第四話 君は今
キーワード:中世風 騎士 忠誠 悲恋
彼女はとても強い人だ。
貴族の娘でありながら騎士を目指し、周囲の反対を押し切り、実家と縁を切って、本当に騎士になった。
その美しい顔に傷を作り、その美しい手に肉刺を作り、とても頑張っていた。
俺は、そんな彼女を目映い光のように思っていた。
その彼女は今、俺の目の前で眠っている。
右腕を失くし、胸から腹にかけてを大きく切り裂かれ、口からは血を流し。
宝石のように輝いていた瞳は光を失くして。
「シェリファーナ」
俺の声に応えない。
彼女の左腕には折れた剣。
国王が彼女に贈ったものだ。
戦場で、折れた剣を抱えたシェリファーナは沢山の屍の中の一つになった。
それでも。
それでも彼女は誰よりも強くて美しい人だった。
手の届かない、最愛の人。
*****
「私ね、騎士になりたいの」
両親と激しい言い争いをしたという彼女は、家を飛び出して夜中に俺の家に来た。
俺の家は王城のすぐそばで、彼女の家からは徒歩で15分くらい。
彼女は何かある度に俺を訪れ、一通り愚痴って少し泣き、そして訓練をして帰っていく。
初めてあった時に、変わった娘だと思った。
幼いながらにも目を見張る美貌、そして早くも王太子の妃候補にも上がるほどの上位の貴族の娘でありながら、騎士の訓練場を訪れて、ただただじっと訓練の風景を見ていた。
同じく訓練を見ている俺の横で、飽きることなく。
ずいぶんと探したらしい彼女の従者が連れ帰るまで、ずっと。
「だから、明日、城で行われる入隊試験に受けようと思う」
彼女はきっと騎士になるだろう。俺と共に学び、その実力は嫌というほどわかっている。
そして実際に騎士になった。
一時期は俺の部下としても働き、目覚ましい成長を遂げて。
時には大けがを負い、しばらく医務室で入院生活も送っていた。その間に、俺は一度だけ見舞いに行った。
白い寝台の上で、痛々しい姿でありながら、訪れた俺を嬉しそうに迎える。その彼女に思わず疑問をぶつけてしまう。
「なぜそこまでして騎士であり続けようとするんだ?」
このときの彼女は20歳を超えて、貴族の娘としては完全に結婚の適齢期を外れていた。
「私ね、ハイン様が好きなの」
この国の、かつての王太子。
今は王になり、その横には美しい王妃が寄り添う。
「叶わないのはわかってる。だから、ハイン様のためにこの命を捧げたいの」
王は王妃を心の底から愛している。側室は持たない、と婚礼の際に宣言していた。
かつて、妃候補にまで上がっていた美貌と地位を持った貴族の娘は、地位を捨て、美貌に傷を作りながら、他人の命を奪う代わりに最愛の者の役に立つ道を選んだ。
茨の道だ。
この命を捧げたいの。
彼女が言った言葉は本心だろう。本当に、その命すら捧げてしまう。戦場で、自らが奪った命と同じように、誰かに奪われてしまう。
それが本望なのだと。
彼女はそう言っている。
静かな決意を秘めた瞳を前に俺はただ、そうか、とだけ相槌を打った。
*****
彼女の葬儀は壮大に行われた。
王は終始表情を変えることなく、冷静な目でそれを見ていた。俺は、その斜め後ろで運ばれていく彼女を見送った。
「……逝ってしまった」
その夜、俺を私室に呼んだ王は顔を見るなりそう呟いた。
「……幼き頃より共に育った者たちは皆、私を置いていく」
アルコールに弱い、若き王は珍しく酒を口にしている。
豪華な装飾、高価な家具、広く美しい、王にふさわしい室内。その中にいる王は孤独に見えた。
「お前もいづれ私を置いて逝くのだろう」
「……私は王に忠誠を誓っております故、必要とあらばこの命も捧げます」
「……もう、私とお前だけしかいない」
王は呟き、静かに涙をこぼした。
王を含めて、幼馴染と呼べる者は六人居た。そのうち、二人は戦場で死に、一人は暗殺、シェリファーナは、王の信頼を得たことを疎ましく思う仲間の刃に倒れた。
皆、王に忠誠を誓っている。だからこそ、死期を早めたと、王はそう思っている。けれど、誰もそれを後悔はしていない。
「なんで、騎士になった。……シェリファーナ、なぜ……」
嗚咽のような呟きに俺は目を伏せた。
シェリファーナ。
名前を呼ぶ。
お前が王の騎士であるように、俺もまた、王の騎士だ。
目の前で涙を流す若き王。
この心優しき王の剣であり、盾でありたい。
お前が思った事を俺も同じように思った。
俺の人生は王に捧げよう。
俺の心も王に捧げよう。
いつか、俺が役目を終える時、もう一度お前に会えるのなら。
愛してる。
この想いだけはお前のものだ。
シェリファーナ。
お前は今、どこにいるだろう?
……。
色々と矛盾とか、微妙なところとか沢山ありますが、あえてこのまま掲載します。
そのうち手直しできればと。
しかも第一話と話がかぶってる気がしてしょうがない。
もうちょっと私のレベルが上がったら修正したいです。