PHASE-05 久々の一人
「明日の朝ゴメンけど先に行ってて。」
昨日の帰りに聞いた言葉が歩きながら思い出す。
今日の登校は珍しく一人だ。
小・中学校の頃から一緒に登校していたこともあって、少し寂しく感じる。
でも、過去に何回かこ〜いう時もあったので、大して気にしなかった。
今日も通学路に桜の絨毯が見られる――――。
校門の前に来た時、何か落し物をしたかのように何か探し物をしている人がいる。
「あ、おはよう岸田君。」
その人物は春風美鈴だった。
「お、おはよう。ここで何してるの?」
手を地面のあちらこちらに当てている彼女に問いかけた。
「ちょっと、コンタクト落としちゃってね。探してるの。」
周りには、もうすぐチャイムが鳴るせいか一人もいない。
「よし!俺も探すわ!」
目の前に可愛い美女を放っておくことは出来ないと思い、彼女と一緒に探してあげることにした。
「でも・・・、もうすぐチャイム鳴っちゃうよ・・・?」
「いや、いいよ。困っている人を目の前に放っておくなんて出来ないからね。」
「あ、ありがとう・・・。」
彼女はしばらく俺の方を見つめていたが、お礼の言葉を言い終わると共に探す仕事を再開し始めた。
「どこらへんに落としたか覚えてる?」
俺は辺りをキョロキョロした。
「え〜と、多分ここらへん・・・。」
と、言い終えた時俺は、桜の花弁の下に何かがありそうなヤツを見つけた。
それをめくると、
「もしかして、これのこと?」
「あ、そうそれです! 良かった〜〜。どうもありがとう。」
彼女はほっと胸を撫で下ろして、ニコヤカにお辞儀した。
「どういたしまして。まだチャイムが鳴るまでに時間があるよ。」
「あ、本当ですね。こんなに早く見つかると思ってなかったもんで・・・。急ぎましょうか。」
そう言って俺達は教室へ走り出した――――。
「え〜・・・ここで、ドモルガンの法則を・・・。」
先生の眠たそうな声が聞こえてくる。
何とか俺達は間に合ったみたいだ。良かった。
でも、愛美の姿が見えない。今日は欠席なのかな?
「今日は、愛美さんの姿が見えませんね・・・。」
「たぶん、家の都合があるんだよ。」
俺は、説得力に欠けている返答をした。
「あれ・・・?」
突然、春風が机の中を探りながら言い出した。
「どうしたの?」
「また、無くなっちゃった・・・。」
「何が?」
「シャーペン・・・。いつもこうなんです。中学校の時も・・。」
何となく想像はつく。
彼女のコトに惹かれている人なら彼女の使っている物を使いたいという欲を持っている人もいるかもしれない。
でも、そこでシャーペンを? という疑問が生まれてくるが、まあ気にしないでおこう。
「じゃあ、俺のを貸してあげようか?」
「で、でも、それ1本しかないのでは・・・?」
「うん、いいよいいよ。後で友人に見せてもらえばいいしね。それより春風さんは、俺より頭むっちゃくちゃいいから・・・ね!」
「で、でも・・・。」
「いいって!心配しないで。」
俺はこの時自分のコトなど、どうでもいいと思った。
俺みたいに勉強に意欲がないヤツより、頭良いヤツに譲った方が効率がいい・・・と思ったからだ。
「あ、ありがとう・・・。岸田君優しいんだね。」
彼女は俺のシャーペンを、優しそうな白い手で受け取った。
「いえいえ。でも、優しい人は俺以外にも沢山いるけどね。」
俺は、ちょっと照れくさくなりながら言った。
「ううん、そういう優しさじゃない。何ていうか・・・、その・・・、うまく言えないけど・・・。」
彼女は言葉に詰まりながらも、俺には何が言いたいか少しだけ分かった。
それを聞いた時、むっちゃくちゃ嬉しかった。 そう、あの愛美にすら言われたコトなく、初めて女の子に言われた言葉だったから――――。
キーンコーンカーンコーン――――。
「・・・もうチャイムが鳴りましたか。 では、終わります。」
と、教師は持っていたチョークを置いて、そう言い残して教室を出て行った。
俺も昼食の準備をし、食べようとした時、
「ねえ岸田君、お昼一緒に食べない? その・・・色々とお話もしたいし・・・。」
学園のアイドルからのお誘いだ。
でも、何で俺? と思うくらいに・・・。
こんなトコ他の男子に見られたら殺される・・・と一瞬脳をよぎった。
でも、せっかく誘ってくれてるし、俺も春風のコトをいっぱい聞きたいと思って、
「う〜ん・・・、別にいいよ。」
とあっさりOKしてしまった。
「じゃあ、5分後屋上に来てね。待ってるから。」
彼女はそう言い残し、その場を去った。
ちょっと先を急ぎすぎて、意味が分からないと思った方は自分の未熟さを許して下さい。