第2章第12話 束の間の休憩②
「あんたが姫様の言っていた野郎か。」
翌日、べオが指定された場所へ赴くと、粗末な岩屋があった。
そこでは肌を黒く焦がした美青年が刀を打っていた。
べオには一瞥もくれず、ただ一心に打ち続ける。
研ぎ澄まされた集中を穿つことなど出来るはずもない。
「話は聞いた。姫様を護衛して、ここまで導いてくれらしいな。
その事は素直に感謝する。しかしだ」
青年は刀に水を打ちかけ、べオに向き合う。
「それとこれとは別物だ。
お前が俺の気に入る奴でなくば、打ってなどやるものか。
さあ、示してみろよ」
青年はべオの手に小振りな剣を投げた。
その光沢は今まで見たどの剣よりもはるかに美しかった。
「どの剣よりも美しいだ?はっ、それはやめろ。
お前が戦いだしてから一年もたっていない。
体を見ればすぐにわかる、そんなお子様に褒められたって錆が付くだけだ。
本当に戦いたいのならぁっ!その剣を持って俺にかかってこいっ!」
青年はナイフを逆手にして構えを取る。
「僕、何もしゃべっていないんだけど。
流石はエシュタリエさんお墨付きと言う事か…」
べオは、インディゴと同じように両手持ちで斜めに構える。
間合いを確認し、いつでもカウンターを取れるようにする。
ヒュッ
気が付けば首元にはナイフが突き付けられている。
「くっ!」
一歩後ろに下がり、青年の脇腹に向けて一撃を放つ。
しかし青年は高く跳躍して避け、天井を蹴って攻撃してきた。
更に一歩下がろうとするが、そこには壁があった。
まずい、体勢が…!
もう一度、喉元前にナイフが置かれる。
「…チェックメイトだ。詰めが甘いな」
「はい…おっしゃる通りです…」
「まあ筋は悪くない。お前の近くには剣の達人でもいたんだろうな、
基本の構えは悪くなかった、あとは戦闘中いかに冷静になれるか、だな。
いいぜ、お前を認めてやる」
青年はべオの手を取って立ち上がらせた。
「俺の名前はヴィトラリー。
鍛冶師シグナと戦士オーエンの血を引く者。お前は?」
「べオと言います。師匠であるインディゴ様の弟子として旅をしています」
「インディゴ?魔王の名前を付けられているたあ可哀そうな奴だな。まあいい、ついてこい」
…そうか。ほとんどの人に取ってインディゴ様は既に死んだ存在なのか…
それを考えると不思議な気持ちになる。
これは何と言うのだろうか、まあ今は気にしている時ではないだろう。
何故なら岩屋の中から恐ろしいほどの騒音が聞こえているからだ。
ぎゃああああ、助けてーーーーー!!!!!!
そんな悲鳴が飛び交っている。
しかしその声が人間ではないのはべオにも分かった。
「うっし、これとかどうだ?」
そう言ってヴィトラリーは岩屋からひょこっと出てきた。
その全身は赤い液体塗れで、謎の肉がこびりついている。
「あの…その汚れは一体何ですか…?」
「ん?ああこれか。
思いのままに武器を作っていると、武器に意思が宿って魔物になりかけることがよくあってな。
だから普段は肉を削いで拘束しておいて、武器を作る時に殺して魔晶石としてはめ込むんだ。
それで武器と魔晶石の組み合わせの研究をやっているんだ。楽しいぞ。
そら、これだな」
そう言ってヴィトラリーはべオに杖を手渡した。
その杖は灰白色でかなり長く、しかしその割には随分と軽かった。
先端には赤い魔晶石が嵌めこまれており、ぎらぎらと輝いている。
「竜の骨の杖だ。先端の魔晶石は夢魔を割って取り出したもので、
基礎魔法だけではなく霧とかの上級魔法、相手を魅了状態にする超常魔法を使うことが出来るぞ。
ほら試しにそこら辺に向かって撃ってみろーーー
ヴィトラリーがそう言って杖を持った瞬間、ピンクの光が爆ぜた。
べオもヴィトラリーも壁際に吹き飛ばされる。
「うわあっ!一体何が!?」
「う…」
反対の壁際でヴィトラリーが起き上がる。
「ヴィトラリーさん!良かった怪我は無さそうですね…」
がっ!
「え?何で肩を掴むんですか?」
「すまないべオ…俺は君を勘違いしていたようだ。
まさかここまで積極的だとは…その覚悟に敬意を表して相手をさせてもらおう…」
べオは押し倒され、ヴィトラリーが上に乗る。
「いやっ、これはまさかっ!?」
そうか、魅了魔法が暴走して幻覚が見えているのか!
しかもサキュバスの魔晶石、まさか僕が女に見えている!?
まずいまずいまずい、何とか抜けようとするが腰に体重を掛けられているせいでびくともしない。
「さあ、拒まずに…」
べオの顎をヴィトラリーが持ち上げ…そしてーーー
「ソコマデデーーーーース!!!」
「エシュタリエさん!」
「先ノ騒音ノ文句ヲ言イニ来マシタガ…何デスカコノ状況ハ!?」
「魅了魔法の暴走でヴィトラリーさんが幻覚を見てしまっています!
何とか解く方法はーーー
「魅了魔法の解き方はーーーこうだ」
どっがあああん!
雷魔法がヴィトラリーに直撃し奥の壁まで吹っ飛んだ。
紫のマントがはためく、漆黒の髪から突き出す角。
腰に装備された巨大な刀。
「強いショックを与えてやれば自然と目も覚めるものだ。
…さて、インディゴが動けぬ今。
私がお前と行動するというのは自然な成り行きだろう」
「あなたは…誰ですか?ーーーまさか」
「フジ・ミヤトムラ。
この侵略のために外法にて蘇った、ただの犬さ」




