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プロローグ:東京駅ダンジョン1999 ③

 その日、東京駅に一体なにが起こったのか。



 1999年8月1日、正午を迎えるまでは、日常は日常の連続として存在していた。


 日曜日の東京駅は人で溢れかえっていた。行楽へ向かう者、行楽から帰ってきたばかりの者。駅構内で食事をしていた者、今が稼ぎ時とばかりに声を張り上げて商売にいそしむ者。そして、待ち合わせをしている者。



 正午――正確には、12時00分10秒。東京駅を地震が襲った。


 それは、通常の地震とはメカニズムの全く異なるものだった。のちに「空間分離振動」と呼ばれるようになるその現象は、同日ほぼ同時刻、東京駅の「駅構内のみ」に発生した。



 当時、東京駅八重洲口の外で友人を待っていたという青年は「轟音みたいなものは聞こえたが、すごく遠くで鳴っているような聞こえ方だった。まさか駅があんなことになっていたなんて」と証言している。


 その轟音が鳴ったまさにその瞬間、駅構内は複数回に及ぶ激しい揺れに襲われていた。揺れは駅の中央部に近ければ近いほど激しかったと推測される。


 駅の出口に近い場所にいた者たちは、半ばパニックに陥りながらも、すぐに出口から駅の外へと避難することが出来た。

 息を切らしながら外へ出て、駅の外では何事もなかったかのような日常が続いていることに、人々は困惑した。どうやらこれは、地震ではないらしい。


 では、あの揺れは一体なんだったのか? 地盤沈下か違法建築か何かで、駅の建物が傾いたのだろうか?


 そう思いながら、今しがた走って出てきたばかりの駅を振り返り、人々は驚愕した。駅構内に、真っ黒な煙が溜まっている。

 いや、煙というよりも闇そのものという淀みが、地下から階上まで、東京駅の内部に充満していた。



 のちに世界中で頻発することとなる「ダンジョン形成」の、これが第1例目である。



 ある施設の内部が、空間分離振動を起こしたのち「ダンジョン」と呼ばれる異空間を形成する現象は、前触れなく世界各地で発生し、社会は大混乱に陥った。


 ダンジョン形成を起こしやすい施設は多岐にわたるが、不特定多数の出入りが多い施設や、扉や階段の多い施設、細い廊下を有し窓の少ない施設、歴史的建造物などに発生しやすいことが分かっている。


 異空間内には、人間に対して極めて敵対的な、モンスターと呼ばれる生物が発生する。


 モンスターは強靭な肉体や、現代科学では検証不可能な未知の力――いわゆる、魔法やスキルと呼ばれるもの――により、ダンジョン内に迷い込んだ人間を捕食、殺戮した。


 ダンジョン外ではモンスターの生存が不可能であったことだけが、不幸中の幸いだったと言えるだろう。



 人々がダンジョンの特性を理解し、監視下に置き、社会が安定するまでに、多くのものが犠牲になった。


 東京駅ダンジョンの形成に限っても、その被害は計り知れない。


 ダンジョンの内部に取り残された人々は命からがら脱出したが、ダンジョン形成後72時間を経過すると、脱出者の数は急激に減少した。その多くはモンスターに命を奪われたか、ダンジョンのより奥へと迷い込んでしまったものと思われる。


 また、家族や知り合いを探すためにみずからダンジョン内へ入っていった人々も、多くは再びダンジョン外へ出ることは叶わなかった。



 東京駅に限っても、1999年8月1日から7日間での死者・行方不明者は10万人超――この途方もない数字こそが、ダンジョンというものの本質を示唆している。

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