表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/27

波乱の気配 ①




「と、いうわけで実地試験までの2週間、びしばし鍛えますのでそのつもりで」


 カレンの言葉に、こくりと頷く。



 場所は偉月高校第2体育館。第1体育館は運動部が占有しているが、第2体育館はダンジョン探索訓練のために開放されている。


 普通の体育館と変わらない造りだが、4面ある壁のうち3面には、番号の振られた扉がずらりと並んでいる。そのすべてが『模擬ダンジョン』だ。

 特殊なアイテムにより、ダンジョン内環境が人工的に再現されている。前に入ってみたことがあるが、しっかりアンチ・ダンジョンが発動して外に放り出されたので、かなり本物に近いと言える。



 ダンジョン攻略に、身体づくりは最重要だ。ダンジョン内で表示されるステータスは、なまじアニメとかゲームっぽい感じだから勘違いされがちだが、しっかりと現実世界の身体能力に基づいている。

 体力、筋力、素早さはもちろん、知力や精神力すらも、だ。


 そのため俺は、学科試験の勉強を始めたころから、カレンの指示によって朝夕の走り込みと筋トレを続けてきた。死ぬほどしんどかったが、おかげで多少はタフになった……と思う。

 知力というのは、知識や応用力が反映されるらしい。精神力というのは、忍耐力や自制心がメインになってくるそうだ。



「前に先輩のステータスを見させてもらったんですけど、けっこー精神力高めでしたよね」


 身軽にストレッチをしながら、カレンが言った。


「そうだっけ」


 カレンの指摘を受けて、俺は首をかしげた。身体ステータスまでちゃんと見てる余裕なかったからな、覚えてない。


「つーか、人のステータスって見れるんだ」

「普通は見えませんよ。私はステータス分析ってスキル持ってるんで、見ればだいたいのステは分かります」

「ふーん……てかお前、スキルいくつ持ってるんだ?」


 スキルというものは、基本的にダンジョン内でしか開花しないし進化もしない。

 長くダンジョンに潜っていれば、それだけスキルを開花させ伸ばすチャンスがあるというわけだが……。


「んー、いくつってのは分からないです。いっぱいあって。数えるのも面倒ですし」

「数えるのが面倒なくらい持ってるのか……」


 そりゃ3年もダンジョンに潜ってれば、スキルも増えるか。それも長いこと、深層ダンジョンにいたって話だ。

 ダンジョンは、深層に潜れば潜るほど危険度も増すが、レアなスキルが開花する確率も上がる。こいつの場合、ダンジョンに潜っていた時間も、潜っていた深度も桁違いだ。それはもう、とんでもないレアスキルの数々を持っているんだろう。



「ねえ、そんなことよりも」


 カレンの指が、俺の鼻先をちょんとつついて注意を促す。俺に向けて開かれたノートには、汎用性の高いスキルがいくつか箇条書きにしてある。カレンは体育館の床に座り込みノートを広げ、赤ペンで線を引いていく。


「精神力高めのステだったら、このあたりのスキルを狙っていきたいんですよね。もちろん、欲しいスキルが必ず開花するとは限らないんですけど」

「ん、どれどれ」


 ノートに書かれた丸文字を読む。



・状態異常耐性

・魔法引き付け

・魔法反射

・魔法吸収

・外殻硬化



「典型的タンク構成って感じだな」

「はい。私がゴリゴリのアタッカーなので、サポートに回っていただこうかと。とはいえ、ゆくゆくはって話ですね。まずは基本的なスキルを取らないことには、お話になりませんから」

「欲しいスキルの取得って、どうやって狙っていくんだ?」

「そのスキルが『必要となる状況』に身を置くことが基本ですね。さっき見せたタンク構成を狙う場合、魔法攻撃を使ってくるモンスターと戦って、魔法攻撃を受けまくれば確率が高くなるというわけです」

「なるほど」


 魔法攻撃を受けまくる、というのがやや引っ掛かる点ではあるが、この際気にすまい。強くなれるなら手段は選んでいられない。



「……っし! やるか!」


 ストレッチを終えて、予約していた模擬ダンジョンの前に立つ。


「お、やる気ですね」


 カレンがニコッと笑って、左手を差し出した。一瞬躊躇したのち、その手を握る。同年代の女子の手を握るというのは、どうにも落ち着かない気分だ。しかしこれこそが、俺とカレンが二人一組でダンジョンに挑む理由そのものなのだ。


 アンチ・ダンジョンと、ダンジョンからの祝福。対極にあるふたつのスキルは打ち消し合い、中和される。

 俺はダンジョンに弾き出されない。カレンはダンジョンに取り込まれない。



 扉の横にある機械に学生証をかざすと、ポーンと柔らかい音が鳴り、扉の上のランプが赤から緑に変わる。


「今日は実践訓練初日ですし、取り敢えず2コマ予約しました。つまり1時間ですね。その間に、まずダンジョン内での動き方を決めましょう」


 俺の手を引いて、カレンが模擬ダンジョンに足を踏み入れる。やや緊張しながら、俺もそれに続く。境界線を越えても――弾かれない。アンチ・ダンジョンは上手く中和されているようだ。


「最初の関門はクリアですね。今回、出現モンスターはよわよわのやつばっかに設定しましたから、いくつかスキルが解放されるまで淡々と倒していきましょう」

「ああ、分かった」

「じゃあ、武器を……」


 カレンの手がアイテムボックスへと伸びる。きっといつもの癖だったのだろう。右手の袖をまさぐるために、カレンは俺の手を離した。


 ――その時だった。



 バチン、と何かが弾ける音。同時に炸裂した強烈な光と衝撃に視界が眩み、俺は思わず頭を庇って目をつぶる。三半規管が肉体の回転を感じ取った次の瞬間、ケツに衝撃が走った。


「いっ……てえ……!」


 どうやら尻餅をついたらしい。思わずうめき声を上げ、恐るおそる目を開ける。すると――俺はいつの間にか、第2体育館に座り込んでいた。

 目の前には、さっきカレンと一緒に入っていったはずの扉がある。そして、隣にカレンはいない。


 どこに行ったのか、などと周囲を見回す必要もない。

 事態を理解した俺はすぐさま立ち上がり、扉の横についている非常ボタンを拳で叩いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ