実地試験開始 ②
最後の1体が床に倒れたのを確認して、俺は床にへたり込んだ。
カレンのサポートがあったとはいえ、マッドシャドウ5体抜きはちょっとした試練だった。
接近される前に炎魔法を放つ。ただそれだけのことなのだが、マッドシャドウは影の中に溶けていきなり距離を詰めてくるので、常に逃げ回っていなければならない。
背後を取られないよう気配察知をしつつ、炎魔法で攻撃する。体力と魔力を同時に削られて、とにかく疲れた。
「はい、お疲れ様でした」
カレンが、俺の頭をよしよしと撫でる。馬鹿にしやがって……。
「さ、このエリアはこれで終わりですね。明かり、つけましょうか」
最初の部屋の制圧を終えた俺たちは、部屋の明かりを点けていく。
元々は雑居ビルのオフィスだったのであろうこのダンジョンは、デスクライトに似た構造物がそこかしこにある。そこに魔力を送り込むと、デスクライトに淡橙色の明かりが灯る。
ダンジョン攻略は、ダンジョン側と人間側の陣取りゲームのようなものだ。
ダンジョンはちょっと目を離した隙にすぐ構造を変化させるが、人間の魔力によって空間を満たすと、それ以上の変化が起きなくなる。
もちろん魔力の明かりは無限ではないので、時間と共に魔力は消耗され、明かりは弱くなり、ダンジョンはまた構造変化を始める。
だが問題ない。自分たちが探索を終えるまでの間、明るくなっていれば良いというわけだ。
「部屋中、満遍なく魔力が行き渡るようにして下さいね。あいつら、ちょっとの魔力空白からすぐ再発生しますから」
「モンスターの魔石が目当てなら、それでも良いんじゃないか?」
「雑魚モンスター無限狩りしても、効率悪いだけですよ。奥に進んだ方が強いやつ出ますから、先へ進みましょう」
明かりを点けて安全を確保してから、倒したモンスターから発生した魔石を回収する。
ガーネットに似た深い赤色の石こそが、モンスターの生命そのものであり、ダンジョンから与えられる恩恵だ。
ギークスパイダーやコードワームからは小粒の魔石が、マッドシャドウからはそれよりもいくぶん大きめの魔石が採れた。
マッドシャドウから回収した魔石の中には、6個中1個だけ光り方の違うものが混じっている。鑑定しなければ分からないが、もしかしたら特殊な追加効果を持つ魔石なのかもしれない。
「んー、中級試験でこんな豆つぶ魔石持ち帰っても、評価になりませんね。明かり確保に使う分だけ取っておいて、あとレアっぽいやつ以外は全部アイテムにしちゃいましょ」
カレンは回収した魔石のほとんどをアイテムに変換する。
そして生成された魔力回復ポーション(俗称として、魔剤なんて呼ばれている)を、ひと瓶俺に手渡した。消耗した魔力を回復しておけということらしい。
細身の瓶に詰められた赤い液体は、光を透かして煌めいている。何味なんだろう、と恐る恐る栓を抜き、一口飲んでみる。
……苦味のあるアセロラドリンクって感じだ。
小粒の魔石から変換したからか、魔剤1本では魔力は少ししか回復せず、結局4本くらい飲む羽目になった。1本25mlくらいとはいえ、4本も飲むと飽き飽きしてくる。そのおかげで魔力はすっかり回復したが。
「それにしても、魔石をアイテムにできるなんて、便利なスキルだな」
空き瓶が光の粒になって消えていくのを眺めながら、しみじみと言う。
魔力回復が望めない状況では、どうしても魔力を温存する必要性が出てくる。そうなると魔法連発は出来ないし、魔法しか効かないマッドシャドウのようなモンスターに囲まれたら窮地に陥ることになる。
「アイテム変換スキルって、メジャーなスキルなのか?」
「うーん、そこそこって感じですかね」
レア魔石を光に透かして眺めながら、カレンが答える。
「でもダンジョン探索をするには超有用なスキルなので、アイテム変換スキルを持ってる人はパーティに勧誘されまくりって聞きますよ。あと、収納スキルも人気スキルですね」
「カレンは……収納も使えるんだっけ」
ほんとこいつ、万能だな。
俺たちの倒したモンスターは、魔石といくつかのアイテムに変換され、全てカレンの服の袖に収納された。
カレンいわく「しょっぱいドロップ」だったらしいが、雑魚相手ならそんなもんだろう。
「室内系ダンジョンだと、スティールゴブリンとかゾンビみたいな、人型モンスターがいる可能性が高いんですけどね。いたらそっちを狙いましょ。人型モンスターの方が、戦利品が美味しいですよ」
人型モンスターか。獣型とか虫型に比べて、倒すのに若干の抵抗感がありそうだが……まあ、それも慣れだろう。
さて、入ってきたドアを除けば、この部屋にはドアはあと1つしかない。最初と同じ、鼠色の地味なドアだ。
「さ、先へ行きましょう!」
カレンに促され、ドアノブを握る。次の部屋は……また似たようなオフィスだ。ただし、やたらとドアが多い。
ざっと見ただけでも5つのドアがある。地図作成を試してみると、視認できていない開口部――いわゆる隠しドアというやつで、珍しいモンスターやアイテムが隠されていることが多い――が、更に3つもある。
「む……分岐点が多いですね。この部屋もちゃちゃっと制圧して、どう進むかを決めましょう」
剣を構える。暗がりに、ギークスパイダーの目がぎらりと光った。




