害悪スキル【動画広告】が実は無法性能だった件
俺は大地に膝をつく。
目の前に立つ不死王アザラードが高笑いを響かせていた。
「フハハハハハハ! 勇者よ、貴様の力はこの程度かッ!」
「ぐっ……」
俺は悔しさに歯を食い縛る。
しかしここまでの激戦で互いの実力差は認識していた。
今のままでは、絶対に敵わない。
アザラードが両手に極大の魔力を集め始める。
「貴様を冥府に送ってやろう。これで終わりだァッ!」
放たれたのは最大火力の青炎だった。
俺は死を予感する。
しかしそれを覆したのは、脳内で鳴った電子音だった。
視界を埋め尽くす広告のうち一つが消え、メッセージがポップアップされる。
[30秒の広告を視聴しました]
[特典【10秒間被ダメージ0】を獲得しました!]
青炎が炸裂して全身を包み込む。
しかし俺は無傷だった。
俺は青炎の残滓を振り払って立ち上がる。
予想外の光景にアザラードが驚愕した。
「な、何だと……?」
「待たせたな。ここからは俺のターンだ」
俺は駆け出した。
アザラードが魔術を連発し、そのすべてが俺に直撃する。
本来なら即死クラスのダメージだが通用しない。
今の俺は広告の特典が適用された状態だからだ。
異世界召喚の際に得たスキル【動画広告】は、劣悪な使い勝手を上回る効果を有している。
選択した動画を観ることで、秒数に応じたボーナスを獲得できるのだ。
途中で中断できず、その間は視界の一部が常にクソ広告で埋まることになる。
正直、非常に鬱陶しい。
それでも俺は常に大量の広告を回し続けることで、なるべくボーナスの恩恵を得られるようにしていた。
強引な突進で距離を詰めた俺は、アザラードの前で拳を握り締める。
振りかぶったその瞬間、メッセージが表示された。
[60秒の広告を視聴しました]
[特典【1分間与ダメージ10倍】を獲得しました!]
アザラードの腹に拳が炸裂する。
凄まじい衝撃にアザラードの顔が歪んだ。
「ゴハァ……ッ!?」
「まだいくぞ!」
俺は全力のラッシュをアザラードに叩き込む。
その間に新たなメッセージがポップアップされた。
[100秒の広告を視聴しました]
[特典【3分間魔力無限】を獲得しました!]
最高のタイミングだった。
俺は至近距離からありったけの魔術をアザラードに浴びせる。
そのまま削り切ろうと考えた矢先、俺の両腕が切断された。
「えっ……」
アザラードが霊剣が構えていた。
殴られながらも対策を講じていたようだ。
激昂するアザラードが斬りかかってくる。
「自惚れるなよ、青二才がッ!」
攻防が逆転し、俺は一方的に切り刻まれた。
魔術も駆使してガードするも、瞬く間に血だらけになる。
ダメージ0の特典はもう時間切れになっていた。
再発動まで耐えるのは厳しそうだ。
[600秒の広告を視聴しました]
[特典【5分間超速再生】を獲得しました!]
新たなボーナスにより、霊剣で負った傷が一瞬で治った。
舌打ちしたアザラードが追撃を浴びせてくるも、斬られた端から傷が塞がるので意味がない。
俺は安堵して息を吐く。
「ふう、ギリギリ間に合った……」
魔術の高速移動で霊剣の間合いから離れる。
その際、また一つ広告が終了した。
[1000秒の広告を視聴しました]
[特典【1分間分身可能】を獲得しました!]
俺の姿がぶれて増えていく。
あっという間に数十人の俺がアザラードを包囲する構図となった。
アザラードは狼狽しながら怒鳴る。
「なんだその能力は……反則ではないかッ!」
「悪かったな。こっちはチートガン積みなんだよ」
数十人の俺がアザラードを見て笑う。
その時、ダメ押しのチート特典が発生した。
[1000000秒の広告を視聴しました]
[特典【100秒間全ステータスMAX】を獲得しました!]
全身から無尽蔵の力が湧いてくる。
これで勝利が決定的となった。
逆転を諦めたアザラードが逃げようとしたので、俺達は手をかざしてスキルを発動する。
「そうはさせるか」
無数の広告動画がアザラードの視界と思考を埋め尽くす。
アザラードは立ち止まって苦しげに唸る。
「うっ、何も見えん! 下賤な情報ばかりが目に入る……!」
「クソ広告のプレゼントだ。最後まで動画を観ればお前は全世界最強の存在になれるが、どれも百万年はかかる仕様だ」
「百万年もこれを観ていなければならぬのかッ!?」
「安心しろよ。お前は一秒後に死ぬ」
全方位からステータスMAXの魔術が放出される。
中心にいたアザラードは断末魔すら上げられずに蒸発した。
塵一つ残さずに消滅したので復活は不可能だろう。
分身が消えて俺は一人になる。
視界の端では、今回使わなかったクソ広告の山が重なって表示されている。
「……もっとマシなチートスキルがよかったな」
ぼやく俺をよそに、クソ広告は元気に稼働していた。