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万年受付係の憂鬱 ②

 午後19時。都立偉月(いつき)高校の旧校舎内に存在するダンジョンは営業を終了し、次の放課後まで閉鎖される。今日は金曜日で、校舎内ダンジョンは土日は開かないから、次のバイトは月曜日だ。


 吉野さんがスキル:封印【A】で、ダンジョンの入り口――旧西校舎の正面玄関――を閉ざす。




「今日は災難だったな」


 吉野さんが何のことを言っているのか、もちろん思い当たる。俺が「まあ、いつものことですよ」と言うと、吉野さんは仏頂面で振り向いた。


 別に怒っているとか機嫌が悪いとかではなくて、吉野さんはいつもこういう表情だ。ガタイが良い上に強面なので、よく怖がられるらしい。正直、俺も知り合って半年くらいは怖かった。



「どこかで軽く食べていかないかね」


 吉野さんは、こう見えて面倒見がいい。アルバイトに過ぎない俺のことを、こうして結構気にかけてくれる。


 誘いは嬉しかったけど、俺は首を横に振った。


「帰ってメシ作らなきゃなんで」




***




 吉野さんと別れて、繁華街をぶらりと歩いて帰る。もう少し歩いたところからバスに乗って、10分ほど揺られたら家に帰り付く。


 昔は電車での移動が当たり前だったらしいけど、駅という駅にダンジョンが生まれてしまったために、今じゃ電車は貨物輸送か長距離移動にしか使われていない。



 ダンジョンの発生と共に、失われたものはたくさんあった。それでも、ダンジョンから得られるものの方が圧倒的に多かったから、みんなはそれで納得した。



(俺は……ダンジョンから何も得てないんだよな)


 俺はダンジョンに入れない。生まれつき備わっている永続スキル:アンチ・ダンジョン【SSS】によってダンジョンとの反作用が生じ、ダンジョンに足を踏み入れた瞬間、外に放り出される。



 俺は、ダンジョンに嫌われている。



 ダンジョン由来のものにスキルが反応してくれるおかげで、不正持ち出しの取り締まりというバイトには就けているけど。


 でもダンジョン由来物感知機という機械は既に普及してるから、ダンジョン由来のものを感知できます! と言ったところで「だからどうした」というレベルだし。




 俺たち、いわゆる「ダンジョン世代」は、生まれた時には既に世界にはダンジョンがあり、物心ついた時にはダンジョン関連法も整備されていた。


 義務教育を終えたら免許を取ってダンジョンに潜り、冒険するのが当たり前の世代。進学にも就職にも、ダンジョン探索成績が影響してくるような世代。



 同世代で一度もダンジョンに潜ったことないやつなんてほとんどいないし、ダンジョン未経験なんて言ったら、世の中を渡っていくのに圧倒的に不利だ。


 何より――みんなに馬鹿にされる。




(俺、一生ああやって受付やるのかな)


 ダンジョン探索してる奴らを見送って、文句言われながら持ち出し品の検査して、嫌味を言われて嘲笑われながら、ずっと受付するのか。


 大人になっても、オッサンになっても、年取ってからもずっと。



「……やってらんねー」


 立ち止まって、空を見上げる。やってらんねえ。



 あいつらは好き勝手にダンジョンに潜って、スキルを磨いて、どんどん新しいスキルを習得する。


 俺はダンジョンに入れないから経験値を積めなくて、スキルが成長することもないし、新しいスキルが開花することもない。



「…………あー、人生終わってる」

「よく分かってんじゃん!」


 急に声がしたかと思うと、腰の辺りに衝撃と痛みが走った。蹴られたらしい。


 振り返ると案の定、国木が取り巻きを引き連れてニヤニヤ笑っている。まずい。感傷にひたりすぎて、全然気づかなかった。


「ちょっとこっち来いよ」


 3人に囲まれて、人目につかない路地裏に連行される。隙を見て逃げ出そうにも、国木は今日のことが相当頭にきているらしく、ぎらぎらとした目で俺を睨み続けている。


 どうやら、逃げられそうにない。





「お前さあ、ちょっとはクラスメイトに忖度しようとか、考えないわけ?」


 雑居ビルの壁際に追い詰められて、肩を小突かれる。


「そりゃ、万年受付の弦食クンの人生が終わってんのは同情するけどさー」

「迷惑なんだよなあ。せっかく俺たちはダンジョンで青春してんのに」

「取り合えずさ、来週の月曜もダンジョン潜るから、魔石の持ち出し見逃してくんね?」


 これが本題か。



 魔石の持ち出しを見逃す? そんなことが出来るわけがない。不正持ち出しがバレたら、こいつらだけじゃなくて、見逃した俺もお咎めを食らう。



 ……こいつらは、そんなことどうでも良いんだろうな。


 こいつらはいくらでもダンジョンで強くなれるし、経歴に多少の(きず)があろうと、ダンジョン探索で功績を残してさえいれば、大手企業のダンジョン探索課から引く手あまただ。将来は安泰だろう。


 でも、俺はそうもいかない。人としての信頼に瑕がついてしまえば、俺の将来は本当にお先真っ暗だ。



「なあおい、聞いてんの? 魔石の持ち出し、見逃してくれるよな? はいって言うまで帰さねえからな!」


 腹を殴られて、息が詰まる。これはまずい。


 もう何でもいいから、さっさと「はい分かりました」って言うべき、なんだろうな。適当に話を合わせれば、取り合えずこの場は逃れられるだろうし。



 ……だけどなあ、



「うっせー。誰がお前らなんかに協力するか、ばーーーか」


 顔を上げて、思いっきり睨み付けながら言ってやった。奴らの額に青すじが浮かぶ。


 あーやっちまった。


 でもこの場を逃げ出すためとはいえ、こいつらの言いなりで「はい」なんて言いたくないんだよな。絶対に。



「はあ? お前、自分の立場分かってんの?」


 肩を思い切り殴られる。でも今度は、俺も大人しくはしていない。国木の顔面を、思いっきり殴り返してやる。取り巻きたちがどよめいた。


「この野郎!」

「調子に乗りやがって! ぶっ殺してやる!」



 さすがに3対1では、文字通り手も足も出ない。地面にうずくまって、雨のように降ってくる蹴りから身を守るしかない。



 挑発なんてしなきゃよかったという後悔と、でもぜってー謝んねえぞという意地みたいなものとを噛みしめながら、痛みに耐える。


「学校に来れなくしてやるよ! 万年受付野郎!」


 かなり良い蹴りを腹部に食らい、胃の中のものが逆流しそうになったのを、なんとかこらえた。



 ――その時。



「ねえ、何してるんですか?」



 どこかあどけなさの残る少女の声が、路地裏に響いた。



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