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第6話 過去と未来③




少し前。


べオは苦しんでいた。


回復魔法が発動できない。

何度唱えても魔力が霧散してしまう。


「ぐっ…!

『偉大なる南の女神よ。


どうか其の水瓶をもって


生けるもの全てを包み給え。


ヒーリング・ランク1…』!」


シュウウと音を立て、魔力は宙に消えていった。


「くそっ!何で…なんで、できないんだよ!

くそっ!くそっ!ちくしょう…!」


ペレオディナの喉の矢は抜いていない。

べオは直感で抜かないことを選択した。

事実、抜けばペレオディナは出血ですぐさま死んでいただろう。


だが矢を伝って、血はゆっくりと滴る。

もう時間がないことはペレオディナが一番知っていた。


(…このまま死んだら、ペレオディナ(わたし)は役立たずの私のまま。

せめて、べオ君に何か遺して…。)


ペレオディナはべオの手を握る。

赤い光が、べオの緑の光と混ざった。


(魔力だ。私の魔力があれば、べオ君はこれからも、戦いから生き延びれる…。

せめて…これだけは…。)


ペレオディナはゆっくりと命の火が消えるのを感じる。


そして流し込まれた魔力を感じ、べオは気付いた。


(これだ…!魔力の方向…、僕はこれを理解してなかった!)


べオはペレオディナの喉に手を当てる。


力が満ちるのを感じる。


「神よ、僕の声を聴いてください…。

癒せ!ヒーリングランク2!」


暖かな気を纏う光がペレオディナを包んだ。


のどに刺さっていた矢が風化し、塵となって風に飛ばされる。


喉を伝う血も、乾いて消えた。


「ゴホッ!何を…して…?」


ペレオディナは驚く。

自分の体に痛みはおろか、傷の一つもなくなっていたからだ。


「すごい…。こんな回復魔法を使えるのは回復院の司教ぐらいなのに…。

ありがとう、べオ君…、べオ君!」


横を向くとべオが倒れている。


苦しそうに呼吸をしており、体に植物の蔦のような紋ができていた。


「これは魔力紋!?ありえない!

魔力の使い過ぎでしか出ないはずなのに、べオ君のどこにそんな魔力が!?

とりあえず診ないと………あ」


べオの帽子が落ち、魔族の角があらわになる。

黒曜石のように黒く光る角を見て、ペレオディナは硬直した。


彼女は魔族を見たことがない。

16歳になるまで内地で暮らし、城壁の外にも出たことがなかった。


(父さんと母さんからよく聞いた。

魔族は冷徹な鬼だ、と。

でもべオ君は助けてくれた。どうして…?)


彼女は混乱する。

だがその間もべオは、苦しそうに息を吐くばかりだ。


「…!」


パアン!


ペレオディナは自分で自分の頬を叩く。


(何を考えているの、私!

恩には恩で報いる、それが私のやり方でしょう!

怯えるなペレオディナ!前を向けペレオディナ!)


「魔力が溢れている…。

このままじゃ駄目ですね…。

やっぱり…これしかないわ。」


額に額を当てる。

だいたい、45度あたりだろうか。


「聞こえてますか?

少し苦しいかもですけど、我慢してくださいね。

私も、覚悟決めますから…!」



一説によれば、魔力が一番集まるのは脳といわれている。

このブラックボックスはどんな凄腕であろうと、

開けてはならぬ禁忌として扱われてきた。


(脳の魔力を、受け止める形にして…。)


彼女は、禁忌を犯そうとしていた。


「行きます…!

ーーー魔力吸収!

繋ぎ合わせて、受ける…!」


恐ろしい数の魔力が彼女の脳内にあふれる。

下手すると、一生廃人になってもおかしくないだろう。


「んぐうう…!」


爪から血が溢れ、血涙が頬を伝う。


(駄目だ!まだ止めるな…!

足りない、せめてあと半分…!)


無意識に歯を食いしばる。


血と涎と粉々になった歯が口から垂れて落ちた。




ーーそれから何分経っただろう。

周囲の草は血で染まり、その中心に1人の人間が倒れている。

だが、意識はまだ消えていない。


「ーーーーーまだです、次はインディゴ様のところへ…」


遠くで獣の叫び声が聞こえる。


「ペレオディナさん!

大丈夫ですか!?

いったい何が起こったんですか?!」


「ああ…良かった、目が覚めたのですね…。

私を背負ってくれませんか?インディゴ様のもとへ向かわなければ…!」


「…わかりました!

ですが、せめて回復を…。」


「移動しながらでお願いします!

早く向かわなければ…あの鳴き声は地獄の悪魔の…。」


べオはペレオディナを背負って駆けだす。


回復魔法をかけながらべオは考えを巡らせていた。


(僕が気絶してる間にいったい何が?

状況からみて、ペレオディナさんに助けられたのか?

いや、それより早く師匠の下へ…!)


林の向こう側から、戦いの音がする。


「べオ君、手を…!

私が撃つから、サポートをお願いします!」


「はい!」


林を抜ける。

そこではちょうど、異獣の影の一撃が、背後からインディゴに迫ろうとしていた。


「火の神ダレイオスよ…汝の火花、借り受ける!

炎魔法ファイヤーボール!」


「うおおおおおおお!」


異獣の影に狙いを定め、発射する。


放った一撃は、完璧に獣をとらえた。


インディゴが振り返る。


べオは叫んだ。


「師匠、やりました!」


インディゴは笑みを零す。


「ああ!よくやったぞ!」


異獣の影が立ち上がった。


「ぐううううううううううううう!!

oooooooowaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


この世のものではない叫び声が響き渡る。


異獣の影に、異変が起きていた。








































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