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入学式が終わり、クラス分け表通りの教室に入る。
「はよっす、オーミ。」
木少谷(ほいたに/※ホイ=木偏に少)が教卓のところで片手を挙げる。
「ホイ、さっきどこ座ってたんだよ。」
式の間、木少谷は見当たらなかった。
「あー。ホイちゃん来てるしぃ。サボリ?」
教室まで一緒に来た壱岐が、快人の後ろから顔を出す。
「サボってねーよ。ちょっとギリギリだっただけだって。だから一番後ろの席に座ってた。」
「そーだったんだぁ。ボク達前の方だったからね。」
「それより、見てみろよ、これ。」
教卓のところで騒いでる木少谷は、こっちこっちと手招きして、あるファイルを指差す。
「なんだよ、それ。」
「出席番号順の席次表だよ。」
快人と壱岐、壱岐の後ろにいた梶呂もゾロゾロと教卓に向かう。
「俺一番前だし、ドア近いし、超離れ小島なんだけど。」
木少谷の手元を覗く。
確かに木少谷は一番前の席だった。
「オーミなんか、一番後ろだし、窓側だし、中庭望めるし、しかもテツの隣だし。ずりーよー。」
「一番後ろはラッキーだな。テツよろしくな。」
快人は梶呂とハイタッチした。
「あっ。ボク一番前じゃなーい。アの人いたー。」
壱岐が一番前の席じゃないとわかって喜んでいる。
「ボク大抵出席番号1番だもんねぇ。」
「てゆうか、チョージの隣ってタキじゃん?」
『壱岐』の隣には『結柴』と書いてある。
「名字が同じだけかもしんないじゃん。」
壱岐が躊躇うように言う。
『結柴』なんて珍しい名字だけど、他にいないとは限らない。
「いや。結柴さんはタキだよ。俺、クラス分け表確認した時に名前見つけたし。」
梶呂は結柴より五十音順が後だから見つけていたようだ。
「てゆうか、オレみんなが言うタキ?結柴さん?がわかんねーんだけど。全然会ったことねーし。」
あれから何度も『タキ』という名前は聞くけれど、快人はまだ会ったことがなかった。
「オミくん、ボクも会ったことないよ。鉄ちゃんに聞いただけしか知らないし。」
「まっ、同じクラスだから絶対会うって。それに同じ部だし、関わりあるある。」
そう言って木少谷が快人の背中をバシバシ叩く。
ふと木少谷の目線が教室のドアに向かった。
「はよっす、タキ。同じクラスだし、よっしくー。」
木少谷が教室の入り口に向かって手を振る。
快人も教室の入り口に視線を向けた。
「「あっ。」」
教室の入り口で立ち止まった彼女と目が合い、快人の呟きと彼女の呟きが重なった。
彼女が結柴竜希だった。
合格発表で出逢い、
オレに挨拶のキスをしてきて、
桜の舞う中去っていった、
名前も知らなかった女。
そして、
オレの尊敬する栖葉さんの彼女?
かもしれない女。
シマさんの妹。
英多や浪越が狙ってる女。
よくわかんない帰国子女の女。
これからオレを振り回す女
になるなんて
この時は思いもしなかったんだ。
「I'm glad to see you again!」
彼女、結柴竜希が快人に向かってくる。
そして…ハグされた。
「ちょっ、おまっ、何っ、ざけんな!」
快人は慌てたし驚いたし焦った。
故に何を喋っているのかわからない感じになってしまった。
快人は竜希の両腕を掴んで引き剥がす。
「ここ日本!まじ信じらんねー。」
帰国子女だからって。
「竜希?私もビックリしたぞ。知り合いだったのか?」
竜希の後ろに居た黒髪ロングのモデルみたいな女が竜希の肩に手を置く。
「本当にまた会えたから嬉しくて。」
竜希が笑顔で快人の手を両手で掴んで握る。
「タキー、俺も驚いたよー。実は大胆なんだねー。ってか、いつの間にオーミと出会ってたの?こいつさっきまで知らないとか言ってたんだけど。」
木少谷が快人の肩にガシッと腕を絡めてくる。
快人は急いで掴まれてる両手を竜希の手から引き抜く。
「オーミくん?って言うの?一回だけ会ったことがあるんだけど、お互い名乗らなかったから。」
「えー、いついつ?どこで会ったの?」
木少谷が竜希に迫る。
「それは――」
「ホイ、うるさい。どーでもいいじゃん。忘れた。」
快人は木少谷を竜希から引き離しながら、竜希が話し出そうとした言葉に被せる。
木少谷に知られたら面倒だからか素っ気ない声になった。
「あたしも、あんまり覚えてないかも。」
竜希が快人と目線を合わせてニコッと笑った。
彼女が空気を読んでわざとそう答えたのかもしれないが、快人はなんだか小さなモヤモヤしたものを胸に抱えた。
快人は自分の席に着いてから、机に突っ伏していた。
理由は簡単だ。木少谷がうるさいから。
ずっと無視していたら、担任がやって来てLHRが始まった。
まずは定番の自己紹介。
30人分の名前と顔なんて一気に覚えられる筈もないから、そこらへんは追々。
このクラスは内部組より外部組が多いらしい。
男女比が2:1の翠鳳学園だけあって男の方が多いけど、快人の席から見て右の真ん中あたりは女子生徒ばかり固まっている。
目の前の席には、さっき竜希と一緒にいた女が座っていた。
さっきの自己紹介で相賀紗羅と名乗っていた。
このクラスには部活仲間もいるし、特に困ることはなさそうだ。
「オーミ、テツ組もうぜ。」
木少谷が快人の席までやってくる。
「チョージ。」
快人は一番後ろの自分の席から、前から2番目に座ってる壱岐の頭に声をかける。
「タッキーもいいよね?」
壱岐は振り返りながら言う。
どうやら竜希も同じ班に誘うつもりらしい。
「オレは――」
「もっちろん!」
嫌だと言おうとしたのに木少谷に遮られた。
よく考えたら楽かもしれない。
あんなよくわからない女でも、一応は同じ部活なわけだし。
明日は新入生オリエンテーションというイベントで登山に行くらしい。
登山と言っても、標高がそんなに高くない山だから、手軽に登山できる山として観光客にも人気だ。
1クラス5〜6つの班に分かれて班行動を取るらしい。
登山だからと、担任が男女混合の班に分かれるように言った。
毎年どのクラスも、結局は男女混合班になっているらしい。
男は4人組、女は2人組を作って、あとでくっつけるみたいに言っていたけれど、内部組はそれぞれ顔見知りがいたりして、結局うまい具合に纏まった。
「昼は向こうで買うとして、バスの中での菓子決めようぜ。」
木少谷がこの班の班長になったので仕切っている。
「被らないように系統分けたらどうかな?」
因みに副班長が竜希になっている。
「それはいい案だな。チョコ系とか、スナック系とか?」
相賀は喋り方が女っぽくない。そこは好感が持てたりする。
「それいいー。自分のオススメ教えられるし、逆にオススメ教えてもらえるしぃ。」
壱岐もノリノリで賛同している。
「じゃあ、6つの系統どう分けんの?」
「紗羅が言ったみたいに、チョコ系とスナック系でしょ。あとは、キャンディー系にガム系にお煎餅系?」
「竜希、それでもまだ5つだぞ。」
「じゃあー、ポッキー系ってのは?」
壱岐が思い付いたように口を挟む。
「チョージ、チョコ系はもう出てるぞ。」
「じゃあー、ケーキ系?」
「チョージ、生菓子はヤバいだろー。ということで却下。」
壱岐の意見は木少谷に即刻却下された。
確かに生菓子は時間が経ったらヤバいもんな。
「待って。それいいかも。」
「竜希?流石に生菓子はヤバいと私も思うぞ。」
「そうじゃなくて、焼き菓子は?カップケーキやパウンドケーキもケーキでしょ?」
「なるほど。確かにそれもそうだな。」
「今思い付いたけどクッキー系はー?」
壱岐が手を挙げて発言する。
「クッキーも焼き菓子に入るから、焼き菓子系にしよう?」
「じゃあ6つ出たから、それぞれ何系担当か決めようぜ。」
漸く纏まったらしい。
菓子かぁ、甘いものはあんまり食べないしな。
「ってゆうか、オーミもテツも全然発言してないし。お前らから決めろよ。」
オレとテツが発言しなくても進んだんだからいいじゃんか。
「じゃあオレ、ガム系にする。テツは?」
ガムだったら比較的食べる方だし。
「鉄ちゃん、お煎餅系にしたら?鉄ちゃんのお婆ちゃんよく食べてるし。」
テツの婆さんは関係あるのか?
まぁ別にいいけど。
「あぁ。」
「じゃあー、ボクはチョコ系にするぅ。」
また壱岐が手を挙げて発言した。
「じゃあ、俺はスナック系にする。家にありそうだし。」
「紗羅はどうする?」
「どちらでもいいが…近所にいい洋菓子店があるから寄ってみよう。」
「あたしも紗羅のオススメ店気になるから一緒に行きたいけど…部活あるしなぁ…。」
「部活は何時に終わるんだ?」
「今日は明日がオリエンテーションだから1年だけ早く帰れることにはなってるんだけど…実際始まってみないと詳しい時間はわからないや。」
読んでくださりありがとうございます。
やっと再会できました。ヒロイン登場です。
それにしても…台詞多いですよねf(^^;
R15に設定してますが、今のところそんな要素がありません。
まだ先ですね。