第5話 過去と未来②
グレースは2本の金の刀「ツヴァイシャード」を抜き放ち、若者に接近する。
「一応名乗ろうか。私は「銀光」のグレース。
12騎士団9番席を務めている。
名乗りなさい、倒す前に名前は知っておきたい。」
「五月蠅いな…。僕の名前はイジュウだ。
あと倒されるのはそっちだから…。」
「そうか、では行くぞ!」
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一方、インディゴは老人と相対していた。
(グレースあの野郎…私に厄介そうなのを押し付けやがって…、
気配がしないのも不気味だ…先手を打たんと…)
「お初にお目にかかります、インディゴ様。
儂の名は、嘴掌の影。暗殺の依頼をされて殺しに来ました。
儂は70年、暗殺家業を営んでおりますが、あなたほどの手練れは初めて。
どうか、おとなしく殺されてくれませんか?」
「はっ!死ねといわれて死ぬ馬鹿がどこにいる!
かかってこい、臆病者!」
罵倒を放って、インディゴは己を鼓舞する。
そして瞬時にサーベルを生み出し、構えをとる。
だが、その時すでに”それ”は来ていた。
指先を纏め、全身を尖らせ放つ暗殺の基本の技。
「嘴掌の一撃」!
インディゴは即座にサーベルで軌道をそらす。
そのまま嘴掌の影の肩に触れ、詠唱する。
「ここに我は軌跡を刻む…!
発動せよ!運命魔法…『鳥兜』!」
「ヌゥッ!」
嘴掌の影は刀身を蹴り、インディゴから距離をとる。
だがすでにインディゴの魔法は発動していた。
嘴掌の影は異変に気付く。
体のバランスが取れない…!
指先がしびれ、足の感覚が消えてゆく。
「まさか…毒か!だがこんな即効性の毒などあり得るはずが…。」
地面に倒れる。涎が口を伝って落ちていくのが分かる。
だが体は反応しない。
「私の勝ちだ、危ない…。
サーベルで逸らしてなおこの威力とはな。」
インディゴの右肩が垂れ下がっている。
脱臼しているようだ。
「~~ヒーリングランク1」
傷が治る。
「さて、では拘束するか。痛いが我慢しろよ。」
「・・・・・ぃ・・・!」
「あ、何て?」
「…来い、異獣の影!」
その時、木をぶち破って、若者が飛び出る。
だがその左腕は巨大な口になっており、顔全体が真っ赤に血で染まっていた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
巨大な口が叫ぶ。
若者の体はその口に引っ張られるようにして木々を跳ね回っていた。
「何をやってんだ!!グレース!」
インディゴは叫び、サーベルを構え向き直った。
少し前に戻る…。
グレースは若者を追い詰めていた。
『ツヴァイシャード』を構え、グレースは両足を潰した若者に向き直る。
「これで終わりだ。言え、お前たちはだれに依頼をされた?
答えろ、さもないと…」
ここでグレースは若者が呟いてることに気付く。
「…そうだ…。…やらないと。…僕がやらないと!」
そう叫び、若者は自分の左腕に嚙みつく。
そうして皮を嚙み千切り、血を自分の顔に塗りたくった。
「現れ給え!導き給え!血の神オルトロス!」
左腕が変形していく。
捻じれ、曲がり、無の空間から現れた肉の塊に飲みこまれてゆく。
その異常な光景にグレースは唖然としていたが、
我に返り、少年の首元を狙う。
「秘儀!『残光琉…!」
「グアアアアアアアアアアアアアア!!」
少年の左手が襲い掛かる。
「ぬぅおおおおお!!」
何とかガードはできたが、衝撃は殺せず
グレースは森の奥に吹っ飛ばされた。
見えなくなったグレースのことなど気にかけず
獣は、最も力がある者へと駆け出す。
そして現在…。
インディゴは血を吐いていた。
だが獣は油断せずに周囲を跳ねる。
(くそ、この野郎すばしっこいうえに隙がない…!
かくなる上はいっそ自爆も…いや、だめだ!
この体は人間であり、そんなことをしたら粉々になる!)
「チッ…めんどくさい…。」
焦っているのは嘴掌の影も同じであった。
異獣の影は、己の体を贄として悪魔の肉を呼ぶ。
だが、その肉塊に脳を食われたら悪魔の依り代となってしまう。
(頼む…、早く決着を…!)
命懸けなのは、異獣の影も同じであった。
決着の瞬間は訪れる。
異獣の影が跳躍をやめ、インディゴに突撃する。
(ここだッ!)
両腕を前に構え、インディゴは詠唱を高速で行う。
「黄泉選る道…!ここに渡ろう…!
開け…!運命魔法「輪廻転生・呪禍」!」
インディゴは気付く。
これは罠だと。
運命魔法が発動するその瞬間、異獣の影は背後に降り立った。
巨大な口を開け、異獣の影の左手が迫る。
(だめだ…!間に合わん…!)
インディゴが自爆しようとした刹那
「ぎゃああああああああ!!」
異獣の影が炎に包まれた。
異獣の影は、血で炎を消すために顔を掻き毟り、転がる。
「師匠!」
インディゴが声のした方向を向くと、
そこには手を掲げ、ペレオディナを背負い、手を握るべオがいた。