PHASE-11 テスト返し
「さ〜これからテストを返すぞ〜。心してかかるように。」
無音にも響くこの声…あの人しかいない…。
「では、出席番号順に取りにきてちょ。」
退屈こと、DS先生だ。
「今日も先生ノリノリだね。」
「いや、あれはノリノリというか、俺たちを見下しているようにしか聞こえないが…。」
俺たちは先生の大げさな身振り手振りが大きく目に入っていた。
「でも、あ〜いう先生って何か憎めませんよね。」
「憎めないというか…、呆れるというか…。」
美鈴は美鈴で、困った笑みをしている。
徐々に自分の順番が迫ってきている。
たった1分くらいしか待たないのに、それがスローモーションのように微妙に長く感じてしょうがない。
「私今回手応え無かったからヤバイかも…。」
「私もです。入学してから全然勉強に身が入らなくて…。恐いです。」
二人は二人して、俺の今の心境をあざ笑うかのように、二人の表情と二人の言動が一致していない。
何か、変な気持ち…。
と、ここで俺に順番が回ってきたみたいだ。
俺は、恐る恐る教卓へと近づいていった。
返ってきて欲しいような…、返ってきてほしくないような…。
微妙な感情が、さらに脳を刺激する。
「お、君は確か…。 転校生か?」
「岸田翔平です! いい加減名前覚えて下さい!」
「あ〜あ、そうか、そうだったな。」
悪気があるのか、ないのかホントに分からない先生…。
それは、ともかく先生から手渡されたテストを見た。
「・・・。」
言葉が出ない…、この点数。
「君の頭大丈夫なのかなぁ〜?」
グサッ!
アンタに言われたくない…。
しかも嫌みったらしい言い方。
「その点数からすると、学年順位は…どうだろね。」
グサッ!グサッ!
考えたくもない現実…。
ホントに悪気があるのか、ないのか分からない。 いや、でも悪気ありそう。
「翔ちゃんどうだった〜?」
「翔平君、どうでした?」
グサッ!グサッ!グサッ!
二人一緒に聞くなよ…。
「ノーコメントで。」
「あ、まさか翔ちゃん、またやらかしたんだね。 ホンットに成長しないんだから〜。」
グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!
「翔平君、前からこんな感じなんですか?」
グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!
『こんな』って…。
「そうなのよね〜。中学校の頃からそれなりに勉強してるくせに報われてないんだよね〜。」
グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!
「そうなんですか…。」
「良い時もあるんだけど、でも悪いときが多いから、見てる私が呆れちゃうって感じなんだよね〜。」
グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!
「可愛そうな翔平君。」
グサッ!
ホンットに俺可愛そう…。
先生にあれだけ言われた後に、またこれだけ言われる…。
久しぶりに、精神崩壊の危機に直面しそうになった。
「あ、私の番みたい〜。 行ってくるね。」
と言い残して、愛美は教卓へと歩んでいった。
(ふっ、せいぜい俺と同じ悲しみを味わうんだな。)と悪魔みたいなコトを思ってしまった。
どんどん、愛美は先生の方へと到達しようとしている。
そして、先生からテストを受け取る瞬間に、
「あ、え〜と君は確か、バ・カ恋・学・見だったか?」
と何とも言えない表情で言っている。
「華恋・愛美です! もう先生ってば、わざと言ってるんですか〜!?」
「いやいやゴメンゴメン。またミスっちゃったな。」
先生は先生で、頭を掻きながら苦笑いしている。
「も〜、しっかりして下さいよ〜。」
愛美の機嫌のパラメータが徐々に急降下している。
「ああ、これから気をつけるよ。 多分…。」
「多分だけ余計です!!」
愛美はテストを引っ手繰って、自分の席の方へと足を進ませている。
「愛美どうだった?」
俺は、薄気味悪い笑みを浮かべながら問いかけた。
「どうもしない。」
愛美は相当機嫌が悪いみたいだ。
「はは〜ん、さては悪かったんだろ〜??」
「別に。」
「認めろよ〜。」
「もう〜! うるさいわね〜!! アンタには関係ないでしょ!!」
怒り心頭の愛美。
「ま、愛美…?」
俺はマジ焦った。こんな愛美久々だったからだ。
「あ…、今は話かけないで…。」
ようやく落ち着いたみたいだ。
「翔平君、ちょっと言い過ぎましたね。」
(あの〜、さっきアンタ等に思いっきり言われたんですけど〜)って内心強く思った。
「あ、そろそろ私の番ですね。では、行ってきますね。」
愛美と違ってお上品な仕草が何とも言えない。
愛美は愛美で何やらプンプンしている。どうしたのだろうか・・・?
美鈴の行く姿に目を追っている男子生徒が何人か見られる。
その歩き方は、とても品があって、アイドルそのものと言える。
「お、君は確か新入生代表の、春風・ブス図ではないか。」
この言葉が自然的に入ってきた男子は、先生をギロと、殺気満ち溢れた顔で睨んだ。
「春風・美鈴です…。」
この視線を目のあたりにした先生は、焦ったのか、
「いやいや、スマンスマン。美鈴だったね。許してくれぃ〜。」
と拝んでいるように謝っている。
「・・・名前を間違えるなんて誰にでもあることですから…。」
美鈴の冷ややかな目。
さすがの先生でも、この時ばかりは悔いありの瞬間にすぎなかった。
「美鈴〜、どうだった?」
「どうもありません。」
膨れっ面の美鈴。さすがに機嫌が悪いみたいだ。
「まさか美鈴も、めちゃめちゃ悪かったとか?」
「別にそんなんじゃありません。」
「じゃあ、変なことやらか・・・」
「ちょっと静かにして頂けますか?」
美鈴の生命力に欠けた瞳が何かを物語っていた。
愛美も愛美であ〜だし、美鈴も美鈴であ〜だし、俺も俺でこ〜だし、良く分かんないや。
「それでは、テストを返したコトだし、授業に…、」
とその時、教室の扉が開いた。
「おいDS。彼女のヤマンバさんからの電話だぞ。何やら急の用らしい。」
何やら、分けの分からぬハゲ教頭が出てきた。
「あ、これはこれは教頭。お久しぶりです。」
「いや、いつも会ってるであろうに…。」
教頭も教頭でため息をついている。
それと同じくして、ハゲもハゲで乗り気のない光のオーラを漂わせている。
「では、皆の諸君。自習という形で、宜しく〜〜。」
と、簡単に言い残して、そそくさと出て行った。
ホントに軽くて、イマイチつかめない先生だ…。
「何だかな〜…。」
このユーモアすぎる先生を目の前にして、俺はどうしようもない感情に浸ってしまった。
3日〜9日にかけて更新しようと心掛けております。