PHASE-09 デート(後編)
「あ〜お腹いっぱい」
美鈴は、お腹を抱えている。
俺も俺で、お腹と心がいっぱいになった。
「ねぇ、翔平君。 手繋ごっか。」
周りを見渡せば、手を繋ぐのが当たり前というのを見せつけられているような気がする。
美鈴は、これに憧れを持ったのか憚るコトなく言い出してきたのだ。
「恥ずかしくない?」
さすがの俺もこの時は照れた。
「私は大丈夫だよ。 翔平君が、嫌って言うんなら無理にとは言わないけど・・・。」
「全然嫌じゃないよ!! でも、俺でいいのかな〜って思っちゃってね・・・。」
「翔平君だから・・・繋ぎたいの。」
俺はこの時ドキンという気持ちになってしまった。
そう、とても照れくさくなるような感じだ。
「美鈴がいいんなら俺もいいよ。」
と、頭をポリポリかきながら答えた。
「じゃあ、繋ごっか。」
俺と美鈴の手と手が重なった。
美鈴の手は可愛らしくて、幼いような感じのようにも思えた。
希望と願望に輝いているような手、人の心を見透かすよう手、美鈴の手に触れただけで色々な感情が湧きあがってくる。
「どうしたの? 翔平君。」
「いや、美鈴の手があまりにもちっちゃくて、可愛らしいからちょっと見とれてしまってね。」
「もう、翔平君ったら・・・。」
美鈴はかなり赤面していた。
この表情が可愛くてしょうがない気持ちになってしまった。
このまま・・・恋人同士になってもいいかなと脳裏に過ぎった。
でも、やっぱり心の中でなぜかそれを隔ててしまう。 何でだろう・・・。
「ねぇ翔平君、ここに行ってみない?」
美鈴が差している指の先には、「占い」と大きな文字で書かれたテントを差していた。
「占いか・・・。」
「翔平君って占い信じる?」
「う〜ん・・・。 信じない方かな〜。」
「へぇ〜〜。 そうなんだ〜・・・。」
「美鈴は信じる系?」
「うん、信じるよ。 だからね、それよってその日はテンションが上がるか、上がんないかになっちゃうんだよね。」
「でも、占いは全てが当たるとは限らないから、運勢が悪くたってそんなに考え込む必要はないと思うけど・・・。」
「でも、悪いより良いって言われた方がいいでしょ?」
「んまあ、そうだけど・・・。」
俺には美鈴の言ってるコトが分からなかった。
占いってそんなに頭を悩ますモノなのか・・・?と。
「翔平君、行ってみようよ。 何か面白いかも♪」
美鈴は乗り気だ。
「・・・分かった。 それじゃあ、行こうか。」
俺は、彼女の期待に裏切らないようにと、仕方が無い気持ちで乗った。
その言葉と共に、俺たちは、暗いテントの中に足を踏み入れていった――――。
「こんにちは〜。」
俺たちはテントの入り口付近のカーテンらしきモノを退けた状態で挨拶をした。
「いらっしゃい。」
とてもお淑やかな声だ。
この声だけで、心身共に癒してくれそうな・・・そんな感じを覚えてしまう。
それに、自分の憧れのおばあちゃん像をも生み出すような情操のような気分にもなってしまう。
目は、透明な緑色を帯びている。
その目は、今まで何人ものの人々を見てきたような目、相手の感情をも透かさせて見るような目、その人の未来像をも見れるような目であるように見えてくる。
顔のしわは、今までの人生の中での、苦難を乗り越えた証のようにも見えてくる。
そう、細木数子よりもむちゃくちゃおっとりした感情の人だ。
入り口から入ってすぐに、椅子二つとその前にカウンターのような長テーブルが用意された状態となっていて、その長テーブルの先にお婆さんが座った状態となっている。
「宜しくお願いしますぅ〜。」
美鈴はお辞儀をして答えた。 どうやら美鈴は、はりきってるっぽい・・・。
美鈴の挨拶と共に、俺たちは椅子に座った。
「今日は何のようじゃ?」
「私たちのこれからのコトとか、私たちの相性とかについて教えて頂きたいのですが・・・。」
美鈴は手と手をかね合わせ、淡々と述べた。
俺はそんな美鈴の姿を、ただ呆然と見つめるコトしか出来なかった。
「相性は言うまでもなく抜群に良いようじゃ。友達同士、それ以上の関係でも言うコトないわい。」
お婆さんは、二人の顔をじ〜っと見つめながら答えた。
「そうなんですかぁ♪」
美鈴は、一人テンションが高くなっている。
「そちらの女の方は、どうやら恋愛には困らんようじゃ。容姿、スタイル抜群。頭脳明晰。澄んだ心の持ち主。 ここまで持っておいて、未だに恋愛の一つもしたないなんぞ、勿体無いコトじゃわい・・・。 このお方は、世の男性の憧れの的となるお方じゃからな・・・。 じゃが、これだけは、聞きなされ。 恋愛するのは勝手じゃ。じゃが、その相手をよ〜く選ばなければならんぞ? 世の中には沢山、濁った心の持ち主も存在するんじゃ。 ソナタを遊び半分で付き合う輩がいても不思議じゃないわい。そやつらに、惑わされるないことのないようにじゃ。 もし、その悪い輩と相手をしてしまったら、ソナタの心も濁ってしまうじゃろう。 目標物を失い、縛られるコトのない世界にへと足を踏みいれてしまうじゃろうに・・・。 そうなれば、ソナタはソナタで無くなる。 そのあまりにも快感な世界を体感してしまわぬように・・・。 でも、そこの男性なら大丈夫じゃ。 その男性は、とても温厚で純粋じゃ。 このワシが保障する。 とても良いお方じゃよ。」
美鈴は、うんうんと頷いている。
「恋人関係同士になれば、そなた達は幸福になるじゃろう。 じゃが、それまでに問題があるんじゃけどな・・・。」
「問題って何なんですか?」
美鈴は、とても真剣な目で問い質している。
「それは、そちらの男性にあるんじゃ。そちらの男性には、どうやら自分の気持ちをあやふやにするモノが存在するらしいのじゃ。自分の気持ちを隔てているモノ・・・これを解決するには、ちと大変じゃろう。それは、自分が一番知っているじゃろうに・・・。 じゃが、それを切り開いたそちらの男性には、思いがけない未来が待ち受けているじゃろう。 その未来こそ、そちらの男性が求めていたモノ。 そして、かけがえのないものへと変わっていくのじゃ。」
「・・・。」
俺は、閉じない口を感じながらも絶句した。
この俺の気持ちをズバッと当てたのには、さすがに驚いた。
それを一緒に聞いていた美鈴も美鈴で、寂しげな表情を見せてこっちを見ている。
美鈴にはどうやらその『隔てているモノ』というのが想像がついているようだ。
「じゃが、その隔てている『モノ』はじゃな、時が経つにつれ、どんどん浄化していくじゃろう。 要するにじゃ、焦らず、時間をかけてゆっくりと時を過ごせば何とかなるものじゃ。ソナタにとって、幸運が起きることを祈っておるぞよ。」
お婆さんは、自分の言いたかった全ての言い分を言い終えると、ニッコリ俺たちにニッコリ微笑んだ。
「お婆さん、今日はどうもありがとう御座いました。 お婆さんは、私今までに見てきた占いで、最高の占いですよ。 その後のアドバイスも良かったですし・・・。本当にありがとう御座いました。」
美鈴は、いつも間にかテンションが戻ったようだった・・・いや、そ〜いう素振りを見せているに過ぎなかった。 それは、この俺でも分からせる程のモノだった。
「そなた達に、ご冥福を・・・。」
お婆さんは、そう言って祈願していた。
俺も俺で、美鈴がテントから出た後、深いお辞儀をしてその場を去った―――――。
「今日は楽しかったね。」
あの後、俺たちはゲーセンやら、洋服屋やらに寄って、バスから学校まで来て、それから歩き状態となっている。
日は、もう傾きかけている。
夕焼けを見れば、さっきまでの事々が懐かしく、脳を刺激してくる。
「ねえ、翔平君・・・。」
美鈴は、納得のイカナイ表情を見せた。
「何?」
俺は何となく何が言いたいか分かった。 この美鈴の表情からなら恐らく・・・。
「さっきの占いホント当たってたね。 私もビックリしたよ。 翔平君も当たってた?」
やっぱり、占いコトだった。
「当たってたな・・・。」
俺は、限りない遠くの風景を見ながら答えた。
「それじゃあ、やっぱりあの話は・・・。」
美鈴は美鈴で下を向いてしまった。
「うん、そっくりそのままだね・・・。」
美鈴はまだ下を向いている。何かの答えに辿り着いて、落ち込んでいると言った様子だ。
「もしかして・・・、その『隔てているモノ』って愛美さんのコトなんじゃ・・・。」
美鈴が何やらボソっと言った。
「え?」
「ううん。何でもない。 えへへ☆」
美鈴はようやく下を向くのを止めて、こっちを向いて、ニコッとしている。
しかし、その笑みは造り笑顔となっていた。
「今日は、とても楽しかった♪ しかも相手が翔平君ですごく良かったよ♪ 今日はホントにアリガトね。 それじゃあ、また学校でね! バイバイ。」
「あ、ちょ、ちょっと・・・。」
俺は、美鈴に手を差し伸ばした。
でも、もう美鈴は俺の隣にはいなかった。
25M程遠くを見ていると、美鈴は、何かモヤモヤを胸に秘めたままのような感じで、足早に去っていっくようにも見えた―――――。
1回消してしまったんで、もう1回書くのに時間がかかってしまいました。