PHASE-04 春風美鈴
「ま、愛美ちょっと待てよ〜〜!」
「待てって言われて待つ人がどこにいるのかなあ〜?」
俺達は、無我夢中で走っていた。
けど、あっという間に自分達の教室に着いた。
「翔ちゃんの負け〜〜。ジュースおごりね!」
「はあはあ・・・分かったよ・・・。」
愛美も愛美であんなに走ったはずなのに、吐息すら見せなかった。
それと比べて俺は、もうバテバテだ。 やはり、半年運動をしていないせいかこうなっちゃったりしている。
「翔ちゃん、もう息上がってるね〜。私なんてまだ余裕よ♪」
何でなんだろな、この差は――――。
ガラガラ――――。ドアの開ける音がする。
「はい、それでは〜 みんな席に着け〜。」
一人の学年主任っぽい白髪の髪の先生が教室に入って来た。
この時俺と愛美は教室の中で少しお喋りしていた。
そして、俺達以外の人達も仲のよい友達同士でお話をしていた。
その先生の合図ちと共に教室の中は静まりかえって、椅子を滑らす音だけが鳴り響いていた。
俺の席は窓際の一番後ろの方だ。 それで、その前の席には・・・、
「翔ちゃん、あの先生何歳だと思う?」
やはり、コイツだ。
何かの因縁があるみたいか、くっつくのがやけに多い。
「そんなもん知るか〜!」
「こらそこ! 静かにしなさい!」
愛美の質問は小声だったのに、俺の返答は少し大きな声だった。
「もう、翔ちゃん。 声が大きいってば。」
「いや、すまん・・・。」
何で俺が? と思うくらいの悲しさだ。
「それでは、このクラスの担任を紹介する。」
その言葉と共に一人のメガネ教師が現われた。
「なぜ・・・・?」
「あ! あの面白い先生だ〜。」
そう目の前に現われたのは、
「どうも、退屈笑魔です。 1年間宜しく。」
あのDS先生だ。
と、俺達の声に気付いたのか、こちらに目を向けた。
「ああ。君達は・・・。何か面白い出会いだね。1年間宜しく。」
とまあ、のん気そうな声をしている。
「は・・・はい。」
「はい、宜しくお願いします!」
と、俺達のそれぞれの対の気持ちが溢れていた。
「ああ、そうだった。春風さん、僕のお手伝いありがとう。さあ、席についていいよ。」
「はい、分かりました。」
ドアの前に立っていた少女、春風美鈴が出てきた。
そして、徐々に俺達の近くに来て、俺の隣に座った。この時初めて気がついた。俺の隣の席が空いていたことを。
「春風美鈴です。宜しくね。」
彼女はこちらを向いてお上品そうに軽いお辞儀をして、ニコやかに笑った。
「よ、宜しく。」
俺も軽いお辞儀返しをした。
「では、明日以降のコトだが・・・。」
とまあ、あのDS先生の雑談が聞こえる。
俺はこの時、二人の美女が目の前にいる状態を知って、内心テンションが上がっていた。
「それでは、また明日。 元気で!!」
先生はそう言い残してスタスタと教室を後にした。と、それと同時にクラスのほとんどの男子が春風美鈴の所へやって来て、
「春風さん! これどうぞ!!」
「あ、僕のもどうぞ!!」
と、メルアド入りのラブレターを渡した。
本人も少し困り顔で、
「あ、ありがとう・・・。」
と、苦笑いをしていた。
男子も男子で、自分の想いを伝えたせいか、達成感の顔に満ち溢れてその場を去った。
俺は、その光景を唖然として見ていた。愛美も同じ様に。
でも、恐るべし学園のアイドル・・・。ここまでの人気があるとは・・・、いや、このような光景を目にしたのは初めてだ。
そう、クラスの男子の心を自分のモノにしたような感じだったのだ。
「大変ですね・・・。全部読むんですよね?」
俺は、彼女の机の上にある大量のラブレターを目をぱっちりして見ながら言った。
「中学校の時もこんな感じでしたから、もう慣れちゃってますけどね。 一応目は通しますけど、後はどうなるか・・・。」
彼女は、アドレスの書いてある紙を見て、深いため息をした。
「分かります・・・その気持ち。私の場合口でしたから、相手の顔を見て返答するのが辛かったですからね・・・。」
愛美も愛美で、山積みになっているラブレターを見つめていた。
「そうですか・・・。そちらも大変でしたんですね・・・。」
彼女もまた、山積みになっているラブレターを見つめて言った。
この俺には分からない世界。 モテルという現実。
他の人から見れば羨ましいと思うのが当たり前かもしれない。
けど、それは見かけだけの問題で、本人はそうではない。
俺は初めて、この現実を思い知らされた。 モテル人が大変だということを・・・。
「そう言えばお名前を伺っておりませんね・・・。失礼ですけど、お名前は・・・?」
「俺は、岸田翔平って言います。」
「私は、華恋愛美って言います。」
「そうですか・・・。あなた方お二人は恋人どうしなんですか?」
「いえいえ、恋人ではないです! 単なる幼馴染です。」
俺は、何故か完全否定するかのように強く否定してしまった。
「そ、そこまで否定しなくても・・・。」
愛美は何故か、俺の方をギロリと睨んでいる。
「そうですか・・・。 でも、恋人同士に見えますよ? 他人から見ればですけどね。」
「他人から見ればだけです!」
俺はこの時むっちゃくちゃ動揺していて、心にも無いことを言ってしまった。
「だから、そんなに否定しなくても・・・。」
愛美は悲しそうにこっちを見つめている。
「確か岸田翔平君でしたよね?」
彼女は念を押し入れるかのように質問してきた。
「はい、そうですけど・・・。」
「分かりました。それでは、お先に失礼しますね。では、また・・・。」
彼女はそう言いながら机の上の大量のラブレターをカバンの中に入れ、立ち上がってこちらを向いてニッコリ顔でお辞儀をして教室を去っていった。
「何で最後名前を質問したんだろ・・・。」
俺は、サッパリ分からなかった。
「何か意味があるんでしょうにね・・・。」
愛美もこのコトに疑問を抱いていたようだった。
気がついたら教室の中には俺達二人だけが取り残された状態となっていた。
「もう、誰もいなくなっちゃったね。帰ろっか。」
「うん、そうしようか。」
俺達は、机の横にぶら下げていたカバンを取り出して、教室を後にした―――――。
ネタが底をつきそうにないので、どんどん書いていきたいと思います。