしかしたら、恋に落ちてしまうような・・・そのなような感情に一瞬よぎったからだ。
キーンコーンカーンコーン。 昼休みの終わりを告げる音が聞こえる。
「早いですね・・・。もう少しお話ししたかったのに・・・。」
美鈴は残念そうに首を下に向けている。
確かに今まで良いムードだった空気がチャイムの音と共に妨げられたのだ。
「でも、隣同士なんだからさ〜、いつでも話なんて出来るじゃん。」
「愛美さんがいる場合でも、そんなコト出来ますか?」
愛美がいる場合!? 確かに言われてみればそうだ。
今日は愛美がいないおかげで、ここまでアイドルと仲良くなれたんだ。
もし、いつもどおりに愛美がいたら、俺は愛美を気遣って愛美の方へ行ったかもしれない。
でも今は違う。俺は今一人なんだ。
「それは・・・。」
俺はそんなコトを考えていたせいか、言葉に詰まった。
「なら、岸田君のメルアド聞いてもいいですか? いつでもお話ししたいと想っているんで・・・。」
お、俺のメルアド!?
愛美ですらに教えていないメルアド。
しかも、女子とメールしたことがないこの俺が、女子とメール出来るなんて・・・。
実は、昔からそれは俺の夢の一つでもあった。
女子とメールすることって、何か温かみを帯びていて良い気分になりそうな予感がする。
しかも、それが学園のアイドルとなると尚更だ。
「美鈴は、俺以外に男子とメールしたことは・・・?」
「ありませんよ。」
あっさり言い放った。
「じゃあ、あのラブレターのアドレスは・・・?」
「あれは、送らずそのままにして保管してあります。」
とまあ、あのラブレターに入っていたアドレスには目を向けなかったという真実が今ここに証明されたのである。
「やっぱり、興味がある人とメールをしてみたいっていうのは誰もが想うコトですからね。」
あのラブレターに入っていたメルアドは興味がないと言うのか?
「聞いてもいいですか?」
美鈴は両手を重ね合わせ、こっちの出方を伺っている。
「う、うん。いいよ。」
こういう場合は何というべきなのか?
俺は素直に返事することしか出来なかった。
そう言って俺はポケットにある携帯を取り出して、自分のアドレスが載っている所まで探った。
美鈴も美鈴で、ポケットから携帯を取り出した。
こうして俺達は無事アドレス交換を成し遂げた。
こんな可愛い子と交換出来るなんて夢みたいだ…って思いながら。
「岸田君とアドレス交換出来た・・・。何か夢みたい。」
それはこっちも同じだ。なんせ学園のアイドルと交換出来たからだ。
でも、俺はちょっと調子に乗ってしまいそうな気がした。 その気持ちを抑えようと必死だった。
「さあ、もう授業が始まっちゃうね。 行こう、翔平君♪」
初めて下の名前で呼ばれた。
関係が深まるにつれ、どんどん何かが変化していく現実を見て俺はビックリした。
「うん、行こうか。」
でも、その表情を内心だけに留めておいた。
俺達は、青春の香りが残る屋上を後にして教室へ向かった―――――。
次も宜しくです☆