タイトル未定2025/10/02 10:10
例えば朝の横断歩道を渡った先にある、格式あるビルが、突如信号が赤に染まった途端に、その二十二階から最上階までのガラスが割れ、まるで雨のように降りしきるガラス片が、ちょうど到着した特殊部隊の車の上に落ちたら、私たちはきっと思うであろう――ああ、また異界妖魔が現れたのだと。
思わない? だとしても由緒正しき日本の特殊部隊はビルへ突入するのでした。
つまり二十二階からである。エレベーターおよび階段をのぼった先にある光景は石の道を松明が照らす、暗闇の迷路。慎重な足音が硬く響き、反響する。
「ああ、暗いの怖い!」
「おい。静かにしろ、いたぞ」
ギューギュー。カサカサ。暗闇の奥にそれはそれは生理的に無理な物音がするものだ。特殊部隊十二名はただちに自動小銃でそれを捕らえる。
赤い点の真ん中に大きな目があった――すでにそれは目の前まで来ていたようだ。
青いの斑点と透明な体、その中を泳ぐ鮮やかな脳。そして自由自在の流動的な七足歩行、2メートル近くの全長。スライムである。そのしなる足さばきは、気づけば特殊部隊を二名殺めていた。
「弾がすり抜ける! 効かない!」
「狼狽えるな! スライムにはこれだろ!」
隊長らしき一名は何か小さいものをぶん投げた。轟音と共にベタベタした液が飛び散った。
してスライムは桃色の脳が地べたに。液がだんだんとそこへ蟻のように寄っていくが、その前に部隊はそれを蜂の巣にした。
「よし、先に進むぞ」
このように特殊部隊は敵を倒しながらラビリンス・フィールドを進んでいくのである。その奥、階段をのぼりのぼった最上階にいる――牛頭三メートル、血管浮かび上がる灰色の胴体、それと突き刺し切り去るハルバート――
「キタカ。シマツスル」
――ボス、異界妖魔を倒し、日本を守る為に。
その後、三十時間経ったが、未だ、ビルの下の特殊部隊はざわついていた。
二千二十五年。ときたま日本のテレビにはビルを囲む警察などの中継が流れる。出勤するサラリーマン、学校へ向かう女子高校生、中学生。その前で女子アナが慌てた様子で伝えていた。
「○○××地区、△□ビルに入った強盗は未だ、社員を人質にしたまま出てきません。警察が交渉をしているようですが……」
朝の食卓にはよく、塩鮭と味噌汁、白米に納豆。あとそのようなテレビの声が流れるものである。そしてエプロン姿の妹は兄のコップに牛乳を注ぐと決まって、こう言うのだ。
「物騒だねぇ。最近、こういうのばっかり」
「ふーん」
兄はまるで興味がなく、味噌汁を啜るのでした。
そんなのはどこにでもある光景。兄はどこにでもいる男子高校生なのだから、無論、そうだ。しかしこのお兄さん、たまに味噌汁の代わりに口を零す。
「また、ラビリンスか」
彼は適当に支度を済ませ、同じく可愛らしい制服姿の妹にネクタイを締めてもらうと、404号室の上に宮浦と看板かかったマンションのドアを開いて、学校へ向かうのだった。