第4話 過去と未来①
がたんごとんと揺れる馬車の中。
魔王インディゴ、べオと向かい合って
銀光のグレース、補佐官ペレオディナが座っている。
ペレオディナは眼鏡をかけた知的な女性だ。
分厚い本に走り書きをしている。達筆だな。
インディゴは頬杖をつき、外を見ていた。
空気が重い…。べオは隅に縮こまろうとする。
「…さて、インディゴ。」
グレースが口を開く。
だが次の言葉よりも早くインディゴが呟いた。
「この国も変わったな。私の知るこの国、
エルドラド皇国は貴族の悪意で満ちた地獄だった。
国民もみな飢えて不毛の土地が延々と続く、
どこにも救いなどなかっただろう。
だが…見ろべオ。」
インディゴがカーテンを開く。
べオも窓を覗く。
風が吹き、窓の外を葉が舞う。
そこには一面の麦が実っていた。
ところどころに見える農家たちは皆、満足した顔をしている。
「皆幸せそうだ…。
グレースとやらよ、…この国は満ちているな。」
その光景を見つめるインディゴの顔はどこか寂しそうだった。
「はい。まさにそのことで話があります。」
インディゴもべオも振り向く。
2人を見つめるグレースの顔は真剣だった。
「私はアッシュ皇帝陛下よりインディゴ様を連れてくるように命じられました。
何故ならば…この国は今薄氷の上に立っており、いつ落ちるかもわかりません。
…今から言うことは他言無用でお願いします。」
そういうとグレースは背中の剣に手をかけた。
「…心配するな、グレースよ。アッシュも私を殺した男だ。
私以外に殺されることは許さん。」
インディゴは声色一つ変えずに言った。
そして、グレースは言い切る。
「…第2皇子ガーベラ様が、反乱を起こそうとしています。」
「なんだ、その程度か。反乱ぐらい未然に防げるだろ。」
「いえ…それが…魔王軍残党と手を組んでいるのです。」
「……。……誰だ。」
「恐れながら。」
補佐官が手を挙げる。
「もうせ。」
「反乱軍の6割がインディゴ軍の残党です。
具体的に言いますと
赫王竜ジャビク、鳥籠の魔女アリス、蟲魔レーシュ
この3体が率いております。
更に、暗黒騎士ドラウも発見されたのですが、
今は消息不明で…。」
「いや、そこまででいい。
出てこい、ドラウ。」
インディゴが床に向かって言う。
次の瞬間、床の影から黒い騎士が這い出てきた。
「インディゴ様…。
お会いしとうございました…。
このドラウ、50年頑張りましたぞ…。」
ドラウはインディゴの足元にひざまずいた。
その重さで馬車が傾く。
「何者だ?こっちは皇帝陛下の命でここにいる。
邪魔をするなら斬るが。」
「まあ、そう殺気立つなかれ。
吾輩はドラウ。インディゴ軍第1連隊長でございます。
以後お見置知りを…。」
立ち上がったドラウも2m近くある。
巨漢二人の睨み合いで、馬車の床はぎしぎしと音を立てていた。
「旦那ぁ!何が起こってるんで?!馬たちが怯えてまさあ!」
御者の悲鳴が聞こえる。
「ドラウ、命をやる。
第2皇子ガーベラの身辺を調査せよ。」
「ははぁ!!このドラウ、それを待っておりました!」
そう叫ぶとドラウは一瞬で影の中に潜って消えた。
「インディゴ様、何なのですか?奴は…。」
「悪い奴ではない。ないが…まあ癖の強い奴だ。
だが、それ以上に影の中を潜る能力が希少なのでな。
重用していた。」
「なるほど…。魔族ならではの使い方ですね。」
「あの…ペレ…さん、陰に潜るのが希少って言うのはどう言うことなんですか?」
「ペレオディナです。」
「あぁ!そういやべオに魔法について全然教えてやれなかった!
ちょっと頼むぞ!ペレデデナくん!」
「ペレオディナです!
はあ…いい?べオ君。
魔法は3種類に分けられるわ。
火、水、土、風の基礎魔法。回復魔法も入るわね。
そこから派生した雷、泥、氷などの上級魔法。
そして…生まれながらにしか使えない超常魔法。
影魔法もここに入るわ。
ちなみに魔術は、魔法特攻な銀などを操ることもできるの。
だから魔族狩りに魔術はよく使われてたってわけ。」
「なるほど~。今はそんなに詳しくなってるのか~。
て事は私の運命魔法も超常に分類されるのか?」
「…運命魔法?何ですか!その魔法は!
聞いたことがありません!
教えてください!今すぐぅっ!?」
ドンッッ!
馬車が揺れる。
横殴りに衝撃を受け、馬車は横転した。
「きゃあああ!?」
「ぬぎゃああああ!!!べオ、どこじゃあああ!」
「ここです、師匠!潰れます!!押さないでください!」
「ちょっと全員静かにねぇ。…よいしょっと。」
グレースが馬車を持ち上げる。
べオとインディゴは無事だったが、
ペレオディナの足に木材が刺さっていた。
べオは見渡して気付く。
護衛の騎士たちは、みな殺されて坂に横たわっていた。
「ぐっ…うぅ…私にかまわないでください!
襲撃されたから早く逃げて救援を…!」
ドスッ
ペレオディナの喉に矢が刺さる。
「まずは1人…やったよ。
爺ちゃん。」
「うむ、よくやったぞ。」
坂の上に2人立っている。
少年はクロスボウを持ち、老人は素手だった。
「さて、貴様らが何者かは知らぬ。
わしらは依頼されたから殺すだけであり、
貴様らはただ、憎まれた不運を恨め。」
グレースとインディゴが2人の前に立ちふさがる。
「べオ!ペレデデナを治療しろ!
お前は詠唱を聞いたはずだ!
お前ならできる!」
「べオ君…ぺーちゃんの事、任せたよ。」
ペレオディナは何かを言おうとしたが、血を吐くだけであった。