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 ***



「一番後ろの席じゃん。」


先にバスに乗り込んだ木少谷(ほいたに/※ホイ=木偏に少)が声を上げる。


「テツ早いな。」


後部座席付近まで行くと、梶呂(すぐろ)が既に一番後ろの窓側の席で寝る態勢に入っていた。


「オレも窓側がいい。」


快人(かいと)は梶呂と反対の窓側の席に腰を下ろす。


「まっ、いいけどー。」


木少谷が快人の隣の席に座る。


「あれっ?チョージは?一緒に来たんじゃないの?」


澄志朗(ちょうじろう)はいつも彼女と登校してるから遠回りして来る。」


「そーだった。あいつチビッコのくせに彼女持ちだったよー。」


木少谷が天を仰ぐ。

バスの中だから天井しか見えないけど。


「あれ?タキもう来てんの?なんか荷物あるし。」


結柴(きしば)さんは担任に連れていかれた。」


「へっ?なんで?」


「担任にアシスタントを頼まれてた。」


「タキは頼みやすそうだもんねー。カンちゃんもよく見てるよ。」


カンちゃんって…。


「ホイ、お前もう担任にあだ名つけたのかよ。」


「おぅ。神崎かんざきだからカンちゃん。」


「そりゃわかるけど。本人の前じゃ気を付けろよ。」


「わぁかってるって。今はまだ気を付けるよ。」




「じゃーん。」


前の席に座っていた竜希(たつき)が紙袋を持って振り返る。


竜希の席は通路側の席で、壱岐(いき)の真ん前の席になる。


「あー。ここの店知ってるよー。目永めながにあるんだよね?」


壱岐が竜希の持っている紙袋を指差す。


「そうだよ。昨日の帰りに紗羅(さら)と行ってきたんだ。」


「目永ってセレブな街じゃん。俺らにそんな気ぃ遣わなくっていいのに。」


「このお店はお手頃価格も置いてあったから気にしなくて大丈夫だよ。」


「中身はクッキーだ。気にするな。」


「まっじー?相賀(おうが)さん、あざーっす!」


木少谷のテンションがやけに高い。


まぁいつものことか。


「あとねぇ、壱岐くんがケーキって言ってたからパウンドケーキ焼いてきたんだ。」


「えっ?タッキーの手作りなの?」


「うん。ミックスフルーツとマーブルの2種類作ってきたから……はいっ。」


パウンドケーキ2切れが入った袋を壱岐に渡す。


「わぁぁ、タッキーありがとぉ!」


受け取った壱岐の目が輝いている。


壱岐は見た目からして甘いものが好きそうだ。


「梶呂くんと木少谷くんと蒼海(おうみ)くんもどーぞ。」


竜希が梶呂と木少谷にそれぞれ紙袋を渡す。


快人の分は木少谷から回ってきた。


「タキ、ありがとー。」


「結柴さん、ありがとう。」


木少谷と梶呂がすぐにお礼を言う。


快人は手のひらにあるパウンドケーキを見つめる。


快人の母親はよくお菓子を作ってくれるが、手作りお菓子を受け取るのをずっと断ってきた快人にとって、久しぶりに受け取った手作りお菓子だったりする。




「What a beautiful view!」


竜希が感嘆の声を上げる。


「確かに、素晴らしい景色だ。」


隣で眺めていた沙羅も竜希に同意する。


「だよねー。ねぇ、写真撮ろうよ。あたしデジカメ持ち歩いてるんだ。」


竜希は鞄からピンクのデジカメを取り出す。


「いいぞ。みんなで撮るのか?」


「まずは紗羅とツーショットしてからね。」


竜希が少し離れた場所にいた梶呂のところへデジカメを持って向かう。


目の前には都会を望む大パノラマ。


約2時間かけて登ってきた山。


ロープウェイもあるが今回は学校行事なので徒歩だった。


その価値はあると思う。


「梶呂くん、写真撮ってもらっていい?まずは紗羅とツーショットしたいんだ。」


竜希が梶呂にデジカメを渡している。


「あっ!タキ、カメラ持って来てんだな。」


快人の隣に木少谷が戻ってきた。


手にはフランクフルトを持っている。


「何?オーミも食べたかったの?」


「いや…。ホイ、よく食べるな。」


「山登りして体力使ったから腹減るじゃん。」


「これから昼飯食うんだろ。」


「俺はまだ余裕で食えるね。」


「オミくーん!ホイちゃーん!みんなで写真撮ろってー!」


壱岐がこっちこっちと手招く。


竜希と壱岐のデジカメで6人並んで写真を撮った。


その後は観光客に人気の蕎麦屋に入った。


木少谷は蕎麦屋なのにカレーライスを食べていた。


下山して、バスに乗り、学校に戻った。


先輩達は部活があるけど、1年生は明日テストがあるのでそのまま解散となった。




快人の手元には手作りのパウンドケーキが残った。


結局バスの中では食べなかった。


壱岐はベタ褒めしていたし、木少谷も「美味い」と言っていた。


まずはマーブル味から食べてみる。


まぁ確かに美味かった。


甘さ控えめだったので快人も躊躇なく食べれた。


「あっれー?兄貴が菓子食ってる。めっずらしー。」


弟の泰人たいとがリビングに入ってきて、テーブルに置いてあったミックスフルーツ味のパウンドケーキを取って口に入れる。


「1個ちょーだいっ!」


既に口に入れてからそんなことを言う。


「てゆーか手作りじゃん、コレ。母さんの作るやつとは違う味がする。どーしたの?」


「……貰った。」


「ま、じ、で?女!?女から貰ったんだろー?毎回断ってた兄貴が?初めてじゃね?もしかして入学早々彼女できたの?兄貴のくせに行動早過ぎー。」


相変わらずよく口が回る弟だ。


「んな訳ねーだろ!」


栖葉(はらな)さんの彼女かもしれない女だ。


「なーんだぁ。珍しいこともあるもんだな。心境の変化でもあったのかと思った。」


泰人はケーキを一気にパクパク食べてから


「美味かったー。兄貴の想い人にお礼言っといて。」


とふざけたことを言った。


「はっ?」


「違うの?気になったから受け取ったんじゃないの?」


断じて違う。

流れで受け取っただけだ。



 ***



快人は駐輪場に自転車を停めて部室棟まで歩く。


今日は早く来すぎたから軽くウォームアップでもするかな。


「あっ。」


部室棟の陰に人影見えた。


よく見ると凜斗(りんと)と竜希だった。


竜希は建物を背にして、向かい合うように立っている凜斗と何か話をしていた。


勿論快人がいる場所からでは聞こえない。


凜斗がまたあの優しい笑みをして竜希の頭を撫でた。


竜希がはにかむように笑う。


それを眺めていると快人は何故だか気分が悪くなった。


普段はあんな優しい顔をしない凜斗。


結柴竜希はなんなんだ?


快人は気付かれないように部室棟に入った。




誰もいない部室で制服から練習着に着替えた。


何故だか気分が悪かったので、いつもより早く着替ることができた。


部室を出て、階段を降りる。


二階に降りたところで梶呂と遭遇した。


「はよ。」


「あー…はよ。早かったんだな、テツ。」


「俺はいつもこの時間。」


「まじ?まだ開始まで30分以上もあるじゃん。」


時計を見ても6時半にもなっていない。


「でも来てる奴もいるから。」


「おっす!」

「はよーっす!」


部室棟の入り口で何人かと擦れ違う。


グラウンドに出ると既に20人程がそれぞれ自主トレをしたりしている。


「オレもこれから早く来て自主トレしよっかな。」


「チーム外の人とも練習できるから刺激になっていいと思う。」



 ***



快人はあれから朝練の集合時間より早く来るように心掛けている。


以前凜斗と竜希が二人で話していた部室棟の陰では、ほぼ毎朝二人っきりでいるところを見掛けた。


二人の関係は相変わらずわからない。


凜斗に訊ねる訳にもいかず、かと言って竜希に訊くのは癪に障る。


目撃者はオレだけなのか…。


「なぁ、テツ。」


快人は隣で柔軟している梶呂に声をかける。


「ん?」


「テツはその…毎朝早く来てるだろ。それで…その…なんかマズい場面目撃したり…とか…してない?」


「マズい?」


「だから…他言無用なのかな…とかって気になる場面。」


「他言無用?」


「だから…」


「すまない、蒼海。ハッキリ言ってもらわないとわからない。」


「だから…えっと…その…」


こういう話題は口に出しにくい。


「栖葉さんってめっちゃカッコイイけど彼女とかいんのかな?」


結局こんな質問になってしまった。


「すまない。俺はそういう話題に疎いからわからない。」


「そっか。」


「ただ、結柴さんとは親しいみたいだ。」



 ***



翠鳳(すいほう)学園に入学して半月が経った。


凜斗と竜希の関係はわからないままだ。


相変わらず朝練前の早い時間に来ては、部室棟の裏で会っているようだし、校内でも偶に一緒のところを目撃した。


休日の部活の後、一緒に帰っているのを目撃したこともある。


兎に角快人は凜斗と竜希のツーショットをよく目撃してしまう。


そしてそれを目撃してイライラしている自分がいる。


凜斗のことはT宮杯選手権で知った。


衝撃的だった。


だから翠鳳学園に入学しようと思った。


快人は凜斗を尊敬してる。


故にイライラする原因は「オレは結柴竜希が嫌い」だと結論付ける。


とてもしっくりきた。


栖葉さんを尊敬しているオレ。

栖葉さんにくっついている結柴竜希。

結柴竜希は栖葉さんの隣に相応しくない。

オレは結柴竜希が嫌い。


そうだ!

初めて会ったときから訳が分からない女だった。

再会したときだってそうだ。


快人は最近のイライラの原因がわかりホッとした。

読んでくださりありがとうございます。


やっと入学して半月経ちました。

本当はサクサク進めたいのですが…

名前は最初から登場しているのに出番がない方がいますし。

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