PHASE-10 迷う想い(春風美鈴編)
「ふんふんふん♪」
「美鈴、今日はやけにご機嫌だね〜。鼻歌まで歌っちゃって。」
「別にいつも通りだよ♪」
「はは〜ん、さては、例の男の子のコトでしょ?」
「もう、香織ったら〜! 翔平君とは、そんなんじゃないってば!」
「あらあら美鈴さん、そんなこと言っちゃっても良かったのかな〜?」
「・・・やっぱり前言撤回でお願いします。」
「分かれば宜しい。」
食堂では、二人の女性の会話が進んでいる。
「しっかし、あの不器用な美鈴が異性の子とそこまで発展していくなんてね・・・。 その翔平くんって子、美鈴を何か惹きつかせるモノでも持ってるんでしょうにね。」
「は、発展って・・・。」
「それで、どこまでいったの? キス?」
「そんなレベルじゃないってば・・・。」
「え? 何々? まさか、それ以上の関係まで・・・!」
「ち、違うってばぁ! そこまでいってないってコトだよ・・・。」
美鈴はかなり赤面している。
「あは・・・、そうだよね。 ビックリしちゃった。」
「香織ったら、気が早すぎだよ〜〜・・・。」
美鈴は辺りを見回している。
「じゃあ聞くけど美鈴はキスとか、それ以上の関係は考えないの?女の子なら普通、そこまで意識するもんだよ?」
「そ、それは・・・。」
美鈴は何やらモジモジしている。
「だ、だって〜・・・、何か恥ずかしいもん・・・。」
「あらあら美鈴さん。 あなた、良くそこまで言えるものなのですね。」
「え?」
「誰だったかなぁ〜。 昼食の時、例の男の子の頬にペロペロしてた人は。」
美鈴の顔が驚きから徐々に赤面に変わっていく。
「香織〜! な、何で知ってるの!?」
「さあ〜、何ででしょうね。」
とてもさり気ない返事だ。
「ううう・・・、恥ずかしい・・・。」
「まあ、アタシの情報網はスゴイですから♪」
自信満々の笑み。
「聞かないコトにしておきます・・・。」
美鈴は、何かを悟ったのか観念した。
「へぇ〜、でも、美鈴から誘ったんだ〜。 スゴイじゃない。」
「何か私ね、翔平君といると、人が変わると言うか何というか・・・。そんなんになっちゃうの。」
「それはね、美鈴。好きな男の子だからそうなっちゃうのよ。自分を良く見せたい、自分にもっと注目して欲しいという欲が出てきて、そうなってしまうものなの。」
「・・・私、翔平君に『私、翔平君にとても興味を持ってしまった』と言ってしまった。だけど・・・。」
「好きなのね?」
「・・・うん、好き。」
美鈴は、少し照れている。
「美鈴、やっと自分の言葉ではっきり言ったね。『好き』ということを。 内面で思っているよりも、言葉に出して言ってみるとちょっと違う風にも思えるのよ。人間、耳があるから、聞いて実感しないと分からないコトもいっぱいあるのよ。」
美鈴はうんうんう頷いている。
「告白したら? その誘いを受けたってコトは少なくとも、『付き合ってもいい』って思ってるはずよ。」
「それは、無理かもしれない・・・。」
今の美鈴には、この提案を素直に受け入れるコトが出来ないみたいだ。
そして美鈴の顔がだんだん険しくなる。
「何でそう思うの?」
「彼には・・・、愛美さんがいるから・・・。」
「愛美さんって?」
「彼の幼馴染の女の子。 二人いつもいつも仲が良いの・・・。」
美鈴はこの証言を言ったのと同時に、あの『壁』というモノまで脳裏に浮かんだ。
「だから、どうせダメなの・・・。幼馴染っていうコトで、それなりの時を一緒に過ごしてるし・・・。 私には・・・。」
美鈴は、あの時のモヤモヤが言葉と化して出てきた。
「だから何?」
「え?」
「恋愛に至るまでには、お互いに過ごした時間の量が必要なの? 美鈴、その考え甘いわよ。恋愛って言うのはね、今まで過ごした時間の量よりももっと必要なモノがあるのよ。美鈴それが何か分かる?」
「相手を良く理解すること?」
「少しおしいわね。」
「じゃあ、何?」
「他人よりもその人を強く想うコト(量)。いくら過ごした時間が長いからって、いくら相手を良く理解したって、最終的にはその人をどれだけ想っているかになるの。他の人よりも、自分が強く想う。そして、いずれそれは、何らかの形で相手に伝わる。 心が揺らいでる人にそれが伝わったらどうなるか分かってるわよね?」
「・・・。」
「その二人って付き合ってるの?」
「付き合ってはないみたいだけど・・・。」
「だったらいいじゃない。 もし、その愛美さんへの想いが強かったら、美鈴の誘いを受けてないと思うよ。」
「それは、そうだけど・・・。」
やはり美鈴は、まだ『壁』という文字を背負っているようだ。
「美鈴って上からサイズ何だったっけ?」
「え〜っと、上から、『88』『59』『87』で身長は162cmだったよ。」
「さすがは、アイドルね・・・。美鈴、もっと自身を持ちなさい。アナタこの学校のアイドルなんでしょ?逆に考えて、アイドルを振る男性なんて考えられると思う?」
「好きでアイドルになったわけではないんだけど・・・。それに、アイドルだからって、100%成功するとは限らないよ。みんなそれぞれ好みのタイプっていうものもあるし・・・。」
「成るほどね。美鈴はそこまで考えてるんだね。それが美鈴の良い所でもあると思うよ。美鈴がそこまで考えてるなんて思わなかったから、ここまで簡単に言っちゃったよ。 ごめんね。」
「ううん、謝らなくていいのよ。 私が、恋に臆病なばかりだから・・・。それに、私、A型で心配性だし・・・、根に持っちゃうし・・・。」
「美鈴A型だったんだね。A型か…、それならしょうがないわね。あ、ちなみに私はO型ね。」
「香織O型だったんだ〜。あ、言われてみればそんな感じ…だね。 何かO型って大らかな人多いし、喋りやすいから私好きだな♪」
「A型はどっちかって言うと内気が多いからね〜。そんなO型とA型がくっつくと良く合うって言われてるみたいだしね。」
「じゃあ、私たちって合う方に入ってるんだね。 何かこ〜いうのいいよね。」
「うん、そうだよね。 あ、その例の男の子の血液型は何なの?」
「分かんない…。今度聞いてみよっかな♪」
「聞いたら教えてね。私こ〜いうの興味持っちゃうタチなんで。人の誕生日、星座、血液型とかね。」
「うん、分かった。聞いたら教えるね。」
とまあ、血液型関連の話に移っていってしまった。
と、ここでようやく本題に入って、
「美鈴、もし、美鈴が『今の関係よりも進展したいと強く思う』なら、『告白』を考えた方がいいと思うよ。 私が言えるのはここまでだけになっちゃうけど・・・。役に立たなくてゴメンね。」
「ううん。香織はすごく役に立ったよ。私も、もう一度自分と向き合ってみるようにするね。今のままでいいのか、それとも・・・ってね。 あと、香織の助言で今日はむっちゃくちゃ気が楽になっちゃったからね。感謝してる。」
「美鈴、今はそ〜いうモヤモヤがあってしょうがないんだよ。それがあるからこそ、恋愛っていうものが成り立つんだからね。頑張ってね。これからも美鈴の恋、応援する。」
「うん、色々と香織ありがとう。私ももう少し考え直すね。今日はホントに相談に乗ってくれてありがとうね。」
「いえいえ。あ、そろそろ時間だね。 じゃあ美鈴、またね。バイバ〜イ。」
「うん、バイバ〜イ。」
これによって美鈴の心はどう変化したのだろうか。
そして、これからの行動をどう取るというのだろうか。
果たしてこの先には一体何が・・・。
ほとんど会話だけになってしまいました。