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プロローグ:東京駅ダンジョン1999 ②

 ――何が……起こったんだ?



 どうやら俺は、気絶していたらしい。気づけばうつ伏せに倒れており、辺りには人の姿はなかった。あんな、うんざりするくらいの人込みだったのに……みんな、避難したのか?


 それにしてはおかしい。本当に、人っ子一人いない。それに……薄暗い。もう夜なのか? そんなに長いこと気絶していたのか?



「う、うう……」


 頭がぐらぐらする。なんとか立ち上がって、辺りを見回す。見覚えのある東京駅……いや、何か違和感がある。


「ここ、東京駅、か……?」


 妙だ。扉と階段が多すぎる。東京駅の写真を撮って、そこに誰かが扉や階段の写真を上から貼り付けたみたいだ。雑なコラージュみたいに、不自然な位置に不自然な設備が増えている。

 それに……寒い。クーラーが利きすぎているのか? でも、停電しているようなのに……。



「おーい! 誰かいませんかー!」


 大声で呼びかけても、どこからも何の反応も返ってこない。まさか本当に、俺一人なのか。みんなとっくに逃げたのか? 何か大きな災害でもあったのか?


「誰かー! 誰か……穂澄せんぱーい!」


 先輩の安否が気になる。叫びながら、辺りをうろうろ歩き回ってみる。先輩は時間にルーズな人ではないから、待ち合わせ場所の近くにいたはずだ。


「せんぱーい! いませんかー! 穂澄せんぱーい! せん……」


 先輩を探し求める俺の声は、中途半端なところで途切れてしまった。柱の陰に、何かがいることに気が付いたからだ。何かが蠢いている。


 普通なら、怪我をした人がうずくまっているのかなとか、そういうことを考えるべきなんだろう。でも、そうではないことが、直感で分かっていた。あれは、不用意に近付いてはならないものだ。



 息を殺して、それを凝視する。薄暗いせいでよく分からないが、犬とか猫とか、そういう俺の知っている生き物ではないようだ。それは、左右にゆらゆらと揺れている。


 ――と、丸いシルエットが、ぐんと伸びあがった。俺の背よりも高く、ちょうど自販機くらいの高さまで、ぐいんと大きく伸びて、目を開いた。


「ひっ!」


 思わず情けない悲鳴が漏れる。その目は大きく、ひとつしかなく、真っ赤な瞳がぎらぎらと光っていた。


 一つ目の化け物が――俺を睨んでいる。



 化け物の瞳は、比喩として「光っている」のではなく、本当に発光していた。化け物が目を開いたおかげで、あたりがほんのりと赤く照らされる。


 そして俺は、その赤い光の中に、更に信じられないものを見る。



 人間が、《《溶けている》》。


 真夏の炎天下に置かれたチョコレートのように、人間が溶けて、死んでいる。

 サラリーマンらしき男性、綺麗に着飾っていたのであろう女性、子供も――髪の毛や衣服はそのままに、肉体だけがどろどろに溶けていて、化け物は溶けた人々に覆いかぶさるようにして、その肉をすすっているのだった。


 だめだ、だめだ。これは駄目だ。逃げなければ。


 俺は化け物と目を合わせたまま、そっと後ずさりをする。もし襲ってきたらどうすればいい? 走って逃げる? それとも隠れる? まさか、戦う? いや、戦えるわけがない。とにかく逃げるんだ。



 必死に逃げる算段を立てていたその時、


「た、たすけて……」


 か細い声が、耳に届いた。


 赤い薄闇に目をこらすと、溶けた人間が山になったその向こうに、震える人影が見えた。


 あれは……女の子?


「たす、けて……」


 女の子はかすれた声で、視線は真っ直ぐ俺に向けて、助けを求めている。



 ――あの子を助けなきゃ。でも、どうやって?


 ――見捨てて逃げた方が良い。いや、そんなこと出来ない。見捨てるなんて駄目だ!


 ――嫌だ、死にたくない。死にたくない!



 頭の中で人格が分裂したみたいに、次から次へと考えが浮かんでは打ち消される。しかしほどなくして、逃げようと囁く声は小さくなり、やがて聞こえなくなった。

 あんなに怯えて、それでも必死に、俺に助けを求めている。あの子を助けなければ。



(でも、どうやって助ける? あんな化け物相手に、俺に何が出来るってんだ!)


 心の中で毒づいたとき、急に、目の前が明かるくなった。


 目の前に何か、文字が浮かんでいる。



『所持スキル:ステータス閲覧

 解放可能スキル:炎魔法・地図作成』



(スキル? 魔法? なんだこれ……)


 脳が混乱する。まるでゲームみたいだ。サークル友達の家で遊ばせてもらった、なんとかフロンティアってゲーム。でも、これはゲームじゃない、現実だ。現実のはずだ。


「現実……なんだよな」


 何度か瞬きをすると、目の前の文字は嘘のように掻き消える。化け物は、まだ俺のことをじっと見ている。じっと、動かないままに。


 ……いや、化け物がゆっくりと、溶けた人間の上から移動を始めた。女の子の方へ、近づいていく。まさか、次はあの女の子を溶かして食べるつもりなのか?



「くそっ! くそっ、くそっ!」


 さっき見た文字の中に、炎魔法という記述があったことを思い出す。確か、「解放可能スキル」という項目の中に。


「魔法でも何でもいい! 解放可能なら、今すぐ発動しろ! あの子を、助けろ!」


 叫ぶと同時に、体が熱くなる。


『スキル解放:炎魔法』


 一瞬、目の前にまた、文字が浮かんだ。そして――視界を、真っ赤な炎が覆い尽くした。




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