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魔王転生~勇者を求めて、魔王は旅をする~  作者: 壱田一
第1章 黄金繁栄帝国/エルドラド
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第1章第24話 Deus erat verbum/神は言葉であった


かって、魔王勇者が台頭する遥か前の時代。

それは戦も何も無く、人と魔族が手を取り合って暮らしていたという。

黄金に熟れた小麦は目を見張るほど美しく、かっての詩人ユーリウスは涙を流しながら詩を詠んだという逸話が残っている。


そしてその黄金の時代に、自立する機械たちを纏めるために作られた4体の(リーダー)

その一つが、傷付けられる痛みを知り、機械同士に生命の温かさを教え、絆を芽生えさせる目的で造られた羽の生えた天使。通称、『醜いアヒルの子』。


ーーーこれが僕の調べた成果です。って聞いてますか、皆さん?」


「お前、戦闘(バト)りながら言う事じゃねーだろ!絶対それ!」


って、また攻撃飛んできた!


うおおおおおおお!?あぶねっ、私の自慢の髪が焦げるところだった!


『醜いアヒルの子』は空を飛行しながら、羽根を傾け、魔力の雷を飛ばす。


私達はスカーレットの血で出来た障壁で防御しつつ、空を飛ぶ奴に対抗策を練っているところだった。


「いやあ、あんな風に飛ばれたらなんも出来んな。俺たちの中に遠距離攻撃持ってんのゴッフェ以外いないし。インディゴとかスカーレットはあんな距離まで届かないだろ?」


「そうですね…オルトロスは消えてしまったし、ゴッフェさんも気絶したままです。塵化は少し収まりましたが…以前、止まってませんね」


「リンネもずっと眠っているわ。…死んでるなんてことは、まさかないでしょうけど。」





終わりなき静寂に閉ざされた精神の淵。

リンネは膝を抱え、虚空に沈んでいた。


今の彼女は、かって存在した神のほんの少しの残滓。

その力はとうに失われ、もはや動く事さえままならない。

座して死を待つだけの彼女の中に、一人の人間が踏み込んだ。


「ふむ…ここが神の精神世界なのか。本来であれば全てを遮断する聖域のはずだが、ここまで素通りできるとは。まっこと興味深いな。」


ゴッフェは顎髭を撫でつけながら、リンネのそばに近づいた。


「運命の神…そなたには、やってもらわぬことがある。そしてそのためには…。」


ゴッフェは自らの心臓を手で抜き取り、リンネに手渡した。


「喰らえ。それがあればもうしばらくは動けるだろう。

しかしお前の優しさ故か、この聖域に死は存在しない。

死の神の手すら跳ね飛ばす、やはり魔法と言うのは奥が深いな。」


「…あ…んた、こんなものを…食えっていう…の?」


「…はっはっは!まだ喋る余裕があったのか!ーーーなあ、神様、お前は運命とやらを理解しているか?」


「・・・・・・。」


「わしが思うにな、全ての命にはそれぞれ定められた使命があり、そして果たすべき役割があるのだ。それこそが運命の意味であり、営みを繰り返し続ける理由。リンネよ、…お前と、わしの番が来たということなのだ。」


「…ちっ、…たかだか、百年生き…た程度…の若造が…運命を語るには、まだまだ…じゃない。」


リンネは心臓を丸呑みし、ゴッフェと向かい合う。


「今のお前ならわしの究極の魔法が使えるだろう。運命を手繰り寄せる灯台、全てに勝利をもたらす光。それがあれば、エルドラドは負けない。託したぞ。」


「…じゃあね。賢者ではない、ただのゴッフェ。」


「うむ、さらばだ。運命の神ではない、ただのリンネよ。」







「師匠、ゴッフェさんが!」


ゴッフェの体が光に包まれ、消えていく。


アッシュが掴もうとした、その時にはすでに、もう、何も残ってはいなかった。


「………くそっ、馬鹿者が、…約束も守らんでからにっ…。」


「ええ、そうね。なんて、馬鹿な子どもなんでしょう。」


「…リンネ?お前、そんなに、なんかすごいオーラ纏っていたか?」


「…光魔法『贖罪の灯火メタトロン・エーレオール』!」


リンネが掲げた指先から、眩い光が溢れ出た。


「aaaaaaaauuuuu???」


『醜いアヒルの子』は首先を傾げ、リンネに向けてバチバチと翼に魔力を集中させた。


刹那。閃光がぶつかる。


『醜いアヒルの子』の胴体に風穴があき、痛みに呻きながら、奇声を上げながら地上へ墜落した。


「…ブリュンヒルデ!」


ブリュンヒルデは純白の翼を大きく広げ、アッシュを一瞬だけ見た後、追撃のために地上へ急降下していった。


「…これが、リンネ(あたし)ゴッフェ(あいつ)の最後の魔法。勝ちなさいよ、

運命、託したから。」


インディゴが振り返ったころにはもう、その小さな人影はどこにも無かった。


「…かたじけない。私たちも行くぞ!」


「はい!」


「ええ!」


「おう!」






「…これが、神なのか?」


影たちは、地上に墜落した『醜いアヒルの子』に武器を構える。


「違うな、そんな矮小なものではない。」


「うむ、だって俺たちは()()事があるからな。あっはっはっは!」


「…笑わんぞ?」


金髪で、黒のコートを身に纏った長身の男に、抉られた眼を細め、愉快そうに笑う男が二人。


「…なんだ、貴様らは。」


「魔王だよ、なあマクフィーン。」


「チッ、同類みたいに呼ぶナ。言っとくが邪魔したら殺すからな。」


「はっはっは、出来るものならやってみろ。」


「ーーーちょっと、そこ危ないぞーーー!!」


轟音と土煙を立て、インディゴは地面に着地した。


「おお、シュバルツにマクフィーン!これで揃ったな!」


スカーレットが血で翼を造り、べオはアッシュを抱えながら地面に降り立った。

そこへ、鴉が群れを造り下降してくる。

鴉たちが一か所に集まったかと思うと、そこには一人の男が立っていた。


「アッシュ様、シュラはここに。」


「うむ、よくぞ来た。」


「さあ…『醜いアヒルの子』よ、最終決戦だ!」













ーーー何故だ。

薄れゆく意識の中で私はそう考えた。


過去など知らぬ、必要など無し。

ペルセウス様に仕える今こそが、至上の、過ぎた幸福。

今の私はペルセウス様の駒。

あの方の忠実な、唯一にして、これ以上ない忠義の徒。

あいつらなどとは、あの3人とは比べ物にはならぬ。

決して。


今の私は神の代行者としての権能を授かった。

故に、この程度の任務など造作もない、ないはずだとっ、いうのに…!

体が削られていく、末端の機能が停止していく。

ふざけるなっ、こんなところで…。

ここで私が死んだらどうなるのだ!?


あの方のっ、ペルセウス様の創世の願いはっ!?

消えゆく意識の中、私は絞り出した。

最後の言葉よ、届いてくれ。


「…ペルセウス…様ぁっ!!!!」







…その声が最後だった。

『醜いアヒルの子』…いや、ルシフェルは塵になって消えていった。

瓦礫で溢れた王都に静寂が満ち、誰もがこれで終わりか、と家の破片に腰かけた。


終わった。


これで後はアンバーからの手紙を…。

……ん?そういえば何か、忘れているような?


「…おい、アッシュ」


「なんだ」


「お前の兄とやらは、どこへ行った?ガーベラとか言っただろ?」


「…言われてみれば、どこにもいなかったな。どうせありもしないでっち上げに忙しくしているんだろう。国の非常時にいったい何を…。」









少し前。いや大分前。

ガーベラはカトリーナを迎えに行くために、南の方へ馬車で出かけていた。

護衛にヂュヂカと数名の精鋭騎士たちを連れて、微かに砂の混ざり始めた大地を、馬車を走らせる。

車体がひゅうひゅうと風を切り、ガーベラは窮屈な椅子に身を沈めて惰性で眠りについていた。

彼が異変に気付くのは早かった。


数秒遅れて馬の叫びが車外に響き、馬から落ちてそのまま馬に頭を蹴られたのか、騎士の悲鳴と鎧の潰れる音が聞こえた。


「なにっ敵襲か!?総員、鉄亀甲の陣!ガーベラ様をお守りせよ!」


ヂュヂカの声が聞こえ、しばらく沈黙が立ち込める。


ーーー刹那。

窓に血が弾け、馬車のドアが開けられた。


「ぬるい、ぬるいの、ガーベラよ。貴様の部下はここまで弱いのか。」


青い肌の大男だ。

猪のような巨大な牙が下顎から飛び出ており、金のペンダントが首からぶら下げられている。


「…青い肌に巨大な牙…お前は、太古に絶滅したはずのウルカディス族か!

貴様、どのような理由で儂を襲った!」


「…俺が教える義理はないが、あえて答えてやろう。

我が名はウルカディス族最強の兵士、クシュリアイオス。我が新たな主殿に全てを捧げる、

戦に生きて謀術に死んだ…亡霊の末路なるぞ。

すなわち我が主、ペルセウス様の命だと言う事だ、ガーベラよ。」


「…っ、ゴッフェぇ!!!早く来ないか!危機時には助けるという契約だったろうが!何をしておる…がっ。」


クシュリアイオスはガーベラの首を掴み、軽々と持ち上げた。


「やかましいぞ爺。貴様のような腐った脳味噌しか取り柄の無い屑は大嫌いだ。

本来の俺ならば即座に握りつぶすところであるが、今の俺はただの駒であり、

任務を命じられた機械である。…くくっ、

であるのならば…招待してやろう、

豪華絢爛、月光陽光に輝き果てぬ、天元の果てにおわすペルセウス様の城、

『マアト・アアル』へと…な。」


クシュリアイオスは背中に純金の翼を生やし、気絶したガーベラを背負って空へ飛び立った。


「…ぐうっ…くそっ、くそっ、くそぉ!!!」


血と臓物と壊れた馬車の残骸の中、ちぎれかけた左腕を抱え、ヂュヂカは大地に叫んだ。


もう、それしかできなかったのだ。















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