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わたくし悪役令嬢ですから  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【本編】

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2

『ファーストラブ(初恋)はバニラの味』で、悪役令嬢であるウェンディが断罪されるのは、卒業式の後に行われる舞踏会だ。


 そして先ほど、卒業式は無事に終わった。


 皆、一旦帰宅して、ドレスに着替えて再び王立オリオン学園に集合する。学園には創立記念ホールという、卒業生の寄付で作られたドーム型の建物があった。このホールで各種式典が行われ、卒業式もここで開催されたのだ。


 生徒たちが一時帰宅している間に、舞踏会の会場として整えられていた。


 わたくしも一度屋敷に戻り、ドレスへと着替えることになった。


 波打つ様なシルバーブロンドは、きっちりアップでまとめ、ルビーとゴールドの髪飾りで留めることにした。お化粧は薄付けで、宝飾品はルビーのイヤリングとネックレスだ。


 ドレスは光沢のあるワイン色で全体に模造宝石が散りばめられ、随所にレースと繊細な刺繍があしらわれている。


「おおお、ウェンディ、とっても美しい。似合っているよ」

「本当に、素敵だわ! 今日の主役はウェンディで間違いないわね!」


 わたくしの着飾った姿に喜ぶ両親を見ていると心が痛む。


 オニオン王太子……ではなくオリオン王太子から婚約破棄され、ダメージを受けるのは、わたくしだけではない。この優しい両親こそが、もっとも辛い気持ちになるのだ。そこは……本当に申し訳なく思う。


(両親のために断罪回避を頑張るべきだったのかしら? ううん、たとえどんなに足掻こうと、断罪からの婚約破棄は避けられないわ。シナリオと設定の強制力が働くだろうから)


 結局。


 ヒロインであるマクドナルト嬢が攻略に選んだのは、オリオン王太子だった。一年生の秋に編入したマクドナルト嬢は、オリオン王太子と度々密談をしている。そして悪役令嬢であるわたくしは乙女ゲームのシナリオ通りの嫌がらせをヒロインに対して行っていた。


(とはいえ、わたくしも暇人ではない)


 王都を追われる未来に備えて動いていたので、全ての嫌がらせを実行したわけではなかった。しかし断罪の場で挙げられるような嫌がらせは全て実行済み。よってシナリオに反しているとはならないはず。


 それに。


 舞踏会の会場には男子生徒のエスコートで入場する。すなわち女生徒の屋敷まで、エスコートを担当する男子生徒が迎えに行くのがセオリー。わたくしとオリオン王太子は婚約しているのだから、当然、彼がわたくしをエスコートするのが普通である。


 ただ、ゲームのシナリオではオリオン王太子がヒロインにロックオンされていたら、彼女を同伴する流れだった。それが分かっているので、わたくしは予め、オリオン王太子には会場で落ち合うことを提案し、それは快諾されている。


 両親も納得する屋敷まで迎えに来ないでいい理由、それは……。


 まず、オリオン王太子が暮らす王宮と学園は目と鼻の先。アメリカーナ公爵邸まで来ると遠回りすることになり、無駄足に近い。さらに生徒会長であり、卒業生代表であるオリオン王太子は、舞踏会の冒頭で挨拶もある。早めに会場入りする必要もあれば、遅刻はできなかった。だがもし私を迎えに来て、夕方の馬車による帰宅ラッシュに巻き込まれたら……。ドレスへの着替えに私の時間がかかり、予定時刻通りに出発できない可能性もある。


 会場で落ち合い、エスコートで入場でも問題はないのだ。よって迎えは結構、としたわけだ。


(ヒロインであるマクドナルト嬢をエスコートしやすいよう、お膳立てしたのよ。そこはこのゲームの世界の見えない力には、評価してもらいたいわよね)


 こうしてわたくしは一人馬車へ乗り込み、王立オリオン学園に到着。会場となる創立記念ホールに着くことができた。


「アメリカーナ公爵令嬢!」


 声に振り返ると、創立記念ホールのエントランスホールには、紫色のドレス姿のチュロ子爵令嬢ほか、わたくしの取り巻きたちがいる。


(砂糖がたっぷりまぶされた揚げたてのchurro(チュロ)は本当に美味しいのよ……ってごめんなさいね、チュロ子爵令嬢。あなたの名前で何度も涎を垂らしそうになってしまったわ……)


 そんな今の胸の内など知らないチュロ子爵令嬢は、笑顔でわたくしに声をかける。


「なんてお美しいのでしょうか、アメリカーナ公爵令嬢! 早く会場へ参りましょう。今、オリオン王太子殿下が、リハーサルされていますのよ」

「リハーサル……?」


 これには首を傾げることになる。


(そんなこと、していましたかしら? あ、でも乙女ゲームで舞台裏なんて描かれませんわよね。リアル乙女ゲームの世界だと、こういう裏舞台が目撃できるのね)


 そんなことを思いながら、舞踏会の会場へ向かうと……。


 ホールには国旗やら学園旗やら生徒会旗やら、沢山の旗に加え、色とりどりの生花とリボンが飾られ、実に華やか。挨拶を述べる人々のためのステージも、楽団の隣に設けられている。そしてそのステージで、まさにオリオン王太子殿下ほか、学園長や理事などがリハーサルをしていた。


 オリオン王太子は、サラサラの金髪に碧眼の、絵に描いたような王子様。細身の長身であるが、そこは文武両道なのだ。然るべき場所に筋肉がついており、間違いなく、腹筋は割れているはず。……見たことはないけれど。そして着やせするタイプなので、パールホワイトという膨張色のテールコートも難なく着こなしている。


(ああ、やっぱりオリオン王太子はわたくしの推しね。本日を以てして彼の婚約者ではなくなるわたくしですが、十二年間、彼の婚約者をつとめることができ、幸せでしたわ……)


 実際、ヒロイン登場以前のオリオン王太子とウェンディはラブラブというわけではないが、普通に仲の良い婚約者同士だった。何せ王太子とその婚約者となれば、幼き日より王太子教育、王太子妃教育を受けることになるのだ。王太子と王太子妃で求められる知識は違う。それでも重なる部分も多い。共に同じ家庭教師から授業を受けることもあった。


 自然と苦楽を共にすることになり、絆は……出来ていたと思う。


(そのせいなのかしらね。ヒロインであるマクドナルト嬢がオリオン王太子をロックオンした後も。彼との関係は特に険悪になることはなかったわ)


 でもそれもこれもここまでの話。卒業式を前にして、オリオン王太子はわたくしがヒロインへ行った嫌がらせの数々を、ゲームのシナリオ通りで聞いているはずなのだ。彼は出来た人物なので、話を鵜呑みにせず、裏をとる。つまりは自身の学友である宰相の息子であるスロー、ちょい悪で校内の情報に詳しい騎士団長の息子であるフィレオ・エヴァン、さらにお金持ちで生徒たちの恋愛事情を始めとした人間関係に詳しい公爵家の嫡男マック・エグバート・マーフィンにも話を聞く。


 ヒロインの攻略対象である三人は、たとえ自身が彼女から選ばれていなくても、いつだって味方なのだ。ゆえにヒロインがいかにわたくしに嫌がらせを受けていたかをオリオン王太子にきっちり話すのだ。


 そうなったらもう、嫌がらせに対する断罪からの婚約破棄の流れしかない。


 さっきまで穏やかな海だったのに。次の瞬間に荒れ狂う海に変わってしまうように。温厚篤実なオリオン王太子は別人のようにわたくしを断罪し、婚約破棄を告げるのだ。


(婚前契約書ではいずれかが名誉を汚す行為があれば、問答無用で婚約破棄ができる……という条項があるのよね。だからこそオリオン王太子はあっさり婚約破棄を宣告する。平民の女性に嫌がらせをするなんて、王太子の婚約者に相応しくない。それどころか王家の顔に泥を塗ったと)


 そんな断罪がこの後、行われるわけだが、今は嵐の前の静けさで、リハーサルが粛々と行われている。そしてこの様子を見守るのは……ステージの袖に当たる部分に、三人の攻略対象とヒロインの姿が見えていた。


(役者は揃っているというわけね)


 オーソドックスな黒のテールコートでそこにいるのは、宰相の息子の頭脳派スロー・エリアス・リングだ。頭も良く真面目な彼はかなり保守派。ブルネットの髪はきっちり七三分けで、肩までの髪はリボンできっちり、後ろで一本に束ねられている。黒縁の眼鏡の奥の黒曜石のような瞳は、真剣そのものでオリオン王太子に注がれていた。


 そのスローの隣にいるのが、マック・エグバート・マーフィン、公爵家の嫡男だ。とにかくお金持ちのマックは、今日の舞踏会にもお金に糸目をつけなかった。模造宝石ではない本物の宝石が散りばめられた濃紺のテールコートは、昭和の歌謡スターのステージ衣装のように華美である。金髪にエメラルドグリーンの瞳と、見た目はハンサムだけど、服のセンスは……残念な感じだった。


 そんなスローのそばにいるのが、ちょい悪な騎士団長の息子のフィレオ・エヴァン。赤毛の髪に合わせ、ワイン色のテールコートを着ているが、シャツのボタンは三つも外し、かなり着崩している。そして騎士団長の息子なだけあり、幼い頃から武術を叩きこまれているのだ。見えている胸筋は間違いなくピクピクと動かせるはず。ゴリマッチョではないが、明らかに鍛えていると分かる。そんなフィレオはしきりと隣にいるヒロイン、マクドナルト嬢に何やら話し掛けていた。


 そしてヒロインのマクドナルト嬢は、ふわふわの羽毛の飾りがついたシュガーピンクのドレスを着ている。まさに愛されヒロインにピッタリのドレス。フィレオの言葉に笑い、さらにマックにも何か言われ、苦笑している。


(……オリオン王太子の心を奪いながらも、他の攻略対象からも変わらず熱い視線を集めている。ヒロインって役得よね。それに対して悪役令嬢は……)


 まさにこの時、ヒロインはスポットライトの下にいて、わたくしは……その周囲の影の中に佇んでいる状態だった。



お読みくださり、ありがとうございます!

展開早っ!

あっという間に断罪の舞台の場へ=3

ブックマークで引き続きお楽しみください~

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