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急に登場人物が増えてますがサラッと流してください。
サッカーも素人なのでサラッと流してください。
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「おっすー」
翠鳳学園の正門に寄りかかっていた木少谷樹羅(ほいたにきら/※ホイ=木偏に少)が快人に気づいて手を振る。
快人はそれに応えて軽く手を挙げる。
「オーミ、中学に合格報告行った?」
「行ったよ。」
「会わなかったじゃん。俺なんか奇跡に感動しすぎてすぐ報告に行ったぜ。」
正直あの日は頭がパニクってたし、だから次の日に改めて報告に行った。
「ホイ受かってたんだな。悪くて聞けなかった。」
快人はニヤリと笑ってやった。
「ひっでー奴。でも俺もこの合格には奇跡的なものを感じたからな。」
「ホイとの腐れ縁もまだ続くな。」
快人は右手で拳を作り、木少谷も右手で拳を作り、お互いの拳を合わせながらニヤリと笑い合う。
「俺とオーミのゴールデンコンビも不滅っしょ。」
自分でゴールデンコンビとか言うなよ。
今日は今年度の新入生を交えての初の部活動日。
翠鳳学園のサッカー部は、国立競技場の常連校で有名だ。
故に部員の人数が半端ない。
普段から中等部と高等部合同で部活をしたりもしているらしく、内部受験組は春休みも部活に参加していたらしい。
4月2日。今日初めて外部受験組のサッカー部入部希望者達が練習に参加できる。
ざっと見た限りでも150人くらいいそうだ。
「外部組の1年生と内部組の1年生はピッチA内にそれぞれ集まってください。」
グラウンドから拡声器で大きくした声が聞こえた。
第一グラウンドに近い掲示板にはピッチA〜Dについて記載があり、さらに道路を挟んだ向こう側に芝生のスタジアムまで完備している。
ピッチCとDは中等部で使用中らしく、高等部ではピッチAとBとスタジアムを使用するらしい。
「オーミ、行こうぜ。」
木少谷がグラウンドに入る。
「おはようございます!よろしくお願いします!」
木少谷は元気よく挨拶して頭を下げる。
快人も続いて挨拶をしてグラウンドに入った。
グラウンドに入る際に必ず大声で挨拶をするのは、小学生の頃から変わらない当たり前の習慣だった。
1年生は外部受験組と内部受験組を合わせて50人くらいいた。
これに2、3年生の先輩が100人くらいいるので、高等部だけで部員数約150人になる。
これはかなり揉まれそうだ。
「皆さん翠鳳学園高等部へようこそ。入学式はまだですが、ご入学おめでとうございます。」
温和そうに見える男子生徒が拡声器を持って話し始める。
快人はその男子生徒に見覚えがあった。
「「「ありがとうございます!!」」」
内部受験組が声を合わせて答えるのに、外部受験組も負けじと合わせる。
「僕はチームSでボランチをしている3年の結柴獅希と言います。実は翠鳳の生徒会長もしているので宜しくお願いします。」
「「「宜しくお願いします!!」」」
やっぱり栖葉さんと組んでる結柴さんだ。
「内部組の皆は知っていると思うけど、部員数が多いのでS・A・B・C・D・Eと6つのチームに分かれています。グループの入れ替えは勿論あります。学年とか関係無いので、切磋琢磨して、実力で是非チームSを目指してください。」
「「「はい!」」」
快人を含めて新入部員の目の色が光った。
「では、チームSの鬼怒川監督に代わります。」
獅希が派手な格好のファンキーな男性に拡声器を渡す。
「俺がチームSの監督を務めている鬼怒川だ。お前達の中でチームSに上がってくる奴を待っている。1年でも実力がある奴は起用してくんで、まぁ頑張れ。」
テレビや公の場ではきっちりスーツで決めていたのを見ていた快人は鬼怒川の格好に少し驚いた。
「今日は俺と、チームAの監督である綿矢さんと、チームBの監督である信濃さんの3人で、新入生の現段階での実力を探っていきたいと思う。」
鬼怒川が獅希をチラっと見る。
「取り敢えずシマに案内してもらって、部室で着替えて10分後にここへ集合。」
「「「はい!」」」
部室棟は綺麗に使われていてシャワー室や洗濯室まで完備してある。
取り敢えず今日は普段は招待校用になっているロッカールームを使わせてもらった。
10分しかないので急いで着替える。
支給された真新しい翠鳳学園の練習着に袖を通す。
「オーミ、俺着替えたぜ。どうよ。」
木少谷がそう言って背中を向ける。
薄く緑で『SUIHO』とロゴが入っている。
「ホイ、うるさいよ。」
この場には快人たちだけではなく、他校から来た外部受験組の入部希望者がいる。
あまり騒ぐのも空気読めてないし。
「オーミって緑中の蒼海くん?」
色素の薄い猫っ毛を揺らしながら話し掛けてきたのは快人と同じくらいの身長だった。
「そうだけど。」
絶対見たことあるけど名前がわからない。
「鉄ちゃん、鉄ちゃん。緑中のボランチだよ。」
猫っ毛の男子が隣で靴ひもを結んでいる黒髪の男に話しかける。
黒髪の男が面を上げる。
「満中の梶呂。」
「あぁ。」
真っ黒な短髪に顎髭のぱっと見厳つそうなその男は、目だけは柔らかな印象だった。
「そのちっこいの満中の壱岐じゃね?ちょこまか動く。」
木少谷が口を挟む。
「ちっこいは余計ですぅー。」
壱岐が口を尖らせる。
「澄志朗、時間。」
梶呂が壁掛け時計を親指で差す。
「よし、行こうぜ。」
木少谷がロッカールームの扉を開いた。
「1年生は58人いるので、取り敢えずポジション別に分かれもらってから、4〜5つのチームを作ってミニゲームをしてもらおうと思います。」
獅希の指示でそれぞれのポジション別に列んでみると、意外にも丁度いい人数になった。
うまくポジションが分かれたので、赤、青、黄、緑、白の5つのグループに分かれて交代をはさみながら対抗試合をすることになった。
快人は白チームになった。
しかも木少谷、梶呂、壱岐も同じチームだ。
チームは12人なので交代しながらゲームすることになる。
この白チーム内のキャプテンは内部組の南向新になった。
南向は中等部のチームSジュニアでキャプテンを務めていた実力者らしい。
「取り敢えずウォームアップしながら簡単に自己紹介してピッチネーム決めよう。俺のことはアラで。」
輪になって南向から時計回りに、自己紹介して1つストレッチをしていくを繰り返す。
因みに木少谷はホイ、梶呂はテツ、壱岐はチョージ、快人はオーミと呼ばれることになった。
今までと変わらないピッチネームだ。
ミニゲーム開始は1時間後で、白チームは最初ゲームが無いので、1時間半もミーティングとウォームアップができることになった。
「俺めっちゃ楽しいんだけど。」
木少谷がドリンクを飲みながら快人の方を向く。
「オレも。」
木少谷を見てニヤっと笑う。
「このチーム結構強くない?即席チームなのに結構いいパス回してくるし。」
「南向は流石中等部から翠鳳で闘ってきてるって感じで、メンタルでも心強いな。」
「何?俺の話?褒めてくれてありがと。」
南向がオレ達の座ってるベンチの前にやってくる。
「ホイはもう6ゴール決めてるし、オーミとホイは流石緑中のゴールデンコンビって言われてただけあるな。」
「バックだってアラとテツがいるから、俺も安心して攻めれる。」
木少谷は攻撃型だから、自分でゴールに向かうこともよくある。
FWに転身してもうまくいきそうな気がする。
「俺も同じセンターバックとしてテツの存在は心強いよ。」
「俺もお前とやりやすい。」
「ホイちゃんが6ゴールも入れるからボク達が目立たないょぉ。」
梶呂の横から出てきて壱岐がわざとらしく嘆く。
「そんなこと言ってチョージだって5ゴール入れてるじゃん。」
次は最後の白×青戦。
青チームの対戦成績は白チームと同じく3勝0敗。
つまりはライバルだ。
「次は勢いある青チームだけど、俺らならやれる!行くぞ!」
「「「おう!」」」
南向が気合いを入れてピッチに向かう。
快人達もそれに従うようについて行く。
「えー、これから昼休憩に入ってもらうが、昼休憩の後に仮のチーム分けを発表する。午後はそれぞれのチーム練習に参加してもらうようになるので、そのつもりで。以上、一旦解散。」
鬼怒川が拡声器でそう用件を伝えてから、獅希に拡声器を渡す。
「皆さん、ひとまずお疲れ様でした。昼休憩なんですが、部室棟の5階に広いミーティングルームがあるので、そこで食べてください。シャワー浴びたい人は1階のシャワールーム使ってください。中等部は午前中だけで帰ったし、皆の先輩は、皆がミニゲームしてる間に昼休憩に入ってもらったので1年生だけです。さっき他のチームだった人とも是非交流を深めてください。」
昼休憩ということで一旦解散となった。
獅希がシャワールームとミーティングルームまで案内してくれるようだ。
「すぐシャワー浴びれるとかいいよな。この練習着も洗濯機回していいらしいぞ。」
木少谷が練習着の胸元を掴んでパタパタさせる。
「ホイちゃん、洗濯するんならマネさんに渡さなきゃいけないらしいよ。」
「マネさん?チラチラ見えてたけどどこにいんの?」
確かに、マネージャーは何人かいた気がするけど全く会話をしていない。
「何?用事?」
急にはっきりした声が飛んできた。
「2年の安蒜です。」
髪の毛を二つに括ったハッキリした顔立ちの女だった。身長は…快人より高い。
「安蒜先輩ですか。ボク壱岐って言います。あの、洗濯はどうすればいいですか?」
壱岐が素早い対応で安蒜に話し掛ける。
「壱岐くんだね。めっちゃ可愛いんだけどぉ。」
壱岐が慣れたように笑顔で返す。
「洗濯は名前書くとこに油性マジックで名前書いて、チームのカゴに入れて欲しいんだけど…まだ決まってないから予備のカゴに入れておいて。後で洗うから。でも、外で砂だけは落としておいてね。」
今までの習慣から砂は落としてきていた。
「じゃあ先にシャワー浴びようぜ。」
木少谷に続いてシャワールームへ向かった。
昼休憩、快人たちは他のチームの目立った奴と話をしたり、白チーム内で反省会をしたりした。
因みに最後の白×青の対戦は0−0の引き分けだった。
午後一に獅希が仮のチーム分けを発表した。
快人はチームBになった。
2、3年も合わせたチーム分けではなく、仮定員に当てはめただけらしいから、あくまでも仮だ。
この春休み中に変動や入れ替えがあるかもしれない。
「ホイちゃんと分かれちゃったねぇ。ゴールデンコンビ…」
壱岐が隣で残念そうに呟く。
「壱岐だって梶呂と分かれたじゃんか。」
「鉄ちゃんは大きいし、巧いから。当然だよ。」
「確かに…南向と梶呂は巧かった。」
「はーい。お喋りやめてねー。」
また例の拡声器だ。
「一年生の諸君、ようこそ翠鳳学園へー。ようこそチームBへー。仮だけどよろしくー。俺は、チームBのキャプテンで2年の諏訪宏基でーす。」
語尾が伸びるのが諏訪の癖なのか、赤茶の猫っ毛を後ろで小さく括っている、柔らかい印象のある人物だ。
「俺は高校からの外部組なんで1年もほぼみんな初めましてなんだけどー、内部組の子はチーム内で知ってる奴とかいるよねー。」
内部組の青チームだった小嶺と黄チームだった穂高がキョロキョロして、相手と目が合って笑ったりしている。
「取り敢えず、仮でもチームBに入ったってことでー自己紹介しましょー。」
諏訪の仕切りで1年から順番に自己紹介していった。
先輩が20人もいるので覚えるのは大変だが、これから慣れていけばいいと言ってもらえた。
「チームBのマネージャーさんは3年の伊那さんと2年の茅野さんでーす。」
黒髪ショートカットの長身の女と茶髪ボブの女がそれぞれ頭を下げる。
「我らがチームBの監督は信濃秀典監督でーす。どーぞ。」
諏訪が拡声器をがたいの大きい信濃に渡す。
「お疲れー。オーミんとこどーだった?」
部室に入ると、木少谷と梶呂は私服に着替えて、帰る準備万端で待っていた。
「結構面白そう。キャプテンも2年で勢いがあるって感じ。」
快人は乾ききっていない頭をタオルで拭きながら応える。
「鉄ちゃん達の方はどんな感じ?」
快人の隣で着替えながら壱岐が訊ねる。
「安蒜先輩ってチームAのマネさんだったんだぞ。何故か壱岐のこと残念がってたし。」
「あららぁ。でもボクだってチームAに行けるように頑張るもん。」
「てか、マネージャーの話よりキャプテンとかチーム内の雰囲気はどうだったんだよ。」
女好きの木少谷の話に快人は呆れる。
「キャプテンは花園さんって言って綿谷監督みたいに穏やかそうな人だったけど、チーム内のまとまりと迫力はすごかった。なっ?テツ。」
「あぁ。」
今日1日で思ったけど、梶呂は寡黙らしい。
快人もあんまり喋る方ではないので、少し似てるのかもしれない。
「そういえば安蒜先輩から洗濯済みの練習着返してもらったんだよ。テツ?」
梶呂が壱岐と快人に洗濯済みの練習着を渡した。
「うっわぁ、いい香りだねぇ。乾くの早いねぇ。」
「洗濯機に乾燥機にドラム式洗乾機まであるらしいぞ。タキが言ってた。」
タキ?チームAの人かな。
ガタッ
急に梶呂が立ち上がって扉に向かう。
「鉄ちゃん、急にどうしたのー?」
「チームの部室に荷物置いていきたい。」
「俺も俺も。」
置き勉ならぬ置き荷物をするべく、改めて自分のものになったチームのロッカーへ向かった。
部活の後、快人は木少谷と梶呂と壱岐の4人でマックに寄って帰った。
ミニゲームの反省、同学年で才能が目立っている奴、チーム、監督、キャプテン、先輩…と部活の話題で盛り上がったり、Jリーグ、海外リーグのサッカー話で盛り上がったり、中学時代の部活話で盛り上がったり…と短時間で結構親睦を深めれた気がする。
快人は疲れが出たのか帰宅後すぐそのまま眠ってしまった。
シャワー浴びて帰宅できるって楽でいいや。すごいな、翠鳳学園の設備。
受験が終わって
またサッカー漬けの日々が始まる。
読んでくださりありがとうございます。
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