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変化する日常 ①

 翌日、体調にも問題はなく、俺は普通に学校へ行った。


 国木の机は空席だったし、国木の取り巻き連中は肩身が狭そうにしていたし、担任はかなり疲弊した様子だったけれど、それ以外は何の変わりもない。

 いつもの、退屈な日常――……



 ……――なわけがなかった。




「先輩たすけてー! 机の上のもの、どけてください! 腕が死んじゃうー!」


 昼休み、恐らく彼女の筋力で持てるだけの大量の本を抱えて、カレンは俺の前に現れた。


 本を抱えたままふらふらしているので、俺は机に広げていた弁当を急いで片付けてスペースを空ける。カレンは「助かったー」とか何とか言いながら、俺の机の上にどさっと本を置く。



「あー重かった。はい、じゃあこれ、放課後までに読んどいてください」

「いつの放課後?」

「今日に決まってるでしょう!」


 何かの冗談……ではないことは、彼女の表情から容易に読み取れる。


 本の背表紙にざっと目を通すと、『ダンジョン免許取得試験問題集』とか『スピード合格・ダンジョン免許必出ポイント!』などというタイトルがずらりと並んでおり、まあ、言いたいことはだいたい分かった。



「良いか、よく聞け。そりゃダンジョンに潜るには免許が必要だし、ご明察の通り俺は免許を持っていない。が、」

「が?」

「物事には順序というものがある。いや、この場合順序は適切なんだが、順序のほかに所要時間というものもある。分かるか?」

「はい。ですから今日の放課後までに」

「なるほどそこの感覚がバグってんのか」


 ざっと見て10冊近くあるテキストを、放課後までに全て読み覚えられると、少なくともこいつはそう思っているらしい。

 じゃあお前がやってみろと言ってやりたいところだが、こいつならやってのける気がする。なんとなく。


 なので俺は、余計なことは言わない。



「……分かった、努力はする」

「やった! じゃあ今日の20時から本チャンのテストなんで、そのつもりで!」

「待て待て」


 聞いてない。というか、試験って申し込みとか諸々手続きがあるんじゃないのか? 住民票とか顔写真、身体検査の結果なんかも提出しなきゃいけないはずだし、もちろん受験料も必要なはずだ。



「……そうなんですか?」


 それを説明すると、彼女はきょとんと俺を見つめる。


「知りませんでした。私の手続きはママが全部やってくれたし……会場に行けばすぐ受けられると思ってたので……え、じゃあ試験っていつになるんです?」

「今から申し込んで、書類査定があるから最短でも1週間後……で、受験票が発行された後に学科試験を受けて、学科に受かった後で実地試験だから……」

「い、いっしゅうかん……」


 まさに「絶望」といった表情で、カレンは青ざめる。


「私、1週間もダンジョンお預けなんですか……? せっかく先輩を見付けたのに……?」

「受験番号が発行されるまでが1週間な。学科試験は平日なら毎日やってるけど、実地試験は日程調整があるから、トータルするともっとだな」

「無理! 無理ですダンジョン不足で死んじゃう! 今でさえめちゃくちゃ我慢してるんですよ!? そんなに待てません! ぐぬぬ……こうなったら先輩を引きずって不正侵入するしか……」

「吉野さん呼ぶからな?」


 不正、よくない。



 しかしこの女、放っておけば本当に不正侵入をしかねない。それくらいの迫力と切実さがある。

 そうなると、俺もとばっちりを食らいかねない。なんとか彼女をおとなしくさせておく方法はないか。


 ……と考えて、目の前のテキストの山を見て、すぐに思いついた。



「なあ、俺の先生をしてくれないか」

「せんせいー?」


 説明する。俺はそこそこ勉強は出来る方だが、さすがにこの量の知識を短時間に叩き込むのは難しい。

 そこで、ダンジョン学の先生として、カレンに指導してもらう。経験に基づいた指導を受ければ、学びやすいし覚えやすいだろう。


 カレンも、ダンジョンに潜れはせずとも、せめてダンジョンに関係することに触れていれば、少しは気も紛れるかもしれない。



「どうだ。割と良い提案だと思うんだが……」

「……そう、ですね。私が頑張って指導すれば、先輩は一発で学科に受かるし、実地試験も余裕で合格ですもんね」

「ああうん。頑張るけど一発で合格出来るかは、」

「一発合格が出来なかったら、お詫びに焼き肉とかスイーツとか好きなだけおごってくれるんですもんね」

「うん…………うん?」

「分かりました! 私も頑張ります! 先輩も頑張りましょう!」


 一瞬、意に沿わない約束をねじ込まれたような気もするが。


「では先輩!」


 一転してきらきらした笑顔で、カレンは俺の手を握る。


「そういうわけなので、今日の放課後までにこのテキスト、全部読んでおいてくださいね!」


 あ、そこは妥協なしなのか。





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