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「大きくなったら結婚してね」を社交辞令で流したら、本気だった年下王子に詰められています(泣)

作者: 桜木ひより
掲載日:2026/01/09


私、セレスティア・フォン・ヴァレンシュタインは、いわゆる"悪役令嬢"だ。


前世の記憶がある転生者で、この世界が乙女ゲーム『エターナル・ローズ』の舞台だと知っている。

ゲームの筋書き通りなら、やがてヒロインが王立学園に入学し、王子たちを次々に攻略。

最終的に私は断罪イベントで婚約破棄され、国外追放か修道院送りになるはず…だった。


だから私は、悪役令嬢としての役目は最低限こなしつつも、決して目立たず、恨まれないように生きてきた。



そんな私に、五年前、一つの"安全装置"が用意された。


それは第三王子リオネル・アルヴェインとの婚約である。

当時、彼は十歳。私は二十歳。十歳も年下の、まだあどけない少年だった。



婚約は政治的なもので、実質的な意味はない。

どうせヒロインが現れれば自動的に破棄される運命だ。

それに…十歳も年下の子どもなど、恋愛対象になるはずもなかった。



だから私は、彼を"可愛い弟"のように扱った。

優しく微笑み、頭を撫で、困ったときには助けてやった。


そして、彼が真剣な顔で「セレスティア様、僕、大きくなったら絶対にあなたと結婚します」と言ってきたとき、私はこう答えたのだ。



「ええ、大きくなったらね」


完全に、社交辞令のつもりだった。子どもの戯言を適当に流す、大人の対応。


それが、どれほど致命的な一言だったか。

私が気づいたのは、つい先日のことである。





あれから五年。


リオネル王子は十五歳になり、北方での反乱鎮圧と魔獣討伐のため、三年もの間、王都を離れていた。


その間、私は何の危機感も抱いていなかった。

いや、むしろ安心していた。


彼が成長し、やがて本当の恋を知れば、自然に婚約は解消されるだろう。

そして私は、ヒロインと王子たちの恋物語を邪魔せず、静かに身を引く――そんな未来を想像していた。



だが、魔力というものは、時に人の想像を超える。



この世界には「魔力同調成長理論」という学説がある。


通常、魔力は年齢と経験に応じて緩やかに成長する。

しかし、特定の対象への強すぎる感情、独占欲、愛情、執着などを抱いた場合、魔力が肉体と精神を「完成体」へと強制的に進化させることがあるという。


私も知識としては知っていた。

だが、まさか自分がその"対象"だったとは、まだ思いもしなかった。






王都に凱旋した第三王子を出迎える式典。

私も婚約者として、その場に立った。



帰ってきた彼には、もはや少年の面影など微塵もなかった。


背は私を優に超え、肩幅は広く、鍛え抜かれた身体は甲冑の上からでもわかる。


顔立ちは整い、金色の髪は陽光を反射し、深い青の瞳には、五年前とは比べ物にならない力が宿っていた。


彼が式典の壇上から、真っ直ぐに私を見た。


その瞬間、本能で悟った。

 ――ああ、これは、まずいことになった。



「セレスティア様」


式典後、彼は真っ先に私のもとへ来た。

その声は、低く、穏やかで、けれど有無を言わさぬ力を秘めていた。



「お久しぶりです、リオネル殿下」


私は丁寧に頭を下げた。


だが、彼は私の手を取り、そっと引き寄せる。


「五年ぶりですね。ずっと…会いたかった」


その言葉に嘘はなかった。

そして、怖いほど真剣だった。


「……殿下もお元気そうで、何よりです」


「ええ。すべて、あなたのために」


 ――あなたのために?


私の中で、嫌な予感が膨らんでいく。


「あなたは約束してくれましたね。"大きくなったら結婚してくれる"と」


「…………」


「僕はもう、子どもではありません。約束を果たしていただけますね?」


その笑顔は、穏やかで、優しくて。


けれど、私には理解できた。


これは、質問ではない。確認でもない。


 ――宣言だ。







その夜、私は自室で一人、考えを巡らせていた。


まだ慌てる必要はない。

婚約破棄の筋書きは、ヒロインが現れてからだ。

それまでは、適当にやり過ごせばいい――


そう思っていた矢先、侍女が一通の手紙を持ってきた。



差出人は、父。ヴァレンシュタイン公爵だ。

書いてある内容は、こうだった。


『王子殿下より正式に婚姻の申し入れがあった。

半年後、式を執り行う。この件に関して、異論は認めない』


――は?半年後?


しかも、異論は認めない?


私は急いで実家の父のもとへ向かった。


「ち、父上!これはどういうことですか!」



書斎にいた父は、穏やかに、しかし有無を言わさぬ口調で答えた。


「そのままの意味だ。第三王子殿下は、北方の反乱を完全に鎮圧し、魔獣の群れを単独で殲滅した。

今や軍部の信頼も厚く、魔力量は王族随一。

政治的にも、これ以上の縁組はない」


「しかし、私は――」



「お前がどう思おうと関係ない。王家からの申し入れを断る理由がない。それに」


 父は、私を真っ直ぐ見た。


「殿下は、お前以外と結婚する気など、微塵もないそうだ」


「それに、魔力同調成長の兆候も確認されている。お前を"対象"とした、な」




「……つ、つまり、殿下の急激な成長は」


「お前への執着が原因だ。魔力が、彼を"お前を守るための完成体"へと進化させた」


「そ、そんな、馬鹿な…私は何も、特別なことはしていないはずです!」


彼にはただ、優しくしただけだ。

子どもに接するように、当たり前に――


「だからこそ、危険だったのだ」

父は溜息をついた。


「お前は、無自覚に彼の唯一無二の存在になってしまったのだ」






その夜、私はリオネル王子に呼び出された。


場所は、王城の奥にある、彼の執務室。

扉を開けると、彼は窓辺に立ち、夜空に浮かぶ月を見ていた。


「来てくれましたね、セレスティア様」

彼は振り返り、微笑んだ。


「……殿下、少しお話が」


「ええ、ちょうど僕もです」


彼はゆっくりと近づいてくる。


「まず、謝らなければなりませんね。

あなたに、何も告げずに準備を進めてしまったこと」


「準備……?」


「ええ」

彼は、私のすぐ目の前で立ち止まり、優しい顔で私を見つめ、話し出した。


「この五年間、僕は多くのことをしてきました。

反乱の鎮圧、魔獣の殲滅。軍部との関係構築…そして――」


彼は、私の手をそっと取った。


「大切なあなたを守るための、盤石な体制作りも」


その瞬間、私は理解した。

彼が不在だった五年間。


それは、決して"離れていた時間"ではなかった。

それはすべて、私を逃がさないための準備期間だったのだ。


「……どこまで、やったのですか」


「貴方が想像している、すべてです」


彼は微笑んだ。

その笑顔は、穏やかで、優しくて、そして絶対に譲らない意志を秘めていた。





 ――リオネル視点


俺は、五年前から決めていた。

セレスティア様を、絶対に手放さない、と。


彼女はとても優しかった。

俺が幼く、誰からも期待されていなかった頃、彼女だけが俺を見てくれた。


頭を撫でてくれた。微笑んでくれた、優しく話してくれた。

そして、俺に言ってくれた。


「大きくなったらね」


――それは、幼い俺にとっても、一章の約束になりうる言葉だった。


彼女は軽い気持ちで言ったのかもしれない。

だが、俺にとっては、絶対の約束だった。


だから、俺は強くなった。

魔力を鍛え、剣を磨き、戦場で名を上げ、政治を学んだ。


そして、彼女と俺に立ちふさがるすべての障害を排除した。


彼女に言い寄る貴族は、適切な理由をつけて遠ざけた。

婚約破棄を画策する勢力は、事前に潰した。


ヴァレンシュタイン公爵家が傾かないよう、裏で経済支援も行った。


彼女が逃げ場を失わないように。


いや、正確には――

俺以外の"逃げ場"を、すべて塞いだのだ。


そして今、ようやく準備が整った。


軍は俺を支持している。

貴族社会も、俺の発言を無視できない。


魔力も、剣技も、政治力も、すべて王族の中で最高位に達した。


もはや、誰も俺たちの婚姻を止められない。

兄たちも、父も、母も、義父様や義母様、国も、誰も。


そして――彼女自身も。


「セレスティア様」

俺は彼女の手を取り、そっと引き寄せる。


「あなたは、僕との約束を…守ってくれますね?」


彼女は明らかに動揺している。そんな姿もなんて愛おしいのだろうか。

この愛らしい彼女がもうすぐ完全に自分の物になるなんて…待ちきれない。


だが、彼女が俺を恋愛対象として見ていないことくらい、知っている。

しかし、それも時間が解決する。


俺には、時間も、力も、そして何より、彼女を幸福にする覚悟がある。


「僕は、あなた以外と結婚する気はありません。

そして、あなたにも、僕以外の選択肢はありません」


俺は彼女のしなやかな腰に手を添えると、まるで磁石に引き寄せられるように、彼女との距離を縮めた。


「もちろん、これは、脅しではありません。もう確定している事実です」


まるで世界で一番壊れやすい宝物を扱うように、そっと彼女の頬に触れる。


「だから、安心してください。あなたは、もう何も心配する必要はない。すべて、僕が守ります」


彼女の瞳が、揺れる。

その同様さえも、愛おしい。


「……殿下は、本気なのですね」


「当然です」


「私が…もし殿下を愛していなくても?」


「今は、それでいい」


俺は微笑んだ。


「いずれ、あなたも俺を見てくれる。そのために、俺は一生をかける」


彼女は、もう何も言わなかった。


それでいい。

彼女が俺を受け入れるまで、俺はずっと傍にいる。


逃がさない。

絶対に。





 

私は、気づいたら完全に詰んでいたみたい。

家も、国も、社会も、すべてが彼の手の中にある。


逃げ場は、もうどこにもない。



「セレスティア様」

彼は私の手を取り、そっと口づけた。


「半年後、あなたは僕の妻になる。

それまで、たくさん話しましょう。あなたのすべてを、知りたい」


その声は、優しくて、穏やかで、けれど絶対に逆らえない力を持っていた。


「……わかりました」


私は、観念した。もはや、彼に抗う術はない。


それに――彼の瞳を見ていると、不思議と恐怖だけではない感情が湧いてくる。


この人は、本当に私を大切にしてくれるのだろう。

重すぎるほどの愛情で、息が詰まるほどの執着で、けれど――それでも。


「殿下」


「リオネル、と呼んでください」


「……リオネル様」


「様も、いずれ外してくださいね」


彼は微笑んだ。


その笑顔は、少年の頃と同じで、けれど全く違っているように感じれる。


「あなたは、僕のすべてです。だから、僕もあなたのすべてになります」


――逃げられない。

けれど、不思議と、悪い気はしなかった。


もしかしたら、私も――いつの間にか、彼を"弟"ではなく、一人の男性として見始めていたのかもしれない。


それに気づいたとき、私は静かに目を閉じた。


「……よろしくお願いします、リオネル様」


「ええ。これから、ずっと」


彼は私を抱き寄せた。


その腕は大きく、強く、温かくて…そして――もう、決して離さないという意志に満ちていた。


こうして、私の"悪役令嬢ルート"は、予想外の形で幕を閉じた。

乱入するはずのヒロインも、断罪イベントも、すべて彼が塗り替えてしまった。


そして私は――

逃げ場のない、けれど不思議と心地よい、溺愛の檻の中へと落ちていく。


「大きくなったら、結婚してくださいね」


あの日、私が軽く交わした一言。

それが、こんな未来を生むとは。


でも、もういい。


彼の腕の中で、私はそっと目を閉じ、心の中で呟いた。


――これも、悪くない。


【完】

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