1-15 復讐の兎
さて、一晩寝て落ち着きましたよ。
色々と気になることはありますが、まずはメニューを開いてクエストを確認……お、ありましたね。
シークレットクエスト:復讐の兎
『それは闇の中からやってくる。
同じ感情を持った同胞の復讐ために。
首刈り兎がやってくる』
達成条件:マーダーラビットを討伐する。
報酬:???
なんかヘルプも更新されてますね。
※シークレットクエストとは
ギルドが出しているクエストとは別のクエスト。
NPCから直接依頼を受けた場合に発生。
また特殊なイベントがキーになって発生することもある。
そしてもう1つ。
※シークレットボスとは
いくつかの条件を満たすことで通常ボスの代わりに出現するボスモンスター。
基本的に通常ボスより強く設定されている。
腕に自信のある方はどうぞ。
「なるほど……?」
NPCから依頼を受けた記憶はありませんし、このシークレットボスの出現条件を満たしたことでシークレットクエストが発生したということですかね?
「まぁ、とりあえずギルド長に話を聞いてみますか」
分からないことは素直に知ってそうな人に聞く。
というわけで冒険者ギルドへ――っと、その前に配信配信。
▶配信を開始しました
『あ、配信始まった』
『おつー』
『結局前回のって何だったん?』
『おはようございまーす』
「おはようございます。えーっと、前回私が殺されたあれ、どうやらシークレットボスだったらしいですよ」
軽く説明してから、さっきまで見ていたシークレットクエストについての情報と各種ヘルプをリスナーからも見えるように表示します。
『マジか』
『シークレットボス!?』
『最初のフィールドでそんなの出るの!?』
「まぁ、どういう条件で出てきたのかは全然分からないんですけどね。その辺りのことを聞くために今冒険者ギルドに向かってるところです」
そんなことを話している間に冒険者ギルドに到着。
「こんにちわー」と声をかければ、相変わらず暇そうなギルド長が迎えてくれます。
「おう。またクエスト受けに来たのか?」
「いえ、今日はちょっと聞きたいことがありまして」
「聞きたいこと?」
「ギルド長は『復讐の兎』というのをご存じですか?」
そう尋ねると、ギルド長の眉がぴくんと跳ね上がりました。
「あん? いったいどこでそれを聞いたんだ?」
「Gラビットに挑みに行ったら遭遇しまして」
「……お前、よく無事だったな」
「無事じゃありませんよ。1撃でやられました」
プレイヤーだからリスポーンで済みましたけどね。
自身の首を叩きながらそう言うと、「あぁ……」と、ギルド長は納得の表情を浮かべます。
「そういうわけなので、アレについてできれは何か有益な情報をいただけたらな、と」
「まぁ俺が知ってることくらいなら教えるが……」
「ちょっと待て。お前まさかまたアイツと戦う気か?」
「そのつもりですけど?」
負けっぱなしは悔しいですからね。当然再戦予定です。
そういえばGラビットへのリベンジも結局できませんでしたし、2匹纏めてウッサウサにしてやりますよ。
決意を新たにする私を何故か呆れた目で見ていたギルド長でしたが、しばらくすると諦めたようにため息を吐いて説明を開始しました。
「まずお前が遭遇したのはマーダーラビットっていう魔物で、あの平原で狩りをしてると極希に遭遇するヤベーやつだ」
「ヤベーやつ」
「遭遇したらほぼ間違いなく殺されるって言われてる、そういうやつだ。この集落でも数年に1人くらいの割合で被害者が出る」
「そんな危険なモンスターなのに討伐依頼とか出なかったんですか?」
「何度か討伐隊を組んで探索したことはあるんだが、警戒心が強いのか出てこなかったんだよ」
「なるほど」
まぁシークレットボスのヘルプに『いくつかの条件を満たすことで』って書いてありましたし、おそらく討伐隊の人たちは出現条件を満たせなかったんでしょう。
「ちなみに以前いたっていう渡り人のグラスランナーが遭遇したっていう話は?」
「少なくともここで登録したやつらが戦ったって話は聞いてないな」
じゃあ『復讐の兎』を発生させたプレイヤーは私がこのゲームで初ってことですか。これはちょっとテンション上がってきましたよ。
『アリーシアちゃん悪役みたいな笑顔浮かべてるぅ……』
『守りたい、この笑顔(※捕食者の笑み)』
『アリーシアちゃんって口調は丁寧でお淑やかそうなのに』
『何言ってんだ嬉々としてミミズに斬りかかる女やぞ』
いやいや別に嬉々として斬りかかったりしてませんからね?
揃いも揃って人を戦闘狂扱いするリスナーたちに一言物申したいところですが、今はそれよりギルド長からの情報収集を優先。
できればもうちょっと出現条件に関わるヒントが貰えればいいんですけど……。
「マーダーラビットに襲われた人たちに共通点などは無いんですか?」
「つってもなぁ……被害者の性別や年齢はバラバラ。共通してるのは狩りに出かけた後、夜になっても帰ってこず、次の日になって捜索したら草原で首をかっ切られた死体で見つかるっていうことくらいか」
「ほほぅ」
つまりその辺りの行動が出現条件に関わってそうですね?
「俺が把握してるのはそれくらいだ。もしまだ情報が欲しいなら道具屋の婆さんに聞いてみな。この集落1番の古株だから何か知ってるかもしれん」
「なるほど、確かに」
というわけで私はギルド長にお礼を言った後、冒険者ギルドを出ておばあさんの店へと移動します。
「おやいらっしゃい。今日も不要品の買い取りかい?」
「いえ、今日はお話を伺いたくて来ました。おばあさんは『復讐の兎』――マーダーラビットについて何かご存じですか?」
問いかけると、おばあさんの表情がぴくりと動きました。
「それを聞いてくるってことは、アンタ、アイツとやり合ったのかい?」
おっとこれは知ってる反応ですね?
「やり合ったと言うか、気付いたら一瞬でやられてました」
「ああ、そりゃおそらく《影渡り》を使われたんだね」
『《影渡り》!?』
『キタ――(゜∀゜)――!!』
『ババァkwsk』
「えーっと、その《影渡り》っていうのは……?」
「その名の通り影から影へと移動するあのウサギの能力さ。そうやって死角から飛び出して首をばっさり。渡り人で良かったね。普通のグラスランナーならそれでお陀仏だよ」
「うわぁ……」
それが初見殺しの正体ですか。
死角に転移してからの不意撃ち&急所攻撃とか、まず事前情報無しだと対応できないでしょうし、そりゃ遭遇したらほぼ確実に死ぬとか言われるわけですよ。
……ん?
「そういえばおばあさんはどうしてその情報を?」
これってマーダーラビットと戦って生き延びないと手に入らない情報ですよね?
「ああ、私の旦那が若い頃に遭遇したらしくてね。倒すことはできなかったが見事追い返してやったって酒に酔うたびに自慢してたのさ」
なんでも当時集落一の狩人として名を馳せていたおばあさんの旦那さん(当時はまだ青年)が狩りの帰りにマーダーラビットと遭遇。《影渡り》からの不意打ちを類い希な反射神経で奇跡的に回避、その後は無我夢中で戦い続け、夜が明ける頃にはマーダーラビットはいなくなっていたそうです。
『あの初見殺しを回避したんか』
『ジジィすげー!』
『いや当時は青年だったって言ってたろ』
『それでも十分凄いだろ』
まぁ確かに凄い。
私は無理でしたけど、ひょっとしたら〈直感〉とか〈感知〉のレベルが高いとあの攻撃にも反応できるのかもしれませんね。
「ちなみにおばあさん、他に何かマーダーラビットについておじいさんが話してたことってあります?」
「そうさね……。マーダーラビットの使う《影渡り》は、ある程度の大きさの影が無いと移動できなさそうだった、とは言ってたねぇ」
「なるほど」
ということは少なくとも自分自身の影に潜ったり、こっちの影から飛び出したりといったことは無さそうな感じですね。
てか、それをやられたら流石に対処が難しすぎますし。いくらシークレットボスだとはいえ、最初のフィールドのボスでそこまで鬼畜難易度にはしないでしょう。多分。
「私に話せることはこれくらいだね。ちなみにだけど、この話を聞いたってことはアンタはまたあの首刈り兎に挑むつもりかい?」
「ええ、そのつもりですけど?」
「……渡り人のアンタには無用な心配かもしれないけど、くれぐれも気を付けるんだよ」
「任せてください。ウッサウサにしてきてやりますよ」
ピッと親指を立てて応えたら、何故かギルド長とまったく同じ呆れた表情を浮かべられました。
……解せぬ。




