1-18 vs マーダーラビット②
「よっ、ほっ、《ウエポンパリィ》! そぉい!」
繰り出される攻撃を捌き、躱し、アーツで受け流して反撃。
ちらりとマーダーラビットのHPを確認すると残り3割ちょっと。
6割を切った時に攻撃で蹴りを使ってくるようになりましたし、そろそろ何か行動の変化があっても――っ!?
「《ウエポンパリィ》!!」
ぎぃんっ! と今までに無い強い衝撃。咄嗟にアーツを使ったものの、衝撃を受け流しきれず僅かにHPが削れました。
「やっぱり行動の変化がありましたね……!」
視線の先、マーダーラビットが全身に赤いオーラを纏っており、〈識別〉で見える名前の横には怒りマークのアイコンと攻撃アップ・防御ダウンの文字。……ボスに多く見られる特殊行動で、いわゆる発狂状態と呼ばれるものでしょう。
ただでさえ高い攻撃力が増加し、攻撃そのものも苛烈さを増しているのは普通に考えれば厄介――しかし、今の私にとってはこのステータス変化はむしろおいしい!
「よっ、《ステップ》! そぉい!」
鋭さを増した攻撃をなんとか捌きつつ隙を見て1撃を入れると、防御力低下の影響かあきらかに先ほどまでより多くHPを削っているのが分かります。
「ハハッ」
双剣を振るって致死の刃を受け流し、僅かな間を縫って相手のHPを削り取る。
いやーこのギリギリ感、超ハイリスクハイリターンのオワタ式ボス戦状態!
アドレナリン出過ぎて頭がフットーしますね!
『めっちゃ笑ってる』
『完全にバーサーカーやんw』
『この状況で笑えるのはイカれてるわ』
リスナーさんがなんか言ってますけど無視無視無視っ!
刺突を捌き、横薙ぎを躱し、連撃は反撃を入れることで止め、何度も位置を入れ替え、それでも相手をランタンの効果範囲内に捉えたまま攻防を繰り返す。
流石に100%完璧に攻撃を捌ききるのは無理なのでガリガリHPは削れますが、発狂状態で防御力が下がったマーダーラビットのHPの減りの方が早い。
『アリーシアちゃんがんばって!』
『いけるいける!』
『あと1割ちょい!』
『この戦い、我々の勝利だ!』
『あ、馬鹿それフラグなんじゃ……』
そしてマーダーラビットのHPが1割を切った瞬間、
「■■■■■!!!」
咆吼と共に、衝撃波が周囲に撒き散らされました。
当然至近距離にいた私にそれを回避することはできず、全身に走る痺れで今のが【スタン】効果を持つ咆哮だったと気付いた時にはマーダーラビットの前で無防備な姿を晒すことに。
「しまっ――?」
しかし覚悟していた攻撃は飛んでこず、マーダーラビットはバックステップで距離を取って私から10メートルほどの地点へ移動。
「……なるほど。仕切り直し用のアクションだったわけですか」
そうして完全にランタンの効果範囲外に出たマーダーラビットは、まるで水に潜るかのように影の中へと沈んでいきます。
距離の離れた私にそれを止める術はありません。
『あぁ……』
『誰だよさっきフラグ立てたヤツ!』
『ごめんちゃい☆(・ω<)』
『コイツ反省してねぇな……』
いつの間にやら夜空には雲が広がり、ボスエリアのほぼ全域と言っていい範囲が影に包まれています。
〈看破〉でなんとか見つけれないかと周囲を見渡すものの、レベルが足りないのか《影渡り》が対象外なのかスキルが反応する気配はありません。
「ランタンのおかげで足下からいきなり、なんてことはないでしょうけど……」
正直発狂で攻撃力が上がった状態での不意打ちとか今のHPだと掠っただけでも死にそうなんですよね。
なりふり構わず回避に専念すれば躱すこと自体はできるかもしれませんが、それだとまた避けた先で《影渡り》をされるだけですし。
勝ち筋があるとすれば、相手の攻撃に対して受け流しを成功させ、もう1度接近戦へと持ち込む必要があるわけですが……、
「まさかホントにこの作戦を使うことになるとは……」
小さく呟き、私はそっと目を閉じました。
きっとまたコメントで色々言われてるんでしょうねーと思いつつ、視覚以外の感覚に意識を集中させます。
心眼とか殺気を探るため――ではなく、〈直感〉の精度を上げるためです。
…………いや一緒だろと言われるかもしれませんが、全然違います。だって心眼とか殺気はよく分からない漫画的な謎技能ですけど、〈直感〉はゲームのシステムに保証されたスキルですからね。
「………………」
意識が沈むような感覚と共に、見えないはずの視界が広がっていく。
深く、そして広く。
極限状態の集中の中、まるで1秒が1分にでもなったような時間が過ぎて、
――首筋にチリッと僅かな気配。
「《ウエポンパリィ》!」
感じた〈直感〉を信じて双剣を振るった瞬間、キィンッと響いた甲高い音。
「……え?」
開いた目に映るのはウィンドウに表示された【JUST PARRY!!】の文字と、空中にいるマーダーラビットの姿。
時間にしてわずか数フレーム。限界まで集中した事で研ぎ澄まされた五感は、意識がそれを認識するよりも先に情報の精査を終え、結論を弾き出す。
「《スパイラル――」
身体が勝手に動く。いや違う、これはちゃんと私の意思。
両腕を引く。腰を落とす。〈足捌き〉のおかげか姿勢制御は十分。
思考は後からついてくる。自分のしている行動に、後から納得を得る。
未だ空中にあるマーダーラビットの身体。完璧な受け流しの効果で怯みが入ったのか、無防備な胴体と大抵の生物にとっての弱点である喉元が晒されている。
「――エッジ》!」
放たれた螺旋の刃がそこへと吸い込まれ――
▶シークレットクエスト『復讐の兎』を完了しました
▶称号【格上殺し】を獲得しました
▶レベルが上がりました
▶レベルが上がりました
▶スキル〈集中〉がアンロックされました
「……た、倒した」
光の粒子となって消えていくマーダーラビットを見ながら、力の抜けた私はその場に座り込みました。
いやー、流石はシークレットボス。本当に強かった。
ほとんどの攻撃が即死級でちょっとかすっただけでHPをガリガリ削ってくるし、動きはめちゃくちゃ速いし、特殊能力も厄介でした。
特に発狂状態になってからは1つ1つの動きにいちいち神経集中させて、常にフルスロットルで頭回転させなきゃいけない戦いとか……。もうね、肉体的にも精神的にも疲労困憊ですよ。
まぁ、VRなので肉体的な疲れは錯覚ですが。
今回の勝利に関しては、本当に偶然に近い。特に最後のパリィなんかはもう1度同じことをやれと言われても、確実に無理です。
「…………」
とりあえず一端ログアウトしましょう。幸いにも、ボスを倒した後のボスエリアでログアウトすると、リスポーン地点に登録している町の広場でログインできるみたいですし。
今も凄い勢いで流れているコメントになんとか返事を返しつつ、メニュー画面からログアウトを選択。
あぁ、カフェインが足りない……。




