1-8 お買い物
「こんにちは。クエストの報告に来ました」
「おうお疲れさん」
買い物の前にまずは冒険者ギルドでクエストの達成報告。
クエストに関する手続きはメニューからでもできますが、どうせ私以外には誰もいないのでカウンターにいるギルド長に直接報告をすることにします。
採取依頼のあった品を納品して、報酬を受け取って、っと。
「照明用のアイテムが欲しいんですけど、どこに行けば売ってますかね?」
「それならギルドを出て右にある道具屋だな。ついでにいらんアイテムも持って行けば、あそこの婆さんなら大抵の物は引き取ってくれるぜ」
「なるほど」
というわけで、早速ギルドを出て教えて貰った道具屋さんへ。
いかにもRPGっぽい道具袋が描かれた看板のついた、ちょっと大きめなテントですね。
「こんにちは」
「いらっしゃい。渡り人のお客さんは久しぶりだね。何かご入り用かい?」
『おばあちゃん』
『ババァwww』
『ギルド長は中身オッサンでも見た目ショタだったのに……』
『ロリババァじゃない、だと……!?』
店の奥にいたのは年配の女性――コメントの反応からも分かる通り、年齢不詳なグラスランナーであるにもかかわらず確実におばあさんだと分かる見た目のおばあさんでした。
どこか懐かしさすら感じるその姿はまるで――
『昔駄菓子屋にこんな感じの婆ちゃんいたわ』
そうそれ。
私は実際見たことはありませんが、イメージとしてはまさにそんな感じです。
『「はいお釣り10万円」とか言って10円玉を渡してくるんだよな』
『あったあった』
『子供の頃見たばあちゃんが15年後もそのままの姿だったのには驚いた』
『駄菓子屋さんって独特なにおいするよね~』
『あー、分かる』
『賞味期限切れのお菓子とか普通に並んでたな』
『俺、あのちっちゃいヨーグルトみたいなのよく食ってたわ』
『あれな! 俺も好きだった!』
コメントが駄菓子屋あるあるで盛り上がってますね。
それはさておき私は買い物をしましょうか。
「えーっと、夜のフィールドで使える照明用の道具を。あ、その前にいらないアイテムの買い取りをお願いできますか?」
「ああ、何があるんだい?」
おばあさんがそう言うと、ぽん、と私の目の前に羊皮紙っぽい見た目をしたウィンドウ――買い取りリストが出現。このゲームでは素材や数が多い不要品の取引などは基本的にこのリストを使って行い、それ以外の物を扱う時はアイテムを実体化させて直接取引するそうです。
「えーっと……屑石が5G、ラビットの毛皮が150Gで肉が120G、蜂蜜が400Gですか。蜂蜜がちょっと高いですね」
とりあえず最初のドロップ品は全部売っちゃいますか。
一通り不要物を売って軍資金ができたので、次はアイテムを購入します。
まずは当初の目的だった照明用の道具。
この店で取り扱っているのは松明とランタンの2種類で、松明が1本120G、ランタンが本体2000G、燃料の油が300G。
アイテムの説明としてはこんな感じ。
[消耗品]松明
たいまつ。
木の棒の先に油を染みこませた布などを巻き付けた物。
地面に落としたり多少振り回したりしたくらいで火が消えることはないが、あくまでも消耗品なので1度火が消えてしまうと再利用することはできない。
[道具]ランタン
比較的安定して使える照明器具。
松明と違い、専用の油を補充すれば何度でも使用可能。
アクセサリ枠に装備することで手に持たなくても持ち歩くことができるが、強い衝撃を受けた場合に壊れてしまう可能性がある。
[消耗品]ランタン用の油
ランタンに火を点すために必要な燃料油。
どっちも一長一短というかメリットデメリットがありますね。
「とはいえ私の場合は実質一択なんですけど」
使ってる武器が双剣ですからね。片手が塞がる松明は装備できません。
というわけで2300G払ってランタンとランタン用の油を購入します。
「さて、せっかくですし他の商品も見てみましょうか」
ポーション類はクエストで貰ったのが残ってるからいいとして……お、この解体ナイフというのは〈解体〉スキルを覚えるために必要なやつでは?
「価格は2000Gですか……」
まぁこれも必要なので買いますけど。
そのままの流れで装備品にも目を通して……うーん、こっちは正直微妙ですね。
武器は短剣と弓しか置いてないし、防具も初心者装備に毛が生えた程度の性能しかありません。まぁ現状何も装備してない頭と腕装備くらいは買っていいかもしれませんけど………………ん? んんっ!?
『めっちゃ2度見したwww』
『お手本のような2度見www』
『2度見するアリーシアちゃん可愛い』
いやこれ2度見くらいするでしょ。
深淵に染まりし漆黒の聖骸布:13000G
名前といい金額といい、あらゆる意味で他の商品と毛色が違うアイテムが並んでます。
「あの、おばあさん? この深淵に染まりしなんとかっていうのは……?」
「ついこの前行商人から仕入れたばかりのアイテムでね。なんでもアンタと同じ渡り人が作った品らしいよ」
あー、なるほど。つまりプレイヤーメイドのアイテムですか。
「ちょっと見せて貰っても?」
「ああ、これさね」
長さ3メートルくらいの黒いボロ切れにしか見えませんけど……とりあえず〈鑑定〉っと。
[アクセサリ]深淵に染まりし漆黒の聖骸布
スパイダーシルクを特殊な染料で染め、エンチャントを施した布。
装備すると反応速度を上昇させる効果を持つ。
※かつてこの世界を救った聖人ルキフェルの遺体を包んだとされる聖なる布。しかしその力に目を付けた邪神による浸食を受け、純白だった布は深淵のごとき闇色に染まってしまった。光と闇の力を内包し、選ばれし者に超常の力を与える。
生産者:†黄昏の悪夢†
なんという厨二病感……!!
『やべぇこの生産者とは仲良くなれそう』
『多分名前もトワイライト・ナイトメアとか読むんだろうな』
『くっ……俺の封印されし右手が疼く…………っ!』
『っは……し、静まれ……俺の腕よ……。怒りを静めろ!!』
『……認めたくないものだな。自分自身の若さ故の過ちというものを笑』
なんだかコメントが盛り上がってますけど、テキストの内容はともかく結構性能いいと思うんですよねこのアクセサリ。
反応速度を上昇させるスキルなんて初期習得可能スキルの中に無かったし、普通にレアスキルなのでは?
「とはいえ13000Gですか……」
金額的には他の装備の10倍以上。
今は買い物をしたばかりで懐が寂しいですし、まずは金策をしなきゃいけません。
「おばあさん、このアイテムを取り置いてもらうことってできますか?」
「そうさね。他の渡り人が来るまでの間なら構わないよ」
ダメ元でお願いしてみたら、そんな返事をいただきました。
今のところ私以外の渡り人はいないみたいですし、これでしばらくは大丈夫でしょう。
「ありがとうございます。なるべく早く買いに来ますね」
金策という新たな目的もできたことですし、いざゆかん夜のフィールドへ!




