1-2 初めての配信
そして光が収まると、私の目の前には、どこまでも続く草原が広がっていました。
「おぉ……」
思わず声が漏れます。
正面だけではなく、右を見ても左を見ても見渡す限りの地平線。こんな光景、日本だとなかなか見られません。
「いやしかし流石というか何というか作り込みが凄い……」
降り注ぐ太陽の暖かさ、風にそよぐ草の音。
最新型のVR機器の性能もあってか、仮想現実の世界であるはずなのに現実と同じかそれ以上のリアルさを感じます。
「……というか、本当にただの草木の揺れにも物理演算を掛けてるとかマジで頭おかしいレベルですよね」
おそらく採集オブジェクトでもないただの賑やかし。そんなものにもわざわざ精密なコリジョンを入れるなんて流石トップハント社というかなんというか……。
「おっと、忘れる前に配信の設定をしないと」
制作陣のクレイジーさに思わずドン引きしていた私ですが、まず先にやっておくべきことを思い出して顔を上げました。
『ゲームをプレイしているところを動画配信する』。それがこのゲームを貰うに当たって叔母から出された条件の1つです。
内容に口出しはしないし垂れ流しでもOKというかなり緩い条件でしたし、せめて配信自体はちゃんとやらないといけません。
必要なアイテムに関しては課金で購入してありますし、配信を開始するための手順や設定方法については運営からのメールが届いているので、それを確認しながら進めていきます。
「えーっと、最初に配信用のアイテムが届いているのを確認して……これですね」
まずはインベントリに『配信水晶』というアイテムが入っているのを確認。
「次に外部動画サイトにアクセスするためのアプリをダウンロードして……」
そのまま指定された動画サイトでアカウントを作成し、チャンネルも設立。
「カメラワークはオートで、チャット欄は表示、アーカイブは残す設定、っと」
配信に関する設定はとりあえず運営から推奨されている通りに。
あとは実際やってみて気になる部分があれば変更すればいいでしょう。
「最後に配信水晶を起動させれば――」
インベントリから取り出した配信水晶を起動させると、手の中にあった水晶が消え、代わりに羽の生えた光の玉が出現しました。
説明によるとこの光球は撮影者の後ろを自動で追尾しつつ、AIが思考を読み取ることでこちらの撮りたいものを良い感じに撮影してくれる、とのこと。
当然コンプライアンスは遵守されているのでNPCのスカートの中身を撮影したり、個人のプライバシーを覗き見したりなんてことはできませんよ。盗撮、ダメ、絶対。
「さて、準備もできましたし、配信を始めましょうか」
▶配信を開始しました
配信を開始すると、カメラが浮かび上がって私を正面から映し出しました。
……ふむ。開始したばかりで視聴者数は0ですけど、一応挨拶くらいはしておいた方がいいですかね?
『初見』
『初見です』
『初見』
「おえっ?」
突然表示されたコメントに思わず変な声が漏れました。
あれ? さっきまで0人でしたよね? いきなり視聴者数が増えた?
『「おえっ」てwww』
『初見です』
『初見でーす』
そうこうしている間にもどんどん視聴者数が増えていきます。
流石は今1番話題のMMOというべきか、私が思ってた以上に注目されてるみたいですね。
……とりあえず挨拶はしておきましょうか。
「えーっと、初めまして。アリーシアといいます。配信は初めてですがよろしくお願いします」
『よろしく!』
『アリーシアちゃんかわゆい』
『初々しくてイイ!』
『俺も配信者だけど、テレジア入手できなかったんだよなー。羨ましい』
『同じ立場から言わせて貰うけど、俺たちなんかより美少女の配信の方が100万倍価値あるだろ』
『確かに!』
『禿同』
『わかる』
いや美少女って(笑)。
あー、でもリアルの私は割と地味な感じですけど、こっちだと結構派手な見た目になってますからね。身長もかなり低くなってますし、それで可愛く見えているのかもしれません。
ともあれ好意的なコメントが多いなら何より。
それじゃあ挨拶も終わりましたし、そろそろゲームを進めて――の前に一応リスナーさんに状況を説明しておいた方がいいですかね?
「えーっと、今私がいるのは最初に種族スタートを選んだ場合の開始地点になります」
『種族スタートって?』
「種族スタートっていうのはエルフやドワーフみたいな人間以外の種族で始めた時に選べる特殊ルートで、人間でスタートした場合や種族スタートを選ばなかった場合は始まりの街っていう所から開始するらしいです」
『ほー』
『人間だけハブられてんの不公平じゃね?』
「どうでしょうね。多分こっちは世界観を楽しみたい人向けのルートでしょうし」
スタートダッシュを決めたい人は普通に始まりの街からスタートすると思いますし、少なくとも他種族を選んだプレイヤーだけが得をする、なんてことにはなってないでしょう。
「たまにゲームでスキップできるチュートリアルを兼ねた冒頭部分がありますけど、多分あんな感じなんじゃないですかね?」
『なるほど』
『喩えが的確すぎる』
『確かにあれってやってもやらなくても問題無いもんな』
というわけで改めて周囲の状況を確認。
カメラもぐるりと周囲を映し出します。
まず正面に広がっているのがおそらくフィールド。
丈の低い草が生え揃った平坦な土地がどこまでも続いていて、途中途中には目印になりそうな木や大きめの岩などが見えます。
どこかに隠れているのか、ざっと見た感じモンスターっぽい姿はありませんね。
「正面はフィールド、ということは後ろが……」
振り返ると、予想通りそこには集落がありました。
まず目に付いたのは木でできた頑丈そうな柵。ファンタジー系のRPGですし、おそらく魔物避けのためのものでしょう。
そして柵の内側にはいかにも西洋風といった石造りの建物――ではなく、モンゴルの遊牧民が使うゲルに似たテントが並んでいます。
周囲の環境といい、どうやらグラスランナーは遊牧民的な種族という設定みたいです。
まぁ名前からして草原を駆ける者ですからね。さもありなん。
「さて、いきなりフィールドに突っ込むのもなんですし、まずは集落の方を見て回りましょうか」




