第2章第3話 均衡
「そうか、四大使徒の一角が死んだか。」
法皇国テュラーハート、その街角のカフェ。窓際の円卓を挟んで2人の人間がコーヒーを片手に話をしていた。くすんだ砂色のマントの下には、傷だらけの金の鎧が輝いており、両方が歴戦の強者だと分かる。
窓側に座るのは顔全体に傷が刻まれた壮年の男であった。コーヒーを飲もうと手を動かすたびに、体中から不快な金属音が鳴っている。
その向かいには銅仮面をつけた性別不肖の騎士が座っている。置かれたコーヒーには一切口をつけておらず、匂いを嗅ぐばかりに留めている。
「はっ。しかし天空は依然何の反応も見せておりません。残りの三使徒たちにも目立った動きは無く、強いて言えば暴力がエルドラドの皇兄を誘拐した程度ですが、天空にもエルドラドにも変化はありませんでした。
天秤、深海、大地も沈黙を保ったままでございます。
…いかがいたしますか?我らはとうに準備済みでございます。
あなた様の一声があれば、この国程度、焼き払えまするが…。」
小さく短い声で告げた後、銅の仮面を被った騎士は暗い笑みを貼り付けて剣の柄に手を掛けた。
店内の冒険者はその動作に気づいていない。騎士がその気になればこのカフェは一瞬で血の海になるとも知らず。
「駄目だ、一切の攻撃を禁ずる。ミナフェルが死のうとも、今だに時期尚早なのは明白。天空が抱える戦槍はまだ尽きておらぬ。今は様子見の時期だ、各員にそう伝えたまえ。」
「はっ。了解いたしました。」
それだけを言って、銅仮面の騎士は店を出て行った。
軍靴の声が離れていく音を聞きながら、壮年の男は静かにコーヒーを味わった。
「……む、そうだ。久しぶりにやってみるか。」
そう言って男は懐から四角張ったブリキの箱を取り出した。
慣れぬ手つきで箱を開け、中のカードを円卓に置く。
「スミス・ライダー作のタロット、これを見るのも何十年ぶりだろうか。
さて、ここに秘められし74の運命、誰を占うとしようかね…。」
手袋越しにカードを混ぜ、シャッフルし、並べる。
ーーーインディゴ。誰にも聞こえぬような呟きが自然と唇から漏れていた。
バッ!自然にとった一枚のカード。
「…『運命の車輪』。この停滞した状況を動かす車輪となる、か。ふっ、見物だな。」
微かに笑った後、男はカフェを出て行った。




