第2章第13話 炉辺談話
ドワーフの隠れ家の洞窟は外からは想像も出来ぬほどに広かった。
深く奥にある小さな扉を潜ると、そこには飯屋が出来ていた。
どうやらフジは常連らしい。店員に奥の個室に通される。
「いらっしゃいフジさん、何が必要だい?」
「二ガルナイワの串焼き。こいつにも同じものを」
りょうか~い、と言って人間のウェイターは足早に厨房へ走っていった。
顎で促され席に着く。
ついてこいと言われたときには、何をされるのかと恐怖した。
目の前のフジは背もたれに体重を預けて、目を閉じている。
「師匠は言っていました。あなたを信じたい、と。
貴方は一体何を企んでいるんですか、ミヤトムラさん」
僕は一番の疑問をフジに問う。
竜骨の杖は大きすぎて隠すことが出来ないので、部屋に置いてきた。
一応その分懐には短剣を忍ばせている。
師匠の教えの一つ、常に何かがあると思え。
柄頭を掌底で押さえながら、水を口に運ぶ。
「そう警戒するな…と言うのは無茶か。
…お前はかつての幼いインディゴに似ているな。
小さい頃のあいつは、ただ一人の家族を守るために、
飢えながらも全てを拒絶する獣となっていた、それを見かねてな」
フジは懐かしむように虚空を見つめ、懐から紙を取り出した。
その紙には拙い線で描かれた3人が笑っている。
紅い髪、銀の髪、そしてフジと同じ黒色の髪。
子どもが描いた絵だろうか、暖かな雰囲気だ。
「あいつは幼き頃、魔王の力を受け取った。
そして力の全てをスカーレットを守るために使い、いつしか魔王と呼ばれるに至った。
あいつが魔王と呼ばれるになる少し前まで、私たち3人は一緒に暮らしていたんだ。
インディゴがスカーレットを攫おうとした男を半殺しにしていてな、
殺し方が見るに堪えなかったから私が引き取って世話をした。
見ろ、この腕の傷はインディゴの噛み跡だ、今のあいつから想像できるか?」
フジはそう言って袖をまくったが、そこに傷は見られない。
しかし、彼女は愛おしそうに自分の腕を触っている。
「まるで、家族のような…」不意に口から零れ出る。
「家族、か?そうか私とインディゴ、スカーレットがか。
はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!
あまり勘違いするなよ、私が2人を引き取ったのは打算ゆえだ。
我がミヤトムラ家代々の剣技を引き継げるものがいなかったからあの2人に学ばせるつもりだったのだ。しかし、2人にはまんまと逃げられた。少し目を離したすきに、影も形もなくもぬけの殻。
それから何十数年後にいきなりインディゴがやってきて配下になれと言ってきた。
驚いたぞ。あの子供の面影は何処に行ったのか、冷酷な一人の魔王になっていた。
私は忠誠を誓った、もう老いさばらえて剣すら振れぬ有様だったからな。
いまにして思えば死ぬのが怖かった、結局何もできなかったのかと。私は人生に意義が欲しかったのだ。
あいつの部下になってからは見込みのある魔族に剣を教えたり、懐刀として暗躍したり、まあ悪くはなかった。しかし…」
言葉を切り、彼女は目尻を拭う。
お待たせいたしました、と、ここで料理が運ばれてきた。
…岩?岩が串に刺さっている、これはどうやって食うんだ?
戸惑うべオを他所にフジは4皿5皿と口に運んでいく。
否。10、20…食べる量は衰えることを知らない。
「…さて、どこまで話したんだったか」
もはや積み重なった皿だけで壁が作れるほど。
行きかけに軽食を口にしただけのほどの優美さでフジはさっと口を拭く。ざっと40皿以上は食べているだろう。
店員が次から次へと皿を片付けに部屋を出入りしていた。お疲れ様です。
「ああ、身の上話が過ぎたな。
私が伝えたかったのは、今カイニを襲うやつらの正体。
お前やインディゴにも絡む話になるのだが…
があん!があん!があん!
洞窟中に警報の鐘が響く。
それを聞くなりフジは洞窟の入口へ駆けていった。
ーーー僕も行かないとっ!




