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わたくし悪役令嬢ですから  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【本編】

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3/34

3

 リハーサルはつつがなく終わり、会場が解放された。


 つまりこの舞踏会に参加する生徒たちが続々と入ってくる。逆にチュロ子爵令嬢ほか取り巻き令嬢は廊下に出て、自身のエスコート役の令息の元へ向かう。


「ウェンディ!」


 涼やかで凛とした声に後ろを振り返る。


 会場から出てきたオリオン王太子が全てをあまねく照らす太陽のような笑顔でわたくしを見ていた。


(既にヒロインへのわたくしの嫌がらせを聞いているはずなのに。なぜ今もこの笑顔なのかしら?)


 そんな疑問を浮かべるわたくしをさらに困惑するような一言をオリオン王太子が告げる。


「さあ、会場へ入ろう」


 そう言って手を差し出すのだ。


「えっ、わたくしと!?」

「!? 君を差し置いて、誰をエスコートしろと? ウェンディ、君は僕の婚約者だ。まさか記憶喪失にでもなったわけではないよね?」

「……! そんな、まさか! お、覚えていますわよ」

「だったら今さら照れているの? 僕の婚約者を十二年もやっているのに。ウェンディはなんて可愛いのだろう」

「?????」


 オリオン王太子の言動に、頭の中でクエスチョンマークが踊ってしまう。乙女ゲームの本来の流れでは、ここで攻略中の男子にヒロインはエスコートされるはず。つまりオリオン王太子はヒロインであるマクドナルト嬢をエスコートするはずなのですが!


「行くよ、ウェンディ」


 白手袋をつけた手で、オリオン王太子が当たり前のようにわたくしのエスコートを始める。


(ど、どうなっているのかしら!? ヒロインは? マクドナルト嬢は誰にエスコートされていますの!?)


 キョロキョロとマクドナルト嬢の姿を探すと、見知らぬ騎士らしき男性にエスコートしてもらっている。着用しているグレーのマントの背には、バーガー辺境伯の紋章。


(バーガー辺境伯に仕える騎士だわ)


 卒業を祝うこの舞踏会、通常は生徒同士で来場する。だがいろいろな事情を加味し、生徒同士での来場が難しい場合。女生徒であれば、親族や護衛騎士を同伴しての入場も認められていた。


(となるとあのチャコールグレーの隊服を着た偉丈夫な体躯の男性は、マクドナルト嬢の護衛騎士ということで、エスコート役をしているのね)


 赤に近い茶色のワイルドヘアの護衛騎士は何だかライオンみたいに見える。体格がいいのはもちろん、身長も高いので、戦場で相まみえたら、それだけで戦意喪失しそうだった。


「ウェンディ」

「あ、はい」

「あ、はい……か。ウェンディ、君は僕の婚約者なんだよ。どうして他の男性に見惚れているのかな? もしかしてウェンディ、ああゆう歴戦の猛者みたいな猛々しい感じの男性が好みだった?」

「!? そ、そういうわけでは……見かけない騎士の方で、バーガー辺境伯の紋章がついたマントを着用されているので……珍しいと思ってつい見てしまっただけです」

「……本当に?」

「本当です!」

「本当?」

「本当ですわ!」


 オリオン王太子との会話。自分ではない異性を凝視する婚約者に可愛らしく嫉妬し、傍からしたらラブラブに見えるだろう。


(何をしているのです、オリオン王太子! この後、わたくしを断罪し、婚約破棄をするというのに!)


 そこで大変恐ろしいことに気が付いてしまう。不幸が漂う中で、さらに不幸が起きても、それはセンセーショナルにはならない。だが幸せムードが漂う中で起きる悲劇は、その不幸の度合いが極まる。


(まさかこの世界の乙女ゲームのシナリオは、幸せの絶頂から不幸のどん底へ突き落す展開なの!? 断罪からの婚約破棄のコンボを、このラブラブモードから突然繰り出させるつもり!? わたくしが(はがね)まで行かなくても、わりとメンタル強めだと気づき、確実にSAN値へダメージを与える手法に切り替えたのかしら!?)


 もしこれが正解なら、ゲームの世界の抑止力、恐るべし、だった。


(落ち着いて、わたくし。この予想を立てられた時点で、勝機はありよ。大学の心理学の授業で習ったでしょう。心にダメージを受けないためには、感情をラベリングすればいいのよ。この後のオリオン王太子の言動はゲームを何度もプレイした記憶で分かり切っている。そのことで悪役令嬢であるウェンディが受けるダメージは絶望、慟哭、憤怒……)


 そうやって感情の整理をして、衝撃に備えている間にも、舞踏会の会場は生徒たちで埋め尽くされていく。楽団が軽やかなメロディを奏で始める。オリオン王太子は何事もなかったかのように話をしているが、わたくしは心の武装準備に余念がない。


(大丈夫。大丈夫よ。来る不幸のシナリオは分かり切っている。粛々と断罪を受け入れ、謝罪して婚約破棄を受け入れ、退出すればいいの。ここからわたくしは舞台女優になる。悪役令嬢ウェンディ・シェイ・アメリカーナとして、悪女を演じ切るのよ!)


 そこでこの舞踏会を取り仕切る生徒の男女がステージに登場し、楽団の演奏が止む。


 チリン、チリンと銀製のハンドベルを鳴らすと、会場のざわざわした声が波を引くように静まって行く。


 生徒は一クラス三十名で三クラスしかない。会場にいる生徒は百名足らずだが、それでもこの人数が、ハンドベルの合図で静まるのはすごいことだと思う。前世のようにマイクやスピーカーがない世界では皆、音に敏感なのかもしれない。


「お集りの皆様、いよいよ時間となりました。これより、第百二十五回王立オリオン学園の卒業舞踏会を始めさせていただきます。それではまず卒業生を代表し、生徒会長でもあるコール・スコット・オリオン王太子殿下にご挨拶をいただきましょう!」


 遂に、悪役令嬢ウェンディへの断罪と婚約破棄が始まる――!


お読みいただきありがとうございます!

主要キャストが揃い、もう断罪劇が始まります……!

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